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青星の水晶〈下〉  作者: 千雪はな
第1章 見えない敵
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05 | 真剣な横顔

僕は古代魔術語で書かれた資料を持って宮殿内の書庫に来ていた。アリアもこの後、ここに来てくれる予定だ。


書庫には古代魔術史の書籍や古い資料、そして様々な年代の古代魔術語の辞書が納められている。それがここに来た一番の目的だが、執務室にいては急な面会や、追加の承認を求めて直接書類を持ち込まれることがあるから、それらから逃げたとも言える。


せっかくアリアと過ごせる時間を作ったんだ。邪魔はされたくない。



古い書籍が傷まないよう直射日光が差し込まない北向きの大きな窓の近くには、革張りの肘付きソファが二脚、窓の外の庭を向き、小さなテーブルを挟んで並んでいた。その向こうの壁には年代を感じさせる煉瓦造りの暖炉が。そして、窓から少し離れて天井まで届く本棚が何列も並んでいた。


僕は持ってきた書類をソファ横のテーブルに置くと、古代魔術に関する棚へと向かい、辞書と古い地図、そして黒魔術に関する本を数冊を手に取った。


「ライナス様、お待たせしました」


その声に振り返ると、アリアが本棚の向こうから歩いてきた。


「僕も今来たところだ。アリアこそ忙しいのにわざわざ悪かったね」


「いいえ、ライナス様と過ごす時間が増えて嬉しいです」


にこっと笑う彼女の肩を抱き寄せ、額にキスをした。僕が顔を上げるともう一度微笑み、それから僕の手に古い書籍しかないことに首を傾げた。


「新しく届いた古代魔術語の資料があると伺ったのですが……」


「ああ、そうなんだ。資料は向こうに置いてある」


僕はソファの方を見て、アリアの疑問に答えた。二人でソファへと歩き、その一つへ彼女を座るよう促すと、僕もその隣に座った。



アリアはテーブルに置いていた資料を手に取った。


「これですね」


「ああ、黒魔術結社に関係がありそうな言葉が書かれているものを持ってきたんだが、内容までは……。関係ないものが混ざっていたらすまない」


「いえ………、ほとんどの資料に黒魔術結社のことが書かれていそうです」


資料をパラパラとめくりながら、確認した資料を机の上に重ねた。


そして「これだけ……ですね」と、一つだけ――一番分厚い束は重ねた資料の横に置かれた。見当違いなものを持ってきてしまっただろうか。


「その資料は関係なかったかな」


「えっ?」


僕の言葉が意外だったような顔をしてこちらを見た。


「魔法陣やら、よくわからない記号がたくさん書いてあるだろう。黒魔術結社の資料にもそういったものが時々書かれているから怪しいと思ったんだが…」


「全く関係ないという訳ではないです。この資料も黒魔術について書かれているものだと思います。ただ、黒魔術結社が作られるよりもかなり前に書かれたものかと…」


「そんなことがわかるのか?」


「ええ、他のは黒魔術結社について書かれているのですが、これだけはわからない単語が多くて辞書がないと読めそうになくて___」

「他のは辞書なしで読めるのか⁈」


アリアと資料を確認するのに必要だと思って古代魔術語の辞書や参考になりそうな書籍を用意していた。そこまで読めるようになっていたなんて思っていなかったから、思わず口を挟んでしまった。


「あ、すまない。続けてくれ」


アリアは微笑みながら「はい」と頷き続きを話し始めた。


「この資料だけ年代の違う古代語で書かれているのです。細かなところは辞書で調べないとわからないのですが、黒魔術が確立された頃に、その使い方をまとめたものだと思われます」


「なるほど。一つだけ年代の古い資料が混ざっていたのか」


少し確認しただけで、そう判断ができることに感心していた。やはり古代魔術語の資料の確認はアリアに任せるのが良さそうだ。


「今は黒魔術結社について知りたいから、関係のある資料を優先して訳して内容を教えてくれるか?もちろん、無理のないように」


「はい、少しずつでもわかったことからお伝えするようにしますね」


「ああ、それで構わない。じゃあ、これは持ち帰るよ」


僕は古い魔術語の資料を手に取った。すると、アリアが「あっ」と声を上げた。


「ん、どうした?」


「あの、その資料もお預かりしてよろしいでしょうか」


「ああ、構わないが。でも、黒魔術結社とは時代が違うのだろう?」


「そうなのですが、黒魔術に関しては参考になりそうなので手元に置いておきたいと思いまして」


確かに黒魔術についてはあまり研究が進んでおらず、わかっていないことが多い。僕は黒魔術はよくわからないものと済ましてしまっていたが、アリアは調べて理解しようとしていた。


「それなら、これはアリアに渡しておこう」


アリアの探究心に感心しながら資料を手渡した。「ありがとうございます」とそれを受け取ると、早速中身を確認した。そして他の資料も並べて気になる記述があったのか真剣な顔で読み進めていった。


集中した様子に、僕は声を掛けられずにただ見ていた。



パチパチと薪の()ぜる音が静かな書庫に響いていた。徐々に日が落ちて薄暗くなってきた室内で、暖炉の火の暖かさを感じながら、テーブルの上に灯されたランプの揺らめく明かりに照らされるアリアの横顔を見つめていた。


言葉を交わさずとも退屈ではなかった。


―――こんな時間も悪くはないな。


僕が隣に座っていることをすっかり忘れていそうだ。いつ気づいてくれるだろうか、気づいた時には慌てるだろうか……


難しい資料を読み解いているアリアには悪いが、僕はソファの肘置きに頬杖をつきながらくだらないことを考えて楽しんでいた。

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