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青星の水晶〈下〉  作者: 千雪はな
最終章 魔術が復活した世界で
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04 | 優しさに触れて(前編)

『優しさに触れて』は、アリア視点のお話です。

話はその日の早朝まで遡り___


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


目を覚ますと、部屋はまだ暗かった。カーテンの隙間から明かりが漏れていないから、まだ夜が明けていないのでしょう。もう一度眠ろうと目を瞑った。




―――眠れないわ…


何度か寝返りを打っても眠気はおこらず、反対に目が冴えてきてしまった。


―――今、護衛は兄様かしら


私はそっと寝台を抜け出し、柔らかな室内履きに足を入れた。


今日は夜中のうちにケインから兄様に交代する予定だと聞いていた。今、何時間なのかわからないけれど、もう交代しているような気がして、私は前室への扉へと向かった。




カチャッと扉の掛け金が立てた小さな音に振り返ったのは、兄様だった。


「ああ、アリア。どうかしたのか?」


その昔から私に向けられる優しい表情にホッとした。他に人がいる時は、どうしても護衛騎士として厳しい顔になる。それが私は寂しく感じていたのかもしれない。


「何もないのだけど…」


少しだけ開けた扉に隠れるようにしてモゴモゴと喋った。それを見た兄様は、ふっと笑ってこちらに歩いてきた。


「眠れないのか?怖い夢でも見たか?」


「そんな、小さな子供のように言わないでくださいませ」


そう言って頬を膨らませた自分は、子供扱いされて当然だと気づき、顔を逸らした。


「ははは、少し話そうか。ここでいいか?」


兄様は前室に置いてあるソファへと目を向けた。壁際に一人掛けのソファが二脚、小さな丸テーブルを挟んで並んでいた。


「いえ、部屋の方でもいいかしら」


前室も小さなストーブが置いてあるが、少しひんやりしていた。ここで護衛のために待機してくれていると思うと、兄様にもケインにも改めて感謝の気持ちが湧いてきた。それを兄様に言えば、『それが仕事だ』と平然と言うのでしょうけれど。


「ああ、そうだな。ここはお前には少し寒いな。せっかく熱が下がったところだしな…」


そう言いながら、兄様は部屋を見回して何か探していた。



「…アリア様?」


部屋の奥の扉から、エレンが顔を出した。私達の足音や話し声で起こしてしまったようだ。


「兄様と少し話したいから、あなたはまだ休んでいていいわ」


私の言葉に「それでは失礼いたします」と頭を下げかけたエレンに、兄様が声を掛けた。


「エレン、アリアの肩掛けはあるだろうか」


「はい、こちらに」


寝台横のキャビネットから、さっと淡いベージュの肩掛けを取り出して兄様に手渡した。


「ありがとう。すまないが、何か温かい飲み物も頼めるか?」


「かしこまりました。すぐにご用意いたします」


エレンが静かに部屋を出ていくと、兄様は私を肩掛けでふわっと包み、暖炉に一番近いソファに座るよう促した。そして暖炉に薪を足して、私の向かいに座った。


「それで?」


兄様は私の話したいことなどお見通しな顔で待っていた。話したいというより、何か聞きたいことがあるということも見透かされているようだった。


「………」


私は何から聞いたらいいか、すぐには言葉が見つからなかった。


「殿下のことか?」


兄様の問いかけに私は頷いた。


殿下のこと――ライナス様のことは私の前では普段は愛称で呼んでいる兄様が殿()()と聞いたのは、この話が彼の幼馴染ではなく、私の婚約者であるライナス王子に関することだと私に意識させるためでしょう。


婚約者として、ライナス様をお支えしなければいけないのに…


「私、ライナス様のご負担になっていないでしょうか」


「なぜ、そんなふうに思うんだ?」


兄様は眉をひそめた。


「だって……私が倒れてライナス様にご心配を掛けたことはわかっているのです。でも、それにしては心配し過ぎというか…」


「心配し過ぎとは?」


「ライナス様は、以前からお優しくて、何かあれば守ってくださってきたから、最初は私を心配してくださることに違和感はなかったのですが…、少し(うつむ)いていたり、立ち止まったりしただけで慌てて私に異変がないかと聞かれるんです。もう体調は問題ないと何度もお伝えしているのに…」


「…まぁ、それは……仕方がないだろうな」


兄様は歯切れが悪かった。何かを隠している。


「兄様、私が目覚めるまでに何があったのですか。ライナス様が過度に心配される理由があるのでしょう?」


問いただす私の顔をじっと見てから、兄様はふっと笑った。


「それは殿下に自分で聞きなさい」



―――さっき歯切れが悪かったのはわざとだったのね


私が心の中に溜め込んだモヤモヤを吐き出させて、でもその答えは自分で確かめろと言う。


「兄様のイジワル」


再び頬を膨らませて恨めしく睨んで、やっぱり私は子供だ。なんだか悔しくて、ふいっとそっぽを向いた。


「ははは、俺は意地悪しているつもりはないんだけどなぁ」


「………」


揶揄(からか)われて拗ねてみせたが、兄様と話して、確かに心が軽くなっていた。




エレンがティーセットを乗せたワゴンを押して帰ってくると、兄様は立ち上がった。


「アリア、お茶を飲んで暖まったらもう少し休みなさい。眠れなくてもいいから寝台で横になるんだ。いいね」


最後まで小さな子供を諭すように兄様が話すから、私は思わず笑ってしまった。


「わかったわ、兄様。ありがとう」


兄様は満足そうに微笑むと、静かに部屋を出ていった。




穏やかな香りのハーブティーを飲んで、体の内側から温かさを感じながら寝台に横になった。


―――ライナス様に何があったのか聞いたら答えてくださるかしら…


朝食後にでも時間を取っていただけるかしら、何からお話ししたらいいかしらと考えるうちに、いつの間にか瞼が重くなっていた。


久しぶりの更新となりましたが、お読みいただきありがとうございます。少し戻って、アリア視点で振り返りつつ先にお話を進めたいと思います。お楽しみいただけますたら嬉しいです。


千雪はな

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