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青星の水晶〈下〉  作者: 千雪はな
第6章 愛しい人をこの手に
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06 | 呪詛の元(前編)

歩いてきた勢いで扉を開けて入室したい気持ちを抑えて立ち止まり、魔術調査室の扉を叩いた。


ふぅっと息を吐くのと同時に扉が開き、僕は姿勢を正した。「はーい」と少し間の抜けた返事が聞こえ、いつも扉近くの席に座っている若い調査員が顔を出した。


「すまない。約束をしていないのだが…」


「あっ、ライナス様。室長ですね。すぐにお呼びいたします!」


そう言ってピンと背筋を伸ばした彼は、急いで部屋の奥へと歩いていった。





「ライナス様、お待たせいたしました。どうかされましたか?」


スコットが慌てて部屋の奥から出てきて、僕らを出迎えた。


「約束もせず訪ねてきて申し訳ない。見てもらいたいものがあるのだが」


「いえ、構いません。では、こちらに」


僕は焦りを隠せていなかったようだ。スコットはすぐに僕らを部屋へと招き入れた。空いていた作業用の大きめの机で、僕はファイルを開いた。


「これを見てほしいんだ…」


赤でなぞった魔法陣と《魂を抜き去る》魔法陣が単体で描かれた紙を並べて置いた。


「ああ、やはり二つの魔法陣を重ねたものだったのですね。この複雑な線の中から、よく気づかれましたね」


スコットは感心した様子で二つの魔法陣を見比べながら「もう一つは何の…」と首を(かし)げた。


「デイル・バルトリーの紋章じゃないだろうか」


一応尋ねるようにそう言ったが、僕は憎き太古の魔術師の紋章であると確信していた。僕の言葉で、スコットにもその紋章が見えたようだ。


「デッ…⁈ああ!…ニ、ニール!この間、君が読んでた本を見せてくれ!」


「えぇ?どの本のことですか⁈」


急に声を掛けられた魔術調査員の一人、ニールは慌てて顔を上げた。彼の机の上には、魔法陣に関すると思われる資料の紙束と本が山のように積まれていた。


「ほら、魔法陣と術者の紋章を重ねることもあるんですね、と話してたじゃないか」


「ああ!それなら、これ……じゃない、あっ、これですね」


ニールは本の山を崩しながら一冊取り出した。そして、そのくすんだえんじ色の表紙の本をスコットへと差し出した。


スコットは「ありがとう」と本を受け取ると、僕の方へ向き直った。


「彼から話を聞いた時は、そんなこともあるのかと思っただけで詳しくは読まなかったのですが……」


僕は鼓動が大きく鳴るのを感じていた。


期待してはいけないと、これ以上失望したくはないと思うながらも、今度こそアリアが目覚める方法が見つかるのではと思わずにはいられなかった。


「この記述です」


机の上に広げられた本は、幸いにも僕にも読める現代語で書かれていた。




そこに書かれていたのは――《魔法陣と魔力を持つ術者の紋章を重ね合わせると、より強固に魔術を掛けることができる。魔法陣に対する解呪を行っても、術者が定めた鍵が存在する限り、その魔術が解けることはない》


「鍵…」


鍵とは何だろうか。そう聞こうとしたが、机に歩み寄ってきていたニールが僕の疑問に答えた。


「鍵とは術者が定めるもので、鍵となる模様とその思いを込めた言葉が綴られていれば、形式は様々です。呪詛状のように一枚の紙であったり、日記のように数頁にわたるもの。或いは、石板や扉など、紙以外に書かれたり、彫り込まれたりしたものもありました」


彼の説明を聞きながら、僕は黒魔術結社のあの建物に刻まれていた壁や扉枠などにあの紋章を思い出していた。


「旧首都にあるのだろうか…」


「殿下っ、転移はおやめください!」


僕が呟いた言葉に、護衛として控えていたロバートが慌てて口を挟んだ。


「ああ、ポートが脆くなっているからな。転移したくても、もう割れてしまっているから無理だしな」


「他のポートでも駄目です」


今朝、彼に転移は()めるよう言われたばかりなのを思い出した。そんなに怖い顔をしなくてもわかっているのにと思ったら、ふっと笑いが漏れてしまった。


「笑い事ではございません」


「ああ、すまない。転移は使わない。日数は掛かるが、ブルック殿に調べてもらうよう依頼を送らないといけないか…」


鍵と断定できるものがあれば、それを壊してもらいたい。しかし、ユトレフィス公国として調査や保存の対象であれば、すぐには壊してもらえないだろう。


「はぁ……」


簡単には現地へ駆けつけられないもどかしさに、僕は机に手をついて大きなため息を吐いた。




「あの、ライナス様…」


落ち込む僕に遠慮がちにニールが声を掛けてきた。僕は顔を上げた。


「ああ、何か」


「鍵は、術者本人が定めるものです。黒魔術結社が作る魔法陣は全てデイル・バルトリーが考案したものだとされていますので、鍵も彼自身が書いた必要があります」


「……?」


僕は、ニールが言わんとすることがわからずにいた。


「旧首都は、デイル没後に作られた街です」


「そうか!では、あの建物の紋章はデイルが刻んだものではないということか」


「はい。デイルが書いたものを建物に埋め込んだ可能性も否定しきれませんが、何か他の彼自身が書いた文書や手記などの方があり得るかと…」


ニールの言葉で気づいた。この国はユトレフィス一族が移り住んで作った国だ。デイル・バルトリーは生涯のほとんどをレトーリア(我が国)で過ごしたはずだ。ならば、彼が遺した鍵はレトーリアにある可能性が高い。


アリアが鍵のせいで目覚めないのなら、その鍵はまだ何処かに存在するということだ。


記憶を辿りながら、まだ見つかっていない可能性が(よぎ)り、不安になった。


だがその時、旧首都の黒魔術結社の建物に刻まれた紋章を見たときに、何処かで見たような気がしたのを思い出した。確かに、何処かで見たはずだ。


何処で……


アカデミーの発掘資料の中だろうか。


僕への報告書に描かれていたのだろうか。


呪詛状なんてあっただろうか。


僕はこれまでに見た資料や書類を必死に思い返した。


呪詛状でないなら、石板や木の板かもしれない。それとも日記とか―――



「あっ…、青星(せいせい)(れき)……」

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