11 | 愛しい人の腕の中(後編)
『愛しい人の腕の中』はアリア視点のお話です。
私を抱きしめたライナス様は大きく息を吐き、私の頭に頬を寄せた。安堵したようにも感じるが、その腕は小刻みに震えていた。
「もう目覚めないかと…」
頭の上から、本当に小さな声で漏れ出た言葉が耳をかすめた。
それほどまでに心配を掛けてしまったのかと、心が痛くなった。私は、ライナス様の腕の中で顔を上げた。
薄暗くてよく見えないけれど、その瞳は潤んでいるようにも見えた。
「ライナス様…」
まだ少し掠れてはいるが、声が出たことに私はほっとした。ライナス様の瞳は、見つめるうちに益々潤んできた。
「すまない…」
ライナス様は涙を見せまいと、ふいっと顔を逸らした。
私は彼に手を伸ばした。
少しひんやりする頬に手のひらを添えた。心配を掛けたことを謝ろうと思ったが、それより先に、ライナス様が驚いた様子で私に顔を近づけてきた。
口付けをされるのかと胸がドキンと鳴って目を瞑ったが、コツンと額同士が触れ合った。
「アリア、熱があるじゃないか」
そう言うと、ライナス様はさっと私を抱き上げて寝台へと寝かせてくれた。上掛けを首元までしっかりと掛けてくださり、ご自分のマントまで外して私に掛けてくれた。
広い寝台の端の方に寝かされたせいで、ライナス様の顔がとても近く感じた。
「寒くないか?」
「はい」
ライナス様は寝台の傍に置いてあった丸椅子に腰掛けて、私の右手を握りながら、もう一方の手を私の頬に添えた。
「よかった…」
安堵のため息と共にそう呟きながら、ライナス様は何度も私の頬を、そして髪を撫でた。前髪を横へと流した指が優しく滑るように髪先までくると、その手にした髪を持ち上げて口付けた。
私に向けられる眼差しはとても優しく、胸が温かくなる一方で、ライナス様がそんな表情をされる理由が気になった。
「ああ、本当によかった…」
その声は震えないように気を張っているようにも聞こえた。
「ライナス様…?」
私が呼び掛けると、ライナス様は座ったまま頭を寝台の上に乗せた。寝台の端の方で横になっている私の視界は、ライナス様の微笑む顔でいっぱいになった。
「アリア、詳しいことはこの熱が下がったら話してあげるよ。だから今はおやすみ」
そう言ってライナス様は私の額に優しく口付けた。
目を開けると、ライナス様が私を見つめながら微笑んでいた。髪を撫でていた手は、肩を摩り、背中を優しく叩いた。トン、トン、トンと叩く一定のリズムはとても心地よい。でも、鼻と鼻が触れそうな距離にドキドキして、すぐには眠れそうになかった。
「アリア……、よかっ…た…」
そう呟くライナス様の瞼がゆっくりと閉じていく。やがて背中を叩いていた手も止まった。
おそらく、私が倒れてからずっと心配してくださっていたのでしょう。
―――私はつい数刻前に倒れたように思っているど、本当は何日も経っているのかしら…
もしそうなら、ライナス様は今日までどれだけ心配してくださったことか。相当に疲れていらっしゃるはず。椅子に座ったまま頭を寝台に乗せたとても窮屈そうな姿勢なのに、あっという間に眠りに落ちてしまうのだから。
私は繋いでいる手をそっと自分の方へ引き寄せた。眠って力の抜けたライナス様の手のひらに頬を乗せると、ひんやりとした大きな手が、私の不安を熱と共に取り去ってくださるようだった。




