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青星の水晶〈下〉  作者: 千雪はな
第2章 ユトレフィス公国と呪い
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12 | アミュレットと乙女心

「これは…ブレスレット?」


僕が水晶玉を棚に戻したら部屋に帰ろうと隣で待っていたアリアが、棚の中段の魔道具を覗き込んだ。


「ああ、それはアミュレットだな」


「アミュレット……お守りですか?」


「そうらしい。どうぞ」


僕はシルバーの細いチェーンのブレスレットをアリアの手のひらにそっと乗せた。石座には、一粒の透き通ったブルーの楕円形の石が留められていた。


「これ…、魔道具なんですよね。お守りって…」


「そういえばレイドナー教授にもらって以来、ちゃんと見ていなかったな。でも、確かこれは当時の説明書も付いていたはずだ。ええっと、何処にしまったかな……」


棚の下の引き出しを開けて、その説明書を探し始めた。


「そのブレスレット、懐中時計と対になっているんだ……あれ、この引き出しじゃなかったかな?」


僕は話しながら次の引き出しを開けた。


「あ、この時計かしら?」


アリアは背伸びをして、棚の奥の方からシルバーの鎖がついた懐中時計を取り出した。僕は、説明書の類をしまっている引き出しの中を探りながらアリアが手にした時計を見た。彫刻が施された蓋の中央にブレスレットと同じ石がはまっていた。


「そう、その時計だ。でも壊れて動かないし、見た目も魔道具っぽくないから、あまり興味が湧かなくて……あっ、あった。これだ」


僕は折り畳まれた色褪せた紙を破れないようにゆっくりと広げた。アリアも横からそれを覗き込んできた。無意識に僕の腕に手を添えてくっついてきた可愛らしい姿を見下ろして、頬が緩んだ。



「素敵……お互いを思うことで守っているんですね」


アリアの声で我に返った。彼女ばかりを見て、説明書を読んでいなかった。慌てて書いてある内容を拾い読みした。


男性がブレスレット、女性が懐中時計の石に魔力を注ぎ、戦争や旅で離れ離れになる相手の安全の無事を祈るものらしい。効果の真偽はわからないが――


「自分のことを思って魔力が込められていたら力が湧きそうだな」


「ええ、本当に素敵。ライナス様、これに魔力を込めていただいて身につけてはいけませんか…?」


アリアは、ブレスレットを遠慮がちに差し出してそう言った。


「これを?」


そのブレスレットをアリアに譲るのは全く問題ないが、彼女が普段身につけるアクセサリーと比べると随分と質素な作りだった。


「はい、ライナス様の魔力を身につけられたら、嬉しいな、と……」


―――僕の魔力はそもそもはアリアから供給されたものだが、それを込めたものでいいのか…?


そう疑問に思ったが、不意にチェスターのため息が聞こえた気がした。あの男は、アリアの言動について疑問に思う僕に対して、時々呆れたようにため息を吐くのだ。『殿下は乙女心がわかっていらっしゃいませんね』と。


今、チェスターは気を利かせて書庫の前の廊下で待機しているはずだから気のせいなのだが。


元が誰の魔力かは問題ではなく、僕が彼女が身につけるものに魔力を込めることに意味があるということなんだろう。手元のブレスレットを見つめながら頬を赤らめるアリアを見ながら、僕なりに答えを見つけてみた。


「では、やってみよう。時計の方にはアリアが魔力を込めてくれるか?」


「えっ、動かない時計なのに……よろしいのですか?」


「ああ、お守りとして身につけるよ」


アリアは驚いた様子からまた頬を赤くして、手にしているブレスレットと時計を見ながら、小さな声で呟いた。


「ふ、ふふふ。ライナス様と一緒に身につけられるなんて」


(つい)のものだからブレスレットに魔力を込めるのなら時計にも当然だと思ったのに、照れて隠したその顔が見たことのないような笑顔で、アリアの反応に今度は僕が驚いた。


―――こんな些細なことでこれ程にも喜んでくれるのか


乙女心とやらはなかなか難しいようだ。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


私室へ向かう廊下を歩きながら、アリアは腕に着けたブレスレットを少し高く掲げて嬉しそうにしていた。


窓からの陽の光で、石もシルバーのチェーンもキラキラしていた。


「綺麗…」


何度もそう呟いているのと聞くと、これまで興味なかったが、他の魔道具と一緒に磨いておいてよかったと安堵した。


手に入れた時は、全体に埃を被ってシルバーもくすんでいた。ブレスレットの埃を軽く払ったら石が思ったより光を反射して輝いたので、懐中時計と一緒に磨いて棚の空いていたところに置いただけだった。


その後もじっくりと見ることはなく、お気に入りの魔道具のついでに磨いていたのだが、思わぬものがアリアの目に留まった。


「気に入ってくれてよかった。僕も大切にするよ」


そう言って時計を入れた上着の内ポケットの上から手を添えると、アリアは顔を上げて嬉しそうに微笑んだ。


先程のアリアが僕のためにと時計を大切そうに両手で包んで心を込めて魔力を注いでいた様子を思い出すと、本当に何かに守られるような気がした。

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