04 | 荒療治
ライナス視点のお話に戻ります。
「はぁ、いい加減にしろよ…」
そう言って胸ぐらを掴んで僕を立たせたのはギルバートだった。
アリアをこの部屋に運んだ時に、ここを警護していたギルバートが待ち構えていたのは知っていた。だが僕は声を掛ける余裕もなく、いつの間にか彼はこの部屋から出ていき、その後ここへ戻ってくることはなかった。
彼が両親が亡くなって以降、親代わりとなって大切にしてきた妹を、このような目に合わせた僕の顔など見たくもないのだと思った。
今、目の前にある彼の顔は、怒りに満ちていた。それを僕は受け止める義務があると思った。
黙って抵抗せずにいると、ギルバートはもう一度大きくため息を吐いた。
そして僕のシャツを掴んだまま窓の方へと大股で向かっていった。僕はそれに引っ張られて足をもつれさせながら歩いた。
アリアが眠る寝台から離してから、僕に怒りをぶつけるつもりだろうか。殴って気が済むこともないだろうが、殴らずにいられないならとそれを避ける気もなかった。
ギルバートが足を止めた。
僕はいよいよ殴られるのかと目を瞑って奥歯を噛み締めた――が、ギルバートは僕を投げるように突き飛ばした。
―――あ……倒れる
踏ん張りが効かず、僕は床に倒れ落ちると思った。
しかし、倒れ込んだのは寝台の上だった。アリアのではなく、部屋の隅に僕が使えるようにと用意された簡易な寝台に。
僕はギルバートの意図を掴めず、唖然として彼を見上げた。彼は依然として怒りの表情を僕に向けていた。
「少し休め」
いつもとは違う低く強い口調に、僕は少し驚いた。
「いや、僕は……」
やはり少しでもアリアの側にいたい。そう思って起きあがろうとしたが、ギルバートは僕の両肩を掴んで寝台に押し倒した。
「お前があそこに座っていたらアリアが目覚めるのか?違うんだろう!黒魔術結社の仕業だって疑ってるんじゃないのか?」
「………あ、ああ…」
「それなら悔しいが、俺はお前に懸けるしかないんだよ!黒魔術のことがよくわからなければ、古代魔術語も読めない。それなのに、今のお前はただアリアの横で嘆いているだけだ。いい加減、何をすべきか考えてくれ」
「……ゔっ…」
僕の肩を掴むギルバートの手に更に力が入り、僕は顔をしかめた。
ギルバートの瞳に光るものが見えた気がしたが、彼はすぐに手の甲で粗く拭った。まだ僕の肩を押さえていたもう一方の手も力が緩み、その場でしゃがみ込んだ。
その後、何も言わないギルバートに、僕はおずおずと口を開いた。
「…あの……バート……、すまなかった」
少しの間、下を向いていたギルバートが、ふぅっと大きく息を吐いて立ち上がった。
「謝らなくていいから、とにかく寝ろ。アリアのことは、明日の朝までは俺がついてる。明日になったら、俺を拘束するなり、謹慎させるなり好きにしてくれ」
他の者がいたら、不敬だなんだと騒ぎ立てただろうが、僕はギルバートが思いをぶつけてくれて目が覚めた。
「…ありがとう、ギルバート。とりあえず休ませてもらうよ。その後のことは、起きてから改めて考える」
「ああ、そうしてくれ」
ギルバートの表情が、ようやく緩んだ。




