表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青星の水晶〈下〉  作者: 千雪はな
第4章 因縁と対峙
48/86

07 | 遠隔魔術

目次と見比べながら本文が書かれた資料をめくった。


「これか…」


目的の章題を見つけた。


『Ⅳ.《魔力》を持つ者が現れたら』


僕は確信していた。この章にアリアに掛けられた魔術について書かれている。


明らかに一つ前のページに書かれた項目よりも細かく書かれていた。早速訳そうと辞書をめくったが、すぐに手が止まった。


「ああ…そうか。だめだ…」


「ん?どうしたんだ?」


僕の独り言にギルバートが怪訝な顔を向けた。


「この辞書は、現代語と黒魔術結社の隠語との対比が書かれているんだ…」


「………?」


「つまりは古代魔術語から現代語へ訳さないといけないってことだ」


「なるほど。それなら古代魔術語の辞書は?」


―――アリアが持ってきていたはずだが……


周りを見渡したが、見当たらない。


「エレン、アリアの辞書を貸してくれないか」


「はい、かしこまりました」


侍女のエレンが部屋の棚や、他の書類を置いている机の上を確認した後、何かを思い出したようにこちらを向いた。


「申し訳ございません……もしかしたら、西の棟から戻ってきていないのかもしれません」


「僕が休んでいた部屋だろうか」


「おそらく、そうでないかと。アリア様にお届けいただくよう、ケイン様にそちらの資料とともにお渡ししましたので」


アリアが倒れた時は、とにかくその身だけで戻ってきた。西の棟に持っていっていた物は、チェスターが取りに行かせたのか、この宮殿の誰かが届けてくれたのか。そのいずれかだろうが、僕はそれどころではなく、全く把握していなかった。


「それなら俺が見にいってくるよ」


少し考え込んでいたところに、ギルバートがそう申し出てくれ、僕はハッと顔を上げた。


「バート、頼めるか?」


「ああ、行ってくる」


ギルバートは立ち上がって部屋を出ていった。



 ◇ ・ ◇ ・ ◇



「ここまででいいだろうか」


テーブルの向かいに座るアイヴァン公子から渡された紙束を受け取った。


公子が黒魔術の資料の『Ⅳ. 魔力を持つ者…』の章を訳したものだ。古代魔術語から訳しながら黒魔術結社の隠語の部分も変換してあるので、すぐに内容を確認することができた。


「ありがとうございます。すごいですね、この短時間で…」



ギルバートが西の棟へ辞書を探しにいく途中で公子と会い、僕らが古代魔術の資料の翻訳に苦労しているところだと知ると、彼自ら翻訳を買って出てくれたのだった。


アリアが眠る寝室に招き入れるわけにいかず、部屋のそばのホールにテーブルを用意して翻訳をすることになった。


「エレーナの呪いを調べるために古代魔術についての文献は数えきれないほど読んできたので。アリア殿のために必要な時はいつでも呼んでください」


公子の表情は笑顔を作ってはいるが、アリアを黒魔術結社の企みへと巻き込んだことへの申し訳なさが滲んでいた。


アリアの魔力は、ここへ来るより前から狙われてきたのだから、エレーナ殿の解呪のせいだとは僕は思っていなかった。最初はここへ連れてきたことを後悔していたが、遠隔で魔術を掛けることができるのであれば、レトーリアにいてもいずれは同じ事態になっていたのだろう。


