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青星の水晶〈下〉  作者: 千雪はな
第6章 愛しい人をこの手に
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03 | 魔法陣に祈りを(後編)

アリアが眠る寝台の横で、魔術調査室長のスコットから解呪のための魔法陣が差し出された。


「これをここに置いて__」


魔法陣をアリアの胸元に置き、僕は上着のポケットから懐中時計を取り出した。手のひらの上に乗せたそれをじっと見つめながら、ぐっと奥歯を噛み締めた。思わず口から溢れそうな不安をぐっと押し込めるように。


蓋の中央に埋め込まれた石の中には、小さな真珠のような玉が光っていた。


「__そしてこの時計を上に…」


「はい、その通りです」


魔法陣の中央に置いた時計を見て、スコットも頷いた。


そして不安か緊張か、自分では説明のつかない感情で僅かに震える手を魔法陣の上にかざした。


目を閉じて気持ちを落ち着け、自分の魔力に集中する。自分の――といっても、元はアリアが分けてくれた魔力だ。残り少なくなったこの魔力でアリアを取り戻さなければ。


「ふぅ………」


揺れる気持ちを息を吐いて鎮める。手のひらに魔力を集めると、足元に静かに冷気が流れるのがわかった。


部屋は静寂に包まれていた。


僕は目を開けると、できるだけ優しく魔力を放った。


魔法陣が僕の魔力に反応してわずかに光り、それは中央の懐中時計を包んだ。時計の蓋に埋め込まれた石から、小さな光の粒がふわりと浮き上がった。


事前に聞いていた通りのことが目の前で起こっていることに僕の鼓動は早くなっていた。思わず力が入って放つ魔力が強くなりそうなのをぐっと(こら)えた。


―――そっと、優しく…


僕の希望の光ともいえる小さな粒を吹き飛ばすことがないように、優しく魔力を注ぎ続けた。浮き上がったその粒はゆっくりと降りていくと、アリアの体へと吸い込まれた。


アリアの体が淡い光に包まれた。


周りの者達も息を呑む気配を感じながら、僕はアリアを見つめた。


柔らかな光は、徐々に彼女に馴染むように薄らいでいく。


やがてその光が消えた。






張り詰めた空気の中、何か起こることを待った。


小さな変化でいい。


アリアが戻ってくる兆しを……








しかし、


指先がぴくりと動くことも、


わずかに声が漏れることも、


瞼がゆっくりと開くことも―――なかった。




「そんな……」


僕は寝台の横でへたり込んだ。



 ◇ ・ ◇ ・ ◇



カチャッ__


扉の開く音に続いて、静かな足音がこちらに近づいてきた。それが誰なのかを確かめるのも億劫だった。


医官がアリアの診察をするからと部屋を出された気がする。その後どのようにここへ戻ってきたのか…


この宮殿で僕の私室として用意された部屋の大きな窓を背にして、どっしりとした両袖机に、何をするわけでもなくただ呆然と座っていた。片付けられた広い机の上で指を組んでいる自分の手が、ぼんやりとした視界に入っていた。


何かしなければ、せめて何かを考えなければ。そんな言葉が頭に浮かぶが、その何かを考える気力が出てこなかった。


「もう、昼過ぎだぞ」


僕の視界にトレイに乗せられたサンドウィッチと紅茶が差し入れられた。


「それぐらい食え」


「………」


「聞いてるのか?」


「………」


「ライリー?」


「…ん…ああ」


「俺はケインと交代したからもう寝るけど__」


そこまで話して、僕の反応がないからか小さくため息が聞こえた。


「ちゃんと食べろよ、ライリー」


足音が廊下の方へと遠ざかっていった。心配してきてくれたことに礼を言わねばと顔を上げると、扉を出る前にこちらを振り返ったギルバートと目が合った。


「食べたら、お前も少し休めよ。でないと、また寝台に投げ飛ばすぞ」


ギルバートの少し乱暴で冗談めかしていた口調とは裏腹に、心配を滲ませた顔でふっと笑って部屋を出ていった。


パタン、と扉が静かに閉まった後に、ようやく「ありがとう」と彼への感謝の言葉が僕の口から出てきた。




サンドウィッチをゆっくりと口に運び、温かい紅茶を飲んだら、少し頭が働き出した気がした。


解呪の手順に間違いはなかった。用意された魔法陣も、細かなことはわからないが、事前に見せてもらった文献に描かれたものと同じに見えた。そして、懐中時計の石に入っていた光粒は、確かにアリアの体へと吸い込まれて、その体に馴染んだように彼女は光に包まれた。


―――でも目覚めない。何故…


人形のように眠る顔、暗紫色に変色した左腕――解呪を試みる前から変化が見られなかったアリアを思い出して、僕は唇を噛んだ。


―――解呪を阻む何か。それを見つけなければ


僕は机の右、上から2番目の引き出しを開け、紙束を机の上に出した。何から手をつけるべきか検討がつかないが、取り敢えず手元にある資料――旧首都から持ち帰った黒魔術結社が作りためていた魔法陣の束を見返そうと思った。


持ち帰った魔法陣は七種類あった。それぞれ一枚ずつは魔術調査室に届けたが、残りは僕が保管していた。それらを改めて種類ごとに分けて机の上に並べた。


七種類のうち五つは、《離れた者を呪う》《呪いを継続》《遠隔地の様子を探る》《魂を抜き去る》《魂へと魔力を引き寄せる》魔法陣であると、スコットから文献と照らし合わせながら説明を聞いた。


残りの二種類は柄が少し複雑で、今のところ文献に一致するものは見つかっていなかった。

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