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青星の水晶〈下〉  作者: 千雪はな
第4章 因縁と対峙
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05 | 糸口

眩しさに目を開けると、窓からちょうど朝日が差し込んでいた。仰向けに寝転んでいる僕の視界には、まだ夜が明けきっていない空が広がっていた。いく筋もの雲に地平線にうっすらと残る朝焼けの橙色が映っていた。


「まだ皆寝てる時間だ。お前ももうしばらく寝てていいぞ」


僕はハッと起き上がりその声がした方を見ると、ギルバートが廊下側の壁際のテーブルに座っていた。


―――アリアは⁈


周りを見回すと、少し離れた大きな寝台にアリアが見え、自分がこの簡易の寝台へギルバートに突き飛ばされるように寝かされたことを思い出した。


「ああ…」


寝ぼけてぼんやりしていた頭が次第にすっきりしてきた。


「少しは休めたか?」


「そうだな。眠れるとは思ってなかったんだが…」


ぐしゃぐしゃと乱れた髪を掻き回した。


「ずっと気が張ってたんだろ。まあ、三日も寝てなかったから、無理に寝かせなくてもぶっ倒れてただろうけどな」


ギルバートの口調は軽いが、昨晩、彼がぶつけてきた真剣な怒りも思い出した。あそこまでしないと僕が意地でも寝ないと判断してのことだったのだろう。


久しぶりにきちんと睡眠をとって頭が冴えると、彼のとった行動の意図が伝わってきた。


「……心配掛けて悪かった」


周りが全く見えていなかった。申し訳なさに俯くと、ギルバートは少し呆れたように小さく笑った。


「俺じゃなくて、チェスター殿に謝れよ」


「ああ、そうするよ」


ギルバートは満足そうに笑った。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


「そうか、黒魔術を示すようなものはなかったか」


僕はアリアが眠る寝台の横に座り、彼女の額、頬をそっと撫でながらギルバートの報告に答えた。


ケインに指示をしていたあの現場の調査にギルバートも同行していたというので話を聞いたが、残された状況からは何も分からなかったと言う。


「まあ、ケインには念の為に確認をさせたんだが、あそこには護衛が常駐している。何か仕掛けるのは、やはり無理なんだろうな」


「従者達の中に黒魔術結社の手の者が紛れ込むこともなさそうだ」


「そうだろうな。公女の周りは特に身辺調査は徹底しているだろうしな…」


元々何か見つかることはあまり期待していなかったが、手掛かりがないということを確認して、僕はため息を吐いた。




僕は立ち上がると、寝台の端に手をついて眠っているアリアへと身を乗り出した。ギシッとマットレスが小さく音を立てた。僕は彼女の額に軽く口付けた。


―――ここでこの瞳が開いたら、少し頬を染めてはにかんで視線を逸らした後、こちらを見て微笑んでくれるんだろうな……


唇に触れた変わらずひんやりとした肌の感触と、ピクリとも動かず人形のように眠る様子に僕は奥歯をグッと噛み締めた。




「ところでバート、何を見てたんだ?」


僕は顔を上げると、テーブルへと歩いた。ギルバートは僕が寝ている間、そこに座って何かを読んでいたようだった。


「ああ、黒魔術の資料だよ」


そう言って見覚えのあるファイルをこちらに見せてくれた。


「アリアの字だから、あいつが訳したんじゃないか?」


「ああ、そうだ。そういえば……アイヴァン殿に辞書をもらって、翻訳を進められそうだって言ってたな…」


エレーナ公女の解呪をして僕が倒れた時に休んでいた部屋でアリアがそう話していた。


―――あの時…、アリアは何て言ってた?


公子にもらったという深緑色の表紙の辞書を見つめながらアリアとの話を振り返った。黒魔術結社から押収したものだと言っていた。アカデミーの辞書には《湖畔》と書かれている単語が、この辞書には……


___『この資料は、遠隔地から魔術を掛ける方法とその解呪の手順をまとめてあるようです』


「そうだ、遠隔地だ!」


「えっ、遠隔地って何が?」


思わず僕が声に出した言葉に、ギルバートが困惑していた。


「黒魔術は、遠隔地から掛けることができるみたいなんだ。この資料はそれをまとめたものらしい」


「……そんなこと書いてあったか?」


ギルバートは手元のアリアのメモを見直そうとした。


「いや、これから訳すところだったんだ。この辞書を手に入れた直後にこんなことになって…」


僕は振り返ってアリアを見つめ、唇をギュッと結んだ。


「お前でも訳せるのか?」


「一応な…。アリアよりだいぶ時間が掛かるだろうけど」


上手く訳せるかも自信はないが、この資料に何か手掛かりがある可能性は高いと思われた。どんな些細なことでもいい。


僕は資料を手に取った。

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