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青星の水晶〈下〉  作者: 千雪はな
第4章 因縁と対峙
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11 | 転移ポート

『転移ポート』


ユトレフィスの魔術調査員ニールが、僕とアリアが水晶を通して見た風景の絵について気付いたことがあるというので話を聞くと、石畳を描いた絵を見せて「転移ポートだと思う」と言った。


水晶に映った映像は、何者かの視界を通した風景で、目の前の置かれた絵は、石畳の道の端に立って足元を見ているところだ。この後、顔を上げると街の風景が見えた。


「この絵が最初に見えた風景だが……転移ポートとはどういうものだろうか」


「はい、この足元に白く見える丸ですが…」


「ああ、ペンキか何かで描いてあるこれか?」


ブーツに隠れているし、映像では見切れていたので丸かどうかはよくわからないが、足元の石は白く塗られているように見えた。


「いえ、これは描かれているのではなく、白い石が敷かれているのです」


水晶玉を通して見たから、色を塗ったのか、元から白い石だったのかまではわからなかった。足元のことにそれほど注意を払っていなかったのも、その違いに気づかなかったのだろう。


しかし、ニールがわざわざ否定したことが引っ掛かった。白い石であることが重要なのだろうか。


「そうなのか。それで、この石に何か意味が?」


「はい、この石はクリスタルの一種です。装飾品などにされるものとは違って透明度が低いものなので白く見えますが、魔力と相性がいい石だと文献には記述があります」


「ということは、魔力を使って移動できるのか⁈」


「できるはずです。ポート間に限られますが」


魔術が途絶えて以降、使う者がいなかったのだから確かな情報がないのはよくあることで、いつもなら半信半疑で終わっていた。けれども、この転移ポートについては、確実ではないとわかっていながら強く期待してしまっていた。


黒魔術結社の本部がある旧首都までは、伝令と同じように替え馬を乗り継いで休みなく走っても、五日ほど掛かると聞いている。それが瞬時に移動できるかもしれないということなら…


「この近くにも転移ポートはあるのだろうか」


現在の首都は歴史が浅い。魔術師が活躍していた頃にここへ来る目的がなければ、転移ポートも必要ないが……もしかしたら近くにあるかもしれない。


これまでの出来事を思い返すと、あまり期待してはいけないとも不安な気持ちと揺れながら、ニールからの返事までのわずかな時間が随分と長く感じた。


ドキン、ドキン、ドキン……


自分の鼓動がいつもより大きく聞こえた。拳をぎゅっと握って、次の言葉を待った。




「はい、この宮殿に」


宮殿(ここ)から旧首都へ――


遥か遠く感じられた旧首都まで一瞬でアリアを取り戻しに行けるかもしれない。期待が裏切られることが続いている中、もう一度希望を感じ、僕は安堵のため息をついた。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


魔術調査室から戻ると、僕はすぐにアリアの元に向かった。


寝台の端に腰掛け、指先でアリアの髪をさらりと()かした。そして、彼女の頬に―――触れるのを躊躇(ためら)った。


指の背と頬の間は、ほんのわずか。


触れたいのだが、一方で現実を思い出すことから逃げたくなる。



その手はしばらく宙で止まっていたが、恐る恐る指を伸ばし、柔らかな頬にそっと触れた。指の背からひんやりとした感触が伝わってきた。


アリアを残してここを離れるのは、すごく不安だ。しかし、それ以上に何もせずにただアリアの側にいるのが怖かった。


わずかながら、でも確実にアリアの体温は下がっていた。心音も脈もある。だが、魂が黒魔術結社に遠く連れ去られている状態で、残されたこの体がいつまで()つのだろうかと不安に思わずにはいられなかった。


「アリア、きっと君を取り戻すよ。だから、ここで待っていてくれ」


落ち込む自分に言い聞かせるようにそう言って、僕は立ち上がった。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


転移ポートを使って旧首都に向かいたいと言うと、ユトレフィス側はすぐに準備を始めてくれた。


僕は用意されたこの国の騎士のえんじ色の上着に袖を通した。帯剣を許されたが、さすがに単独行動する僕がレトーリア(我が国)の服装で帯剣するのは問題だからだ。更には、アイヴァン公子の署名入りの許可書も作成してもらえることになっている。


しかしチェスターは、僕の身支度を手伝いながら、転移ポートの使用を思い直すよう説得してきていた。


「殿下、やはり何が起こるかわからないようなものを使うのは危険すぎます」


「危険なのはわかっている。だがアリアを助けられる可能性を捨てるつもりはない」


「では、せめて私を連れて行ってください」


「はぁ…、だから一緒に行くのは無理だと言っているだろう」


僕とチェスターは同じようなやりとりを何度か繰り返していた。


転移ポートで移動できるのは、基本的には一人だ。


魔術による転移は、元々は高度な技術を持つ魔術師に限られていた。それを古代の魔術師達が、魔力が少ない者でも遠くへ移動ができるように考え出したのが転移ポートだ。


魔術調査室で魔術調査員のニールが手にしていた本に転移ポートの仕組みや、転移技術の変遷が書かれていた。


何度も改良が重ねられ、より少ない魔力で、より正確に移動できるようになっていたようだ。


ただ、魔力を持たない者に使えるようにはできなかった。たとえ魔力を持つ者と一緒であっても、魔力を込めた魔法(ぎょく)を使っても、目的地に着地できるのはほんのわずか。ほとんどは、別の場所へと移動した。歩いて行ける場所の場合もあるが、馬車を乗り継いで行きたかった場所へと辿り着くことも少なくなかったと、ニールが探してきた資料に書いてあった。


その記載には、ごく稀に行方知れずになったとも――


それがわかっていてチェスターを転移ポートで連れていけるわけがないと言っているのに、彼はそれを聞く気はないようだ。


「お一人で行かれるのは力尽くでもお止めします」


チェスターの顔には、譲歩の余地が一切なかった。


僕は小さくため息を吐いた。


「わかった、チェスター。一緒に来てくれ」

『青星の水晶』をお読みいただき、ありがとうございます。上巻も合わせて、いいねや評価を付けていただいて、とても励みになっています。


このお話で第4章は終わりです。いよいよアリアの救出のため、転移ポートで旧首都へーーというところですが、新しいお話の投稿は少しお休みをいただきます。8月末頃に再開できればと思います。


酷暑がまだまだ続きますが、皆様ご自愛くださいませ。


千雪はな

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