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青星の水晶〈下〉  作者: 千雪はな
第5章 闇世の雫
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02 | 石畳の街

足元のクリスタルを埋めて作られた転移ポートに向かって魔力を放つと、地面がなくなってヒュッと下に落ちるような感じがした―――が、すぐに地面に立つ感覚が戻った。


新たに視界に映るのは、タイル敷ではなく石畳に埋め込まれた白濁色のクリスタルだった。


僕は顔を上げた。


煉瓦造りの背の高い建物が通りの先まで並んでいた。窓辺に飾られた色とりどりの花が通りの景色を彩っていた。


自分の周りを見たが――チェスターはいなかった。


―――やはり一緒には転移できなかったか…


アイヴァン公子が用意してくれた文書をチェスターも持っている。彼がどこに飛ばされようとも、その地の騎士団の力は借りられるのだから大丈夫だと、僕は心を落ち着けることに努めた。


改めて周りの様子へと意識を向けると、馬車が行き交う広い道には、水晶玉に映っていたのと同じく着飾った人々で溢れていた。服装は少し時代を感じた。転移ポートでは時間は遡れないはずなのに、タイムスリップでもしたのかと少し不安になった。


石畳の道を人々の間をすり抜けて歩くと、交差する通りの向こうに横断幕が掲げられていた。様々な花が描かれ、中央には《花祭り》と書いてある。


―――なんだ、祭りか


不安だった気持ちが安堵に変わった。落ち着いて見れば、見慣れた服装の人も歩いていた。


日が暮れてきて肌寒くなっていたが、人々の表情は明るく楽しげだった。




転移した場所から見えたのは、あの水晶玉に映った風景だったが、歩き始めるとすぐに見慣れない景色になった。このまままっすぐ進んでも、水晶玉に映った黒魔術結社のあの建物はなさそうだった。


―――やはり騎士団の詰所に行くべきだな


この街の騎士団は、当然、黒魔術結社の本部の場所を把握している。チェスターと(はぐ)れた今、一人で乗り込むより、彼らの助けを借りるべきなのは明らかだった。


―――さて、詰め所の場所は……


この国の騎士団の詰所は、必ず赤いとんがり屋根の高い塔がある。旧首都に着いたら、まずはその屋根を目印にするようアイヴァン公子から言われていた。


交差点の角で立ち止まると、視線を上げて周りを見回した。そして、右手後方、通りの建物の屋根の向こうに赤いとんがり屋根の先を見つけた。


僕は来た道を戻るため、時計回りに体の向きを変えようとした。


しかしその途中、交差する道の向こうの風景に見覚えがあり、ハッと動きを止めた。


転移ポートがある通りから外れ、その見覚えのある景色の方へと歩き始めた。少し歩くと水晶玉に映し出された景色の記憶と周りの建物がぴたりと重なった。この道で間違いない。だが――


先ほどの通りと同様に、この先にも黒魔術結社の建物はなさそうだった。


―――どういうことだろうか


次の交差点で足を止め、ふと左手を見た。


僕が視線を向けた先に、再び見たことのある建物が見えていた。


―――そうか、わかった!水晶玉で見た景色は、断片的なものが繋ぎ合わさっていたのか


水晶玉の中の映像は、転移ポートからまっすぐ歩いて黒魔術結社の建物の前まで辿り着いたように見えたが、それは目的地までの目印がいくつも映し出されていたのだ。映像が不鮮明であるために、その継ぎ目の不自然さに気づかなかっただけで。



背後を見れば、だいぶ遠いがこの通りに赤いとんがり屋根の塔が建っているのが見えた。冷静に行動するならば、ひとまず詰所に立ち寄るべきだろう。


しかし、僕はそれとは反対の水晶玉の中に見た建物の前を通り、その先へと進んだ。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


「……ここだ」


僕は、ある建物の前で立ち止まった。


日はすっかり暮れ、街灯が灯されていた。


通りから数段の階段を上がり、目の前にロートアイアンの蔓草をモチーフにした装飾の施された門扉の前に立った。門扉の上からは、黒魔術結社の紋章の鳥が僕を見下ろしていた。門灯の揺らめく灯りに照らし出された鋭い爪とかぎ状に曲がった嘴が、僕を狙っているようだった。



この街に降り立ってから、もしかしたらと思いながら歩いてきたが、ここに来て確信に変わった。


―――あの水晶玉に映し出されたのは、僕が今日ここで見る景色だったんだ


足元を見れば、見慣れたレトーリアの騎士団のブーツが。あの水晶玉の映像の最初は、僕が転移した瞬間だった。


服はユトレフィス公国(この国)の騎士の制服を借りたが、ブーツはサイズが合わず、色が似ているからとそのまま自分のものを履いていた。


水晶玉にレトーリアの騎士団のブーツが映ったから、あれは我が国のどこかの景色だろうと思ったが、まさかこれを履いた僕自身がユトレフィスに来た風景だったとは誰が思うだろうか。


これまでに集めてきたいくつものヒントの欠片が、次々と繋ぎ合わさった。ここに自分で辿り着いたことが、必然だと思えた。



キーッ……


金属が擦れる音と共に、僕は鉄の門を押し開けた。


その暗く陰になった奥には、木の扉が見えた。

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