「ありがとうございます」


僕はいろんな思いで頭の中がいっぱいで、ありきたりなお礼しか出てこなかった。その僕に対して、アイヴァン公子が遠慮がちに問いかけた。


「ところで…、やはりアリア殿は相当に魔力を持っているということなんだろうか」


「………はい、その通りです」


訳した内容を見れば明らかだった。


『1. 魔力を持つ者から、その魔力を取り出す方法』との項目の実行手順の下に、次の注釈が書かれていた。


_____


 《魔法陣への付加魔術》

 ・その場で一番魔力を持つものを惹きつける術

 ・惹きつけた者に魔術の気配を隠す術

 ・周りの者に絶望感を与える術

 ………

_____


つまりは、アリアがあの場にいた者の中で一番魔力を持っていたということを示している。


「はぁぁぁ……」


僕は深くため息を吐いた。


「ライナス殿…」


アイヴァン公子が心配の声を掛けてくれたが、それに応える気力がなく、僕はテーブルに突っ伏した。


公には僕しか魔術を使っていなければ、黒魔術結社の目をアリアから逸らすことができるんじゃないかと思ってきたが__


「なんの意味もなかったのだな……」


僕は再びため息が漏れそうになった。


「ライナス殿、気分が落ち込んでいるようだが、それはもしかしたら遠隔魔術のせいじゃないだろうか」


「え…?」


僕は顔を上げると、アイヴァン公子は訳したメモをトントンと指差していた。そこに書かれているのは――


『絶望感を与える術』


「私もエレーナが呪われて、何度も言いようのない絶望感に襲われてきたんです。可愛がってきた妹が呪われたのだから、落ち込むものだと思ってきたのですが……」


「そういうものではないのですか?何かおかしいところでも?」


「ええ、何度も解呪を諦めようと思ったんです。今思えば、絶対に諦めるなどあり得ないのに」


「黒魔術が諦めるよう絶望感を与えていたと?」


「おそらくは。解呪されてからすごく気持ちが軽くなったのも、エレーナが呪いから解放されただけじゃなく、私に掛けられていた絶望感を与える黒魔術も解かれたということではないかと思うのです」


「なるほど。私のこの重苦しい気持ちは、黒魔術がそうさせているということか」


アイヴァン公子の推測は、十分に納得できるものだった。この数日、アリアを取り戻すことを放棄してただ抜け殻のように過ごしてきたのも、こうして落ち着いて考えてみるとあり得ないことだ。もっと振り返ってみると、魔法(ぎょく)が爆発してアリアが倒れた時、何も蘇生もせずに呆然としていたのも、今考えてみればこの黒魔術が付加されていたのかもしれない。


自分の本心ではないとわかれば、その絶望に抗うことができる気がしてきた。


「アイヴァン殿、ありがとうございます。少し目が覚めた気がします。なんとしてもアリアを取り戻したい。力を貸していただけますか」


「もちろんです」


僕の言葉に、公子も笑顔で応えてくれた。




「最初の方は、魔力を遠隔から引き寄せる方法、その魔力を水晶玉などに入れ込む方法が書かれています」


公子は資料と訳したメモを並べて該当箇所を指し示しながら、内容を大まかに説明した。それに使う魔法陣の細々とした注釈部分は飛ばし、「そして、」とページをめくった。


『解呪』という文字が目に飛び込んできて、僕はそのページを反射的に手にした。


「これが……」


「この魔法陣とアリア殿の魔力を入れ込んだ水晶玉を用意して、それらにライナス殿が魔力を注げばいいようですね」


公子の話を聞きながら、書かれている詳細を目で追った。そして緻密に描かれた魔法陣を見た。


「アイヴァン殿、この魔法陣を用意していただけるだろうか」


こんなに細かい文様を私はもちろん、連れてきた従者達が描けると思えなかった。


「ええ、そのつもりです。エレーナの解呪の魔法陣を描いた者達に任せてください。ただ時間が掛かりますので、すぐに始めましょう」


公子はそう言って近くの従者を呼び寄せて指示を出した。




「他の資料を拝見しても?」


遠隔魔術の資料を魔法陣の準備のために従者に手渡すと、アイヴァン公子はファイルに視線を向けて僕に聞いた。


彼に見せても問題ない資料を選び出そうとファイルに挟んでいた資料を手にしてパラパラとめくった。


「あ、これは……」


資料の束の中に、ラフな絵が数枚入っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