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青星の水晶〈下〉  作者: 千雪はな
第6章 愛しい人をこの手に
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08 | 因縁を断つ炎

青星(せいせい)(れき)…ですか?」


裏表紙を引きちぎった本、それがデイル・バルトリーの物だと知っていたのかとスコットに聞かれ、僕は、《青星の暦》と書かれていたことが引っ掛かっていたと答えると、彼はピンとこない様子で首を傾げた。


「あれが書かれた時代、日付に《青星の暦》と毎回付けたのだろうか」


「それは………」


スコットは黙って記憶を辿り出した。


《青星の暦》――それは有史以来、記録に残っている名称が付けられた唯一の暦だ。


「私が知る限りだが、わざわざ《青星の暦》と付けることは滅多にないだろう。公文書ですら書かれていない。それをあの本には毎回《青星の暦》と書かれていたから気になったんだ」


「確かに仰る通りですね」


「貴殿は、まだあの本の中を見ていなかったのだろうか」


「はい、アリア様の魔法陣の制作を先にと思いまして、お借りしていた資料は一部しか拝見しておりませんでした」


「そうだったな。魔法陣はかなり無理して急がせたようで申し訳なかった」


「とんでもございません。お役に立てたのであれば、光栄でございます。


アリア様に掛けられた呪いが、あの重ねて描かれた魔法陣であれば、魂は我々が用意した魔法陣で戻されているはずです。あとは目覚めを阻害している鍵を――」


「ああ、これを燃やせば……」


視線を落とすと、デイル・バルトリーの紋章は風化した革と共にひび割れていた。


―――こんな状態でも解呪を妨害する力が残っているのか。でも、もしこれではなく、紋章が刻まれたものが他にもあればまた振り出しに………


「室長、薪の準備ができました」


考えるうちに気持ちが沈んでいつのまにか黙り込んでいたが、調査員の一人の呼び掛ける声に僕はハッと顔を上げた。


「ありがとう。ではライナス様、そちらをお預かりします」


「ああ」


僕は裏表紙と鍵と書かれたページをスコットに手渡した。





スコットは薪の隙間に裏表紙と紙をぐっと差し込むと、種火を手にした調査員に頷いた。


細い枝がパチパチと乾いた音を立てて燃え始め、徐々にその上に組まれた太い薪の表皮が少しずつ焦げ始めた。やがて薪自体からも煙と共に赤い炎が上がり始めた。


薪を伝って炎が広がり、裏表紙まで届いた瞬間――ボワッと青白い火柱が立った。


「おおっ!」

「うわっ!」

「熱っ!!」


僕らは一歩後退(あとずさ)った。


火柱はすぐに収まり、炎は普通の焚き火の大きさになったが、その炎の色は青白いままだった。


炎の中の紙はすぐに端から黒くなり、ボロボロと崩れていった。裏表紙は、高熱の中で身を(よじ)るように捻じ曲がりながら燃えていた。


その異様な光景は、やはりデイル・バルトリーの怨念が成すものとしか思えなかった。




「炎の色が…」


紙も裏表紙も燃え尽きるとともに、炎の色は暖かみのある赤橙に戻っていた。


スコットは火箸でまだ燃えている薪を崩して確認した。ほとんどのものが灰になっていた。裏表紙だった黒く焦げた小さな板状の塊も、火箸で(つつ)くと容易(たや)くぼろっと崩れた。


「これで…終わったんだろうか……」


そう言葉が僕の口から(こぼ)れた。


―――アリアはどうしているだろうか。何か変化があるだろうか


解呪を阻害していると思われるものが燃え尽きたのを見届けた今、アリアの様子が気になった。しかし、この季節に使われていない焚き火をわざわざ用意してもらったのに、我先にこの場を離れていいものかと足が動かずにいた。


「…ライナス様、ここの後処理は私共で行いますから、アリア様のご様子を」


スコットが心配そうに僕に宮殿内へと戻るよう促した。僕は余程不安そうな顔をしているのだろうか。


「すまない…いや、ありがとう」


僕は礼を言うと、宮殿の裏口の扉へと走り出した。

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