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青星の水晶〈下〉  作者: 千雪はな
第2章 ユトレフィス公国と呪い
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09 | 王子の魔道具部屋

書庫の奥の部屋は、元は物置だった。改装して棚を入れ、僕の集めた魔道具を並べた。アリアと婚約してからのことだ。


アリアは魔法(ぎょく)の爆発に巻き込まれただけでなく、それで魔力を授かったことで幾度も危険な目に遭ってきた。魔法玉でなくても魔道具なんて見たくもないだろうと、彼女がこの宮殿に移り住む前に、自室に置いていたものをこの部屋へ移したのだった。


最初のうちは、僕もあまり手に取る気にもならず、この部屋にしまったままになってしまうのだろうと思っていたが、時折できる空き時間にふらりと立ち寄って眺めるようになっていた。


やがてゆっくり座って眺めたくなりソファを。そして、並べて見るためにテーブルを持ち込んで、ちょっとした書斎のようになっていた。




―――アリアとこの部屋に来ることになるとは、思ってもみなかったな…


書庫の背の高い本棚の間を抜けて一番奥の扉の前に立つと、僕は懐から鍵を取り出した。僕らの私室用の装飾が施された鍵とは違い、シンプルな楕円の取手の棒鍵は、ここが物置だったことを思い出させた。


「なんだか秘密の場所に行くみたいですね」


隣でアリアが僕の手元を覗き込みながら、ワクワクした様子で呟いた。


ガチャリ


静かな書庫に開錠の金属音が響いた。僕は扉を開けてアリアの方を向いた。


「ようこそ、僕の秘密の部屋へ」


さっきのアリアの呟きに合わせてそう言って笑うと、アリアも「ドキドキしますね」と慎重な足取りで進み、この雰囲気を楽しんでいるようだ。


「ははは、入ってはいけない所に入る気分だな」


「まあ、そんなことをされたことがあるのですか、殿()()?」


わざわざ殿下と呼んで僕を揶揄(からか)う様子も悪くない。楽しそうにする彼女がいるだけで、見慣れた部屋がいつもと違うようだった。


質問の答えについては言葉を濁した。十歳くらいの頃、勉強が嫌で鍵をこっそり持ち出して隠れた先が貴重な宝飾品を保管する立ち入りを禁じられていた部屋で、見つかった時にそれはもう怒られた――なんてアリアにわざわざ話す必要もないだろう。


苦笑いする僕を見て、アリアも何か察したようにふふふっと笑った。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


「これが僕の一番気に入っている物だ」


アリアに聞かれて、棚のガラス戸を開けてシルバーの腕輪を取り出して彼女に手渡した。


「これは魔力の種類がわかるものですよね」


「ああ、前にレイドナー教授の研究室で計測したのと同じだ。でも、これは残念ながら石にヒビが入っているからきれいに色が出ないんだが」


「そうなんですね」


そう言いながら、アリアはそれを腕につけた。白く濁った石の中心から青い光が歪みながら広がって、端の方は緑と白も混ざった。


「な、ちゃんと色が出ないだろう」


「でも、これはこれで綺麗です…」


「装飾品としては問題ないかもな。もう一つあるんだが、これはもっと欠けていて…」


僕は棚の奥にあるもう一つの腕輪を取り出して、自分の腕にはめた。


三分の一程が欠けていて、中心からじわっと広がった青色は端までは届かない。やはり、しっかりと色が現れたアカデミーの収蔵品の質の良さがわかる。アリアもそう思って腕輪を見ているのだと思っていたが…


「ライナス様の方が薄いでしょうか?」


「えっ?薄いって何が?」


「この…、青色が」


そう言ってアリアは僕に着けた腕輪の横に、彼女の腕輪を並べてみせた。


「確かにこちらの方が薄い青だが……、欠けているから色がはっきりしないだけじゃないのか?」


「では、交換してみましょう」


「あ、ああ」


アリアは、さっと外した腕輪を僕へと差し出した。僕もつけていた腕輪を外してアリアのと交換した。


お互いの腕輪の石が中心から色が変わっていく。僕のは今度は滲みながらも端まで色が広がり、アリアの方は中心の辺りだけ青くなった。


並べてみると……


「確かに、わずかだが僕の方が薄いな。同じ魔力だと思っていたのに…」


「ええ、これまで並べて比べたことはありませんでしたから。でも、これがライナス様だけ氷の魔法が使える理由かと思いまして」


「えっ?」


「基本の魔力の色は、水が青、風が緑、火が赤、土が茶色、光が黄色、そして治癒が白の六色で、それが瞳に表れるのですよね」


「ああ、そうだな」


「でも得意とする魔術によって、少し違った瞳の色があったと最近読んだ本に書いてあったのです。だから、この腕輪に表れる光の色も同じように表れるのかと思って…」


「ほぅ、それは面白そうだな」


僕はアリアの話に引き込まれた。


「炎ではなく火花を扱うのが得意な者の瞳は橙色だったり、土の中の鉱物を掘り当てたり、それを加工する力をもつ者は金色の瞳だったとか。そして、氷を扱える魔術師の瞳は、水色の瞳だと書かれていました。ライナス様の瞳はまるで透き通る氷のようです」


「そ、そうか」


僕の目を覗き込みながら話すアリアに、僕は少しドキドキしながら答えた。


「あっ、ごめんなさいっ!」


アリアも顔を近づけすぎたことに気づいて、顔を赤らめて横を向いた。僕は恥ずかしさを誤魔化すために、手近にあった物を手に取って話題を変えた。


「そうだ、他にも色々あるぞ。これは――占い師が使っていた水晶玉だ」


僕は話しながら、今手に取ったのがのが水晶玉だと気づいた。魔法玉と見た目はほぼ同じのそれを話題にするつもりなかったのに。

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