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青星の水晶〈下〉  作者: 千雪はな
最終章 魔術が復活した世界で
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13 | 最終話*幸せの魔法

ライナス視点のお話に戻ります

ガチャっと音を立てて礼拝堂の大きな両開きの扉が開かれると、光の束がさっと差し込んできた。その光の中を純白のドレスを(まと)ったアリアが、兄のギルバートにエスコートされて歩き出し、歴史ある礼拝堂の長いバージンロードを一歩ずつ進んだ。


婚礼の儀など兄姉達のを何度も見てきた。今日も大差ないと儀式の流れの説明もよく聞いていなかった。


―――こんな景色だっただろうか


最前列に立ったここから見える礼拝堂の後方など、何の変哲もないもののはずだった。花嫁の入場などいつも同じで退屈、もう少し早く歩けばいいのにとすら思っていたのに。


まるで初めて見たもののように僕はその光景に見入っていた。


言葉が出てこないのは、彼女の美しさによるのか、これまでに超えてきた様々なことを思い出してからなのか。油断したら涙が溢れてきそうで、背筋を伸ばしてグッと気持ちを引き締めた。


ゆっくりと進むアリアは、後方の扉から差し込む陽の光に包まれて、まるで絵画に描かれた女神のようだった。陽の光だけでなく、まるで治癒の魔法を使った時のように淡く白い光を纏っているように見えた。


―――こんなところで魔法を使うわけはないけど…


アリアから溢れるように広がる光が、参列する皆に幸せをもたらすような、そんな気さえした。




アリアとギルバートが目の前まで来たことで、ふと我に返った。


―――いつから僕はロマンチストになったんだろうか


そんなふうに思って笑ってしまいそうになった。


王家の婚礼の儀は厳粛な儀式で、決められた誓いの言葉以外は口にしないことになっている。思わず吹き出したりしたら、司祭に渋い顔をされるだろう。後からしっかりと小言を言われるかもしれない。


ギルバートは、彼の腕に添えられていたアリアの手を取り深くお辞儀をすると、頭を下げたまますっと一歩下がった。そしてアリアは、僕が差し出し手を取った。ハンティントン侯爵家から王家へと嫁ぐこと示す儀式だ。


顔を上げたギルバートの目には光るものがあるように見えた。早くに両親を亡くし、それから大切に守ってきた妹だ。特にあの藍晶石(らんしょうせき)の魔法(ぎょく)の爆発が起こって以降は、心配の連続だっただろう。そんな中、ギルバートは僕を信じてアリアを託してくれた。


―――アリアのことは生涯をかけて大切にする


儀式の最中の今は言葉で伝えられないが、そう心の中で改めた決意したのが伝わったのか、ギルバートは満足そうに頷いて用意された席へと下がっていった。


僕の目の前にはアリアが立っていた。被ったヴェールから透けて見える表情は緊張しているようだった。思えば、社交界にデビューしてまだ間もないのだから、このような国賓が列席する儀式に一番の注目を集める立場になるだなんて、重圧に押しつぶされる思いだろう。そんな彼女も愛しく思えた。


アリアの手を僕の腕に添えるよう導くと、その甲を指先でトントンと小さく叩いた。俯き気味だったアリアが僕を見上げてヴェール越しに目が合ったのを見て、僕はウインクした。


アリアが驚いて目を丸くした。


《ライナス様、儀式中にそんなこと…!》


声を出していいなら、そう言ってるだろう表情に僕は笑いを(こら)えた。


これまで数々の儀式や式典の間、いかに怒られないように持て余す時間をやり過ごそうか考えてきた。役に立つ時がこんなふうにくるとは。


―――大丈夫。司祭からは見えないようにやってるから


僕はアリアを(なだ)めるように手の甲をそっと撫でてやった。するとアリアは抗議するように僕の腕をキュッとつねってきた。もちろんアリアの力では痛いことなんてないが。




二人で祭壇の前に立つと司祭が儀式を進めた。横目でアリアを見れば、すっかり落ち着いた様子で僕の視線に応えた。


いつもなら聞き流している司祭の言葉を一つ一つ心に刻むように聞き、気持ちを込めて誓いの言葉を口にした。この儀式を経てアリアと正式に夫婦となる実感が沸々と湧いていた。



 ◇ ・ ◇ ・ ◇



礼拝堂をアリアと並んで出ると、外で待っていた民衆達の歓声が上がった。


淡い水色の花が満開に咲いた木からは無数の花びらが舞い、僕達の門出を祝福してくれているようだった。

いつも読んでくださる皆様、ありがとうございます。

思っていたより長いお話となりましたが、ようやくハッピーエンドとなりました。あと一話、エピローグで完結となります。最後までお付き合いいただけましたら嬉しいです。

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