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青星の水晶〈下〉  作者: 千雪はな
第4章 因縁と対峙
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02 | 割れたクリスタル(前編)

『割れたクリスタル』は、ギルバート視点のお話です。

「ギルバート様…、ア、アリア様が倒れられたと…」


アリアの侍女のエレンが青ざめた顔をして部屋に戻ってきた。



アリアがライナスと共にこの国の公女の解呪のために西の棟へ行っている間、俺は東の棟にあるアリアが滞在するこの部屋を警護するために残っていた。そこへこの宮殿の従者が慌てた様子で報告に来たのだった。


「何があったんだ?」


俺は慌ててエレンに歩み寄り、問いただした。


「あの…詳しくはわからないのですが、アリア様が倒れられて、こちらに運ばれてくるとだけ…」


「そうか…」


向こうもまだ混乱しているのかもしれない。運ばれてくるというなら、大人しく待っている方がいいだろう。


「私はお水を頂いて参ります」


「ああ、わかった」


エレンは軽く頭を下げて部屋を出ていった。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


報告があって間もなく、ライナスの明るい青色のマントに(くる)まれたアリアがケインに抱えられて運ばれてきた。


すぐ後ろをライナスもついて来た。かなり取り乱して、俺のことは視界にも入っていないようだ。少し足を引きずって、チェスターが心配そうに視線を落としていたので足元に目をやると、ズボンの膝下に血が滲んで俺はギョッとした。


―――一体、何があったんだ⁈


聞きたいことは色々あるが、緊迫した雰囲気にただ黙って状況を見守った。



医官による診察のため廊下に出された俺は、近くにいたケインの肩をぐっと掴んで詰め寄った。


「ケイン、何があったか教えてくれ!」


部屋を出る直前、アリアを包んでいたマントを取った時に見えた左手の色が明らかにおかしかった。禍々(まがまが)しく黒ずんで、背筋が寒くなった。


「まだわからないことばかりですが……殿下は、おそらく黒魔術結社の仕業だろうと」


「何か証拠でも?」


「いえ、それを今から調べに戻ります」


「俺も行かせてくれ」


ここの警護はチェスターとロバートに任せて、俺はケインと西の棟へ向かった。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


アリアが倒れた西の棟の公女の部屋の前まで向かう間に、ケインからその時の様子を聞いた。


ケインは、俺が騎士団にいた頃に入団してきた後輩だ。同じ班に所属していたこともあり、こんなふうに報告を受けたことも何度もあった。いつも報告内容が的確で、剣の腕も立つ彼が早くに王子の直属騎士となったのも納得だった。


「それで、アリアが手にしたクリスタルを誰が置いたのか、置いてあったそれに誰かが細工した可能性があるかを調べるんだな」


「はい、公女殿下の部屋の前の兵らにまずは伺ってみようかと」


「わかった」




「あの…ギルバート殿、」


少しの沈黙の後、ケインが遠慮がちに聞いてきた。


「どうした?」


「なぜ我々を責められないのですか?アリア様の側にいたのにあのようなことに…」


「もちろん、アリアに危害を及ぼした奴には腸が煮え繰り返るほど腹が立ってるよ。必ず正体を突き止めて、企みを潰してやる」


アリアの生気が失せたあの顔を見て内心はかなり動揺していた。しかし、真相を突き止めてアリアを取り戻さなければと思えば、今は冷静さを保っていた。何より__


「あんなに取り乱したライナス(あいつ)を見たら、どれだけアリアを守ろうとしていたか嫌でも伝わってくるだろう。本当は、あのフィリップ殿下に楯突いてでもアリアをレトーリアに置いてこようとしていたからな」


「ギルバート殿…、殿下をそのように呼ばれるとチェスター殿に叱られますよ…」


「ははは、告げ口は勘弁してくれ。まあ、さっきお前から聞いた状況からも、護衛に不備があったとは思えない。俺があの場にいても、同じ結果になっただろう」


これまで彼らがアリアを守るために細心の注意を払ってきたのを間近で見てきた。詳細を聞く前から、ライナス達を責める気持ちは少しも湧いてこなかった。


「さて、現場から何かわかるといいんだが」


西の棟の廊下の突き当たり、公女の部屋が近づいていた。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


ユトレフィスの公女の部屋の前は、小さなホールのようになっていて、壁の飾り棚にクリスタルの工芸品が飾られていた。


「確かに、アリアが好きそうだな」


腕を組んでそれらを眺めながら独り言のように呟いた。足元には割れたクリスタルの破片が散らばったままになっていた。ユトレフィス側の捜査もこれから行われるのだろう。


「触れない方がいいな」


俺はしゃがみ込んで破片を一つずつ注意深く見ていった。


「ケイン、殿下はクリスタルの中に(もや)が見えたと仰ったんだな」


近くに公女の部屋付きの衛兵が立っていることもあり、丁寧な口調で話した。


「はい。クリスタルの中心に黒い靄が見えたそうです。昔の占いで使った水晶玉と同じようだったので、何らかの魔術が関係しているのだろうと」


「ああ、あの集めていた魔道具の一つなんだろうな」


「はい、そうだと思われます。解呪の方法を見つける糸口になるかもしれないから、些細なことでも報告するよう指示を受けました」


「だが…、靄はなさそうだな」


「そうですね」


床に散らばったクリスタルは、赤黒いライナスの血だと思われるものが付いている以外はただの透明な破片だ。目を凝らしたが、黒い(もや)を含む欠片(かけら)は見当たらなかった。

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