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青星の水晶〈下〉  作者: 千雪はな
第1章 見えない敵
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09 | 歓迎晩餐会(後編)

植物をモチーフにした金の装飾が施された重厚な扉は、枠の細かな彫刻も含めて美術品のようだ。ユトレフィス公国第二公子の歓迎晩餐会の時間になれば、この大広間への扉は開かれる。扉の前のホールに招待客らが集まり歓談をしていた。


ホールの隅にいる楽団が奏でる控えめな音楽が流れる中、僕もアリアと共に会場内を回り、順番に近くにいる者らと挨拶を交わしていた。




「ライナス殿下!」


聞き慣れた声に呼ばれて振り返ると、前宰相のレフィサス侯爵が少し離れたところからにこやかに歩いてくるのが見えた。


「久しぶりですね、侯爵」


「レフィサス様、ご無沙汰しております」


僕が答えるのに続いて、アリアも(にこや)かに挨拶をした。


レフィサス侯爵は宰相として陛下に長く仕え、幼い頃は父上の執務室で遊ぶことを許されていた僕のことをよく知っている人物だ。数ヶ月前に宰相を退き、その息子が新たな宰相に就いていた。


「レフィサス殿、調子はいかがですか」


公には年齢を宰相を退いた理由にしているが、実は体調に問題があると内々に聞いていた。僕が治癒の魔法で治すことができるかもしれないと手紙で伝えたが、『殿下の力を個人的に使うことはできません』と断りの返事を受け取っていた。普段は気さくな雰囲気だが、王家や宰相としての自身の権力の使い方などについては厳しく、僕が選択を間違えそうになった時はいつも懇々と諭されたのを思い出した。


「はははっ、見ての通りまだまだご心配には及びませんぞ」


顔には深い皺が刻まれているが、日に焼けた肌は艶やかで、声も張りがありよく通っていた。


―――侯爵が言う通り、心配はいらなそうだな。


実際に会って元気そうな顔を見て、僕は安堵していた。




「お元気そうでよかったですね」


「ああ、まだ宰相を辞めなくてもよかったんじゃないかな」


「ふふふ、本当ですね」


レフィサス侯爵と話し終えて、少し場所を変えようと歩き出すとアリアは安心したように笑った。レフィサス侯爵家とハンティントン侯爵家は昔から親交があり、彼女もレフィサス侯爵には幼い頃から可愛がってもらっていたのだという。その侯爵の体調が悪いらしいと聞いて、アリアも心配をしていたのだった。



その時、流れていた音楽の曲調が少し華やかになり、大広間の扉が静かに開かれた。


「どうぞ、ご入場ください」


その声に招待客らは談笑を続けながら大広間へと足を進めた。僕ら王族は皆が着席してから改めて入場するため、一旦控えの間へ退がる。


「では、行こうか」


「はい、ライナス様」


「アリア、疲れていないか?」


「ふふふ、ライナス様はいつまでも心配性ですね。まだ晩餐会は始まってもいませんのに」


婚約してから一年以上が経ち、アリアも公の場に出ることにも慣れたようで、僕の言葉に明るく笑った。


侯爵令嬢として育ってきたアリアの立ち振る舞いには最初から問題はなかったが、王子(ぼく)の婚約者として注目されることに緊張して、このような集まりの始まる前は特に元気がなかった。それが今では、ちょっとした嫌味も気の利いた返答で相手にそれ以上を言わせないくらいの余裕が見られるようになった。


僕の隣を凛と歩き、視線を向ければ優しく微笑んでくれるアリアを頼もしく、そして愛しく思った。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


今回の晩餐会は王太子主催で、ユトレフィス公子と歳の近い第四、五王子と僕が出席をする。


王太子、ユトレフィス公子とは別に用意された控えの間では、僕は暖炉の前のソファで兄上達とシャンパングラスを片手に近況について話していた。アリアは、少し離れたところにある丸テーブルで義姉らと紅茶を飲みながら話に花を咲かせていた。


コンコンコン___


小さなノック音を合図に、皆、ゆっくりと立ち上がった。そして「皆様お揃いです」と執事が開けた扉から廊下へと出た。


廊下には、大広間から漏れてくる音楽が聞こえていた。



大広間の入り口に差し掛かったとき、会場内からざわっと慌てるような声がした。


「……が倒れたぞ!」

「大丈夫ですか⁈」

「おい、医官を呼べ!」


廊下を歩いていた僕らも、急いで大広間へと入った。何列も並ぶテーブルの真ん中、僕らの席の少し後ろに人だかりができていた。


そこに座るはずの人物が倒れたのであれば、それなりに高い身分の者であることが伺える。


「そこを開けてくれ」


第四王子の言葉に、身内や側近と思われる数人を残し、人だかりはすぐに僕らの前から退いた。そこには___


「レフィサス殿!」


胸元を押さえて苦しそうな表情でレフィサス侯爵が床に倒れていた。

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