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青星の水晶〈下〉  作者: 千雪はな
第2章 ユトレフィス公国と呪い
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02 | 呪いの歴史(前編)

「ところでアイヴァン殿、呪いについて知っていることを教えてもらえないだろうか」


公子の妹の第三公女を助けるために、僕がユトレフィス公国へ行くかどうか、すぐこの場では結論は出ない。しかし検討するためには、呪いについても、僕が現地で対応するであろうことも具体的に知る必要がある。僕は、人払いをした状態で公子ともう少し話をすることにした。


「ああ、貴殿らも知っている話もあるかもしれないが…」


そう言って公子は、僕とアリアを順に見てからユトレフィス公国の呪いの歴史を話し始めた。



___今から千五百年程前、まだこの地はコルネラルと呼ばれる王国だった。そして、レトーリア、ユトレフィス一族は王国を支える一貴族であった。


当時は国王の独裁的な政治が続いていた。


国王は最初から独裁的な政治を行うわけではなかった。騎士団の下部組織として活動していた魔術師に直属騎士と同じ地位を与え、魔術を多用して隣国との争いに圧倒的な勝利を収めていくうちに、貴族達の意見を聞こうとせず、国民らの苦しい生活にも目を向けることなく、隣国への戦を次々に仕掛けるようになっていた。



国の未来を憂いたレトーリア公爵家は、おそらく水面下で何年もかけて国王を討つ計画を立てていた。


一方でユトレフィス公爵家のその時の当主アルマンは、国王直属の魔術師の一人として王家に仕えていた。水、風、火、土の魔術師が一人ずつ選ばれ、四大魔術師と呼ばれた。アルマンは火の大魔術師だった。


別の大魔術師、水魔法を扱うバルトリー子爵家のデイルという男がいた。バルトリー家は代々猟師の家系で森の奥でひっそりと暮らしていた。それが五人兄弟の末っ子、デイルが生まれてから徐々に変わっていく。泣けばそれに比例した雨が降り、森の中を流れる濁流の川に落ちても水が彼を掬い上げるように岸に戻ってきた。


デイルが六歳になったある日、彼の話を聞きつけた高名の魔術師がバルトリー家にやってきた。デイルの並外れた魔術の才能を目の当たりにすると、彼を王都に連れて行った。貴族の子息らが通う学校へ通わせるためにバルトリー家には爵位が与えられ、学校や師事した魔術師から多くのことを学んだデイルはやがて王宮魔術師になり、さらには国王直属となった。


魔術の高い能力で平民から大魔術師にまで成り上がったデイルは、かなりの野心家になっていた。いつしか密かに黒魔術を悪用して国王を傀儡(かいらい)として国を操ろうと企むようになった。


黒魔術とは古くから存在するが、何かしらの魔力を持つ者しか使うことができなかった。それをデイルは、魔術を魔力を持たない人間にも使える方法を確立していた。


デイルが魔力を込めて作った魔道具や魔法陣に呪文を唱えることで、魔力を持たなくても魔術を発動できるようにしたのだった。貧困に喘ぐ者達を集めて養い、彼らに研究と称して真の目的を告げずに魔術を発動させた。そうしてデイルは自身の手を汚さずに、自分の邪魔な者達を次々と排除していった。


王宮では謎の病や死が続いたが、誰の企てかが突き止められず、それはいつしか《呪い》と呼ばれるようになった。


さらにデイルは、薬草を使ってその呪いの効果を強めたり、長く継続させる方法も編み出していた。食べ物に混ぜたり、香として炊いたり、剣や矢尻に塗って傷口から――様々な方法で呪う相手の体内に取り込ませて、魔力を持たない者がかけた不完全な魔術を、強固な魔術へと変えていた。


デイルの言動を不審に思う者は少なからずいたが、表立って咎めた者達は、いつの間にか王宮から消えていった。


ある時、ユトレフィス公爵家も国王が臣下の意見にも耳を傾けなくなったのが、デイルの企みであることに気づいた。しかし、これまでに周りの者達が病に倒れたのもデイルの仕業であることもわかっていたアルマンは、一族だけで秘密裏に動くことに決めた。


魔術を途絶えさせることを___



「えっ、魔術が途絶えたのは、ユトレフィスの先祖が⁈」


僕は思わず口を挟んでしまった。そんな僕の様子に、公子は少し笑った。


「そうですね。この話はご存じないと思います。先祖はどこからデイルに漏れるかわからないからと誰とも協力することなく計画を実行しました。その後一族は、報復を恐れて国を出て身を隠し、関係する情報は徹底して漏らさないようにしたのです。この話も、直系の王族にしか伝えられていません」


「それを…私達に話して大丈夫なのですか?」


「ああ、貴殿に協力していただけるのであれば、話す必要のあることだと思っています」


「なるほど。それで、妹君が呪われているのは、魔術を途絶えさせたことが関係しているのでしょうか」


妹を話題に上げたからか、公子が表情を固くして答えた。


「ああ、その通りだ。我が王家の呪いは千年以上前からの因縁なのです…」

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