未来への記録
レトーリア王国の郊外に建つセレスティレイ宮殿――
ここの主で第七王子ライナスが、執務室のどっしりとした机の革張りの椅子に座っていた。右上の引き出しの鍵穴に小さな鍵を差し込んで回し軽いカチッと言う音を聞いて引き出しを引けば、そこには一冊の手帳といくつかのファイルがきれいに収まっていた。
手帳を取り出し、机に広げて最初のページから見返した。
「もう2年経つのですね」
ソファに座っていた妃アリアが、机の向かい側に立って手帳を覗き込んだ。2年前、ユトレフィス公国から帰国直後に一度消えたアリアの魔力が戻ったが、それを公表しないと決めてからライナス自身が彼女の魔力について書き留めてきた記録だ。
「アリア、座っていたらいいのに。すぐに書き終わるから」
ライナスは慌てて立ち上がり、近くにあった椅子をアリアの方へ持ってきた。
「ふふふ、ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。少しは動いた方がいいと言われていますし、それに座っているのも窮屈なんです」
ふぅっと息を吐いて、アリアは大きなお腹をさすった。ライナスは自分の椅子に腰掛けると、ペンをインク壺に差し入れた。
「医官も助産師も順調だって言ってたな。あと二月もすればいつ生まれてもよくなるって」
ライナスは、医官らから受けた報告内容をサラサラと手帳に書き始めた。
「そんなことまで書くのですか」
アリアはライナスの手元を覗き込みながら感心した。
「ああ、後から何が役に立つかわからないからな。今日も雪を降らせたんんだろう」
ライナスは、アリアのお腹へ話しかけるように言った。アリアもお腹に手を当てて答えた。
「ええ……雪という程ではないんですけど、元気に動くと周りにキラキラと氷の粒が舞うんです…」
「ははは、魔術は遺伝するって本当なんだな」
「………」
「アリア、今からあまり心配し過ぎないで。魔力を持っていることはわかっているんだから、心の準備はできてる。何があっても僕が君達を守るから」
落ち着いたライナスの笑顔に、アリアも表情を緩めて頷いた。
すると、二人の周りにふわふわと白い光が舞い始めた。
「ははは、癒しの魔法も使えるのか。すごいな」
「そうね、心配し過ぎるのはダメね。生まれてきたら、色々教えてあげるわ」
「よし、今日はこれくらいかな」
ライナスはペンを置き、手帳を引き出しにしまうとカチッと鍵を掛けた。
これで『青星の水晶』は完結です。ハッピーエンドまで書き切ることができて、ほっとしています。最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
千雪はな




