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青星の水晶〈下〉  作者: 千雪はな
第1章 見えない敵
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04 | 古代魔術の資料

僕の左前のアリアの机には、古い文字や記号を組み合わせたような図がびっしりと書かれた紙がいくつもの束にして積まれていた。


王立アカデミーから届けられた古代魔術に関する発掘資料を書き写した物だ。


アカデミー内でも翻訳作業をしているが、数週間から長いと数ヶ月以上かかる。アリアは研究官と同じくらい翻訳ができるので、我々が必要な部分に絞った確認が少しでも早く行えるよう翻訳前の資料も届けてもらっていた。彼女曰く、文章の意味が自然に入ってくることがあるらしく、魔力が何らかの影響を与えているのだろうと思われた。


しかし、ユトレフィス公国の公子を迎える準備を始めてから僕の補佐からは一時外れているため、アリアの机に届けられた資料が小さな山を作っていた。



僕の承認が必要な書類確認にひと区切りついたところでふと顔を上げると、アリアの机の上の資料に描かれている絵が目に入った。席を立って一番上に置かれていた書類を手に取った。そこには文章の合間に黒い鳥が描かれていた。鋭い爪とかぎ状に曲がった嘴まで真っ黒な不気味な雰囲気の鳥だ。


「黒魔術結社か…」


書類を整理していたチェスターも、僕が呟いたその名称に反応して僕の隣まで歩いてきた。


「新しい情報ですか?」


「内容はわからない」


「やはりアリア様に見ていただかないといけないでしょうか」


「はぁ…そうだな。アリアも忙しいんだが…」


僕も多少は訳せるが、時間がかかる上に正確かどうか自信がない。絵本の翻訳とは訳が違う。


かと言って、アカデミーの研究官に翻訳を依頼するのも躊躇(ためら)われた。どこにまた間諜(スパイ)がいるとも知れず、僕らが何を探っているのかを安易に外へ出すのは避けたい。


《黒魔術結社》――正しい名称は知らないが、古代魔術語で書かれたその名称をアリアがそう訳した。古代魔術師が活躍した時代からある集団で、現代もユトレフィス公国内のどこかに本部があるらしい。アリアを攫おうとしたのも、この集団である可能性が高いことまでは辿り着いていた。


―――アリアには悪いが、これも頼むしかないか……


手にした書類をパラパラとめくった。内容はわからないが、アリアに教えてもらった結社の記述によく出てくる単語がいくつか含まれていた。残りの書類も空いた方の手でめくり、その単語があれば手元の書類に重ねた。


トントンと重ねた書類を揃えると、それなりの厚みになっていた。これが現代語で書かれていればすぐに読み終わるが、古代魔術語から訳すとなると大変だろう。


とはいえ、翻訳に関して僕ができることはほとんどない。別のことでアリアの負担を軽くできないかを考えよう。


「今日の書類は、どれくらい残っているだろうか」


隣に立つチェスターに聞くと、「そうですね…」と自身の机へと戻り、何束かの書類を手に取った。


「あと五件ですね。残りは明日以降で大丈夫です」


「そうか。さっさと終わらせてしまおう」


―――予定していた夕食よりも早くアリアと過ごすことができそうだ。


終わりが見えると、やる気が出てきた。しかし、彼女の仕事を増やすと思うと申し訳なさも感じた。



古代魔術語の書類の翻訳をアリアにお願いする代わりに、ユトレフィス公子の訪問や婚姻の儀に向けた準備で僕が手を貸すことができることがないだろうか。


目の前の書類を捌きながら、頭の中ではそんなことばかり考えていた。

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