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青星の水晶〈下〉  作者: 千雪はな
最終章 魔術が復活した世界で
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08 | 熱

「はぁ…」


僕は書類から空席の机へと目線を移し、ため息を吐いた。


王都のセレスティレイ宮殿に戻り、二日が経っていた。ユトレフィスへの訪問は、当初の予定から大幅に延びて半月以上となり、溜まった書類は山のように積まれていた。


―――いけない。しっかりしなければ


背筋を伸ばし、手元へと意識を戻した。


空いているのはアリアの席だ。書類を読み、ペンを走らせながらも、どうしても彼女のことを考えていた。



ユトレフィス国境からこの宮殿まで、アリアの不安を理由に護衛を増やし、僕は影武者をたてることなく帰ってきた。アリアの体調を考えれば、往路よりも日数を増やして移動をしたかったが、僕の予定がそれを許さなかった。


アリアだけどこかで静養をしてから王都へ戻ることも検討されたが……




___『私は大丈夫ですから、ライナス様と一緒に帰りたいです』


アリアがそう言ったこともあるが、僕も彼女を他所に置いて帰ることはできれば避けたかった。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


帰路の最終日、きれいに整備された道を滑らかに走る馬車の揺れが心地よく、僕はいつの間にか眠っていた。ふと目を開けると、向かいのアリアは窓の外を見ていた。


『アリア』


『………』


『…アリア?』


彼女の名を呼んだが返事はなく、気づいていないようだ。車輪の音にかき消されただろうかとも思ったが、少し違うように思った。窓の外を向いている目はどこか(うつ)ろだった。


僕は静かに向かいの席に移った。


隣に座った僕に気づいて、アリアは驚いてこちらを向いた。僕は彼女の額に手を当てた。


『やっぱり…』


アリアは魔力がなくなり普通の体温に戻っていた。体温が低い僕にとっては、彼女の体温は普段から熱く感じるが、手のひらに伝わるその熱は明らかに高かった。


『ごめんなさい』


アリアは視線を落とし、小さな声で謝った。熱があることに自分で気づいていたが、隠そうとしていたのだろう。僕は彼女をそっと抱き寄せた。


『謝らないでくれ。僕が無理をさせているんだから』


今朝、第二王子一家が住まうリトレスの離宮で兄上らに挨拶をする時から少し顔色が悪い気はしたが、王都まで戻って休めばいいと出発を押し切ってしまったのだった。


腕の中のアリアの熱を感じながら外を見ると、今日の行程の三分の一程の所を走っているのがわかった。


『リトレスに戻ろうか?』


僕の問いかけに、アリアはパッと顔を上げるとその瞳はウルウルと潤んだ。唇をキュッと噛み、泣くのを堪えているようだった。


僕がリトレスに戻れと言えば、それに従わなければと考えているのだろう。彼女の体調を思えばその方がいいのかもしれない。でも……、


『アリア、このまま王都へ向かってもいいだろうか。休憩を増やすから、遅い時間になるだろうが、今日のうちにはセレスティレイに着けると思う』


彼女と離れることに僕が耐えられそうになく、我儘を口にしていた。


アリアの表情が緩み頷くと、安心したように僕の腕に体を預けてくれた___




そう、僕の我儘で無理をさせた。アリアもそれを望んでくれていたのだろうが。


ここセレスティレイ宮殿に戻って二日経つが、まだ熱は下がっていなかった。診察した医官によると、疲労による発熱だろうと言うが、ユトレフィスでの出来事を思い出すとどうしても不安になった。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


途切れ途切れになりながらもなんとか集中をして今日の書類を片付けた頃には、窓の外はすっかり暗くなっていた。


執務室から自室に戻る前にアリアの部屋に立ち寄った。静かに出迎えてくれたエレンの様子から、アリアの容体に特に変わりがないことが伝わってきた。


「アリアは?」


「少し前には一度目を覚まされたのですが、また眠っていらっしゃいます」


「そうか」


僕は、寝台に眠るアリアの傍らに立つと、その額に手を乗せた。その手に伝わる熱は、帰りの馬車の中で確認したときと変わらず高いままだった。


何日も続く熱に心配になる一方で、時々眉を(しか)める表情や苦しそうな息遣いに、アリアがここにいる実感を持っていることに気づき、複雑な気持ちになった。



僕は寝台の横の椅子に腰掛け、そっとアリアの手を取った。


―――この熱を下げてあげられないだろうか


自分の中の僅かな魔力を感じながら、彼女の熱い手を両手で包んだ。

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