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青星の水晶〈下〉  作者: 千雪はな
第4章 因縁と対峙
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06 | 古代魔術師の執念

アリアのファイルを確認すると、黒魔術の資料の最初の数枚が訳してあった。資料の概要、目次、そして具体的な黒魔術の項目が数件、見慣れたアリアの字で纏められていた。


一枚目の文章には、いくつかの単語が丸で囲ってある。雨粒、飛沫、湖畔……


―――黒魔術の隠語か!


アリアは、レトーリアのアカデミーの辞書ではどうしても上手く訳せない部分があると言っていた。おそらくその部分に印を付けていたのだろう。


―――公子にもらった辞書なら、意味が通った文章に訳せるのか?本当に?


僕はテーブルの上に置いてあった深緑色の表紙の辞書を慌てて手に取り、それらの言葉を探した。



「……アリアの言ったとおりだ。これは、《黒魔術》の《始祖》…古代魔術師のデイル・バルトリーのことだな…、その始祖が書き残した…《魔法陣》を使って《遠隔地》から《黒魔術》を掛け、その効果を持続・増幅させる方法を記すものである、と」


意味のわからなかったアリアが書き記した文章が、急に意味を成すと僕は寒気すら感じた。


ギルバートも僕が書いたメモを覗き込んだ。


「この資料の中にアリアに掛けられた黒魔術の記述があるかもしれないってことだな」


「ああ、でも全部訳してたらどれだけ時間が掛かるか……。目次から探れるだろうか」


僕は目次を訳した紙をテーブルに広げた。おそらく魔術の種類によっていくつかの章に分かれているようだ。目次の項目の中から、水に関する言葉に丸をつけていった。


するとギルバートがテーブルの向こうから手を伸ばして辞書を取り、丸で囲った単語を探した。


「それは《呪い》だから…」


最初は、『Ⅰ. 呪い』


 1. 呪いの掛け方

 2. 呪いの確認方法

 3. 呪いの増幅方法


それは黒魔術結社がこれまでユトレフィスの王家を長年呪ってきた実際の方法だったのだろう。呪った相手の命が尽きたら次の誰かを呪い、その呪いが弱まってきたら増幅させて……そうして一千年以上もの間、デイルの逆恨みを途切れることなく繋いできた。


―――黒魔術結社に属する者達はデイルの血縁ではないのに、何故これほどまでに長い間ユトレフィス王家を呪い続けてきたのだろうか……


ふと疑問に思って手が止まった。


そもそも黒魔術結社は、魔力を持たない者達の集まりだ。デイルが書いた魔法陣を使って、決められた手順に従って黒魔術を発動させるらしい。魔力を持たない者のためには、デイルが魔法陣に魔力を込めておく必要があった。一千年以上経った今でもその魔法陣が残っているとは、どれだけの枚数を書き残したのか。


デイルの執念の深さと、ユトレフィスの王家を呪い続けることを助けてきた黒魔術結社の不気味さに改めて恐ろしくなった。



「ライリー、大丈夫か?」


ギルバートの呼び掛けにハッとした。いつのまにか虚空を見つめて考え込んでいた。


「ああ、大丈夫だ。続きを訳そうか」


ふぅっと息を吐いて心を落ち着け、資料へと視線を戻した。先程と同じ要領でギルバートが読み上げる単語の意味を資料に書き留めて、次の項目を訳した。


最初の三つの項目以降は、対象者に寒気を与える方法、突風を吹かせる方法など、あまり害をなすような魔術ではないようだった。




目次の翻訳はあと少しとなったが、細々(こまごま)とした悪戯のような黒魔術が続いていた。最初の方に記されていた呪いについては、より強力に魔術が掛かるように緻密に計算をして魔法陣を作り上げたようだが、それ以外は、あまり目的を持って用意されたものではないのかもしれない。


「なんだかあまり使い道のなさそうなものばかりだな。ここにアリアに掛けられた魔術が書いてあるのか?」


ギルバートがぼそっと呟いた。彼も僕と同じように不安に思ってきたようだ。しかし――


「ちょっと待ってくれ。次の章が……『Ⅳ.《魔力》を持つ者が現れたら』って書いてあるぞ」


「何⁈それで、現れたらどうするんだ?」


「残りの資料をくれ」


ギルバートのすぐ前にあるファイルに手を伸ばした。

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