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第97話 核の誕生

光の渦の中を通過する感覚は、孝太にとって既に馴染みのあるものだった。

しかし今回は、時代を行き来する揺れがより穏やかに感じられた。


「マスター・ゼタの時間儀式の技術は洗練されているんですね」

孝太が光の中で言う。


「2000年以上の研究の積み重ねよ」

ゼタの声が応える。

「"守り人"たちが代々受け継いできた技術だ」


光が弱まり、二人の足元に固い地面を感じる。

周囲の景色が徐々に明確になってくる。


彼らが立っていたのは、小高い丘の上だった。

眼下には美しい町が広がっている。白と茶色の建物が並び、中央には円形の広場があった。

町の周囲は豊かな森に囲まれ、遠くには青い山脈が見える。


「ここが新暦1250年…」

孝太が呟く。


「正しくは新暦1247年のようだ」

ゼタが空を見上げて言う。

「微調整が必要だったようね」


「それでも目標に近い時代です」

孝太は前向きに答える。

「アイリスがこの時代にいるかもしれないなら」


二人は丘を下り、町へと向かった。

道中、彼らは服装が目立たないよう調整した。ゼタは長いローブの上にシンプルなマントを羽織り、孝太も未来的な装いをシンプルな旅人の服に着替えた。


「この時代は"管理者の時代"と呼ばれています」

ゼタが説明する。

「"調和"の力が復活し、世界が再び安定し始めた時期だ」


「《エレイザー》の影響から回復したということですか?」

孝太が尋ねる。


「そう」

ゼタが頷く。

「"大収斂"の後、世界は長い混乱期に入った。核の力が弱まり、古代の知識の多くが失われた。しかし、この時代に特別な"管理者"が現れ、再び核の力を目覚めさせたとされている」


「それがアイリスかもしれない」

孝太の声に希望が込められる。


町の入口に近づくと、木製の門があり、二人の衛兵が立っていた。

彼らは旅人には慣れているようで、簡単な質問の後、二人を通してくれた。


「カラスの谷へようこそ」

衛兵の一人が言う。

「市場は中央広場で、宿は西区画にございます」


「ありがとう」

ゼタが礼を言い、二人は町の中へと入っていった。


カラスの谷は活気に満ちた小さな町だった。

人々は質素だが色鮮やかな衣服を身につけ、市場では様々な商品が売買されていた。

技術レベルは孝太の知るバルドールより少し高いようだが、新アルカディアのような未来的なものではなかった。


「まずは情報収集が先決ね」

ゼタが言う。

「この町の"調和"について知る必要がある」


彼らは市場を歩きながら会話を盗み聞きし、時には店主と直接話して情報を集めた。


「"七色の塔"?」

孝太が一人の商人との会話から気になる情報を拾う。

「何のことですか?」


「知らないのかい?」

年配の商人が驚いた表情を見せる。

「町の北にある塔さ。"守護者"が住んでいると言われている」


「"守護者"…」

孝太とゼタは意味深な視線を交換した。


「その"守護者"とは?」

ゼタが尋ねる。


「不思議な力を持つ方だ」

商人が声を落とす。

「病を癒し、作物を豊かにし、時には嵐さえ鎮めると言われている。七色の光を操るという話もある」


「その方はどんな方ですか?」

孝太がさらに尋ねる。


「若い女性だと言われているが、滅多に姿を見せない」

商人が肩をすくめる。

「20年ほど前からこの地にいるらしい」


この情報に孝太の心臓が高鳴った。

アイリスの特徴に似ている。


彼らは市場をさらに探索し、夕方には宿に部屋を取った。

質素だが清潔な二部屋で、夕食後に作戦会議を行うことにした。


「明日、"七色の塔"を訪ねましょう」

孝太が提案する。

「アイリスがいる可能性が高い」


「同意する」

ゼタが頷く。

「しかし慎重に行動すべきだ。この時代は"調和"の力が再興しつつあるとはいえ、まだ不安定な時期。予期せぬ反応があるかもしれない」


「分かりました」

孝太も頷く。


その夜、孝太は窓から夜空を見上げていた。

二つの月が輝いているが、一つは通常の白銀色、もう一つは淡い七色の輝きを放っていた。


「アイリス…必ず見つけるよ」

彼は月に向かって誓った。


---


翌朝、孝太とゼタは早くに起き出し、北へと向かった。

町の外れにある小道を進むと、森の中に一本の道が続いていた。


「人の気配が少ないわね」

ゼタが周囲を警戒しながら言う。


「"守護者"を敬遠しているのかもしれませんね」

孝太が答える。


彼らが30分ほど歩くと、森の中の小さな空き地に出た。

そこにはすらりとした七色の塔が立っていた。


塔は石造りだが、表面は七色に輝く鉱物で覆われており、太陽の光を受けて美しく光っていた。

周囲には小さな庭があり、色とりどりの花が咲いている。


二人が塔に近づこうとしたとき、突然前方の空気が歪み、一人の若い女性が現れた。

彼女は長い赤い髪を持ち、緑の瞳が鋭く二人を見つめていた。手には長い杖を持ち、その先端は七色に輝いていた。


「立ち止まりなさい」

彼女が警戒心を露にして言う。

「ここは立ち入り禁止です」


「私たちは"守護者"にお会いしたいのです」

孝太が丁寧に言う。


「何の用で?」

女性が尋ねる。


「私たちは"調和"について話すために来ました」

ゼタが静かに言い、首から「調和の鍵」を取り出して見せた。


女性はその鍵を見て目を見開き、杖を少し下げた。

「"守り人"…?まだ存在していたのですか」


「そうだ」

ゼタが頷く。

「私はゼタ・ハーモニア、未来から来た"守り人"だ」


「そして私は孝太」

孝太も名乗る。

「私もまた時間を越えて来ました。アイリスという人物を探しています」


女性の表情が急に変わった。

「アイリス様の名を…あなたたちは本当に…?」


「お願いです」

孝太が一歩前に出る。

「アイリスに会わせてもらえませんか?彼女は私の大切な友人なんです」


女性は少し迷った後、頷いた。

「私はマリア。"守護者"の弟子です」

彼女は二人に手で合図した。

「こちらへ」


マリアに導かれ、二人は塔の入口へと向かった。

扉は七色の光で覆われており、マリアが特殊なジェスチャーをすると、静かに開いた。


塔の内部は外観よりもはるかに広く、まるで空間が歪んでいるかのようだった。

中央には螺旋階段があり、壁には古代の文字と図形が刻まれている。

あちこちに水晶や未知の装置が置かれ、静かに光を放っていた。


「ここは"調和"の研究施設なのね」

ゼタが周囲を見回しながら言う。


「はい」

マリアが答える。

「アイリス様が築いた場所です。ここで"七つの核"の研究と保護を行っています」


「核が見つかったのですか?」

孝太が驚いて尋ねる。


「六つです」

マリアが少し暗い表情で言う。

「"記憶"の核だけが、まだ…」


彼女は途中で言葉を切り、階段を上るように二人を促した。

「アイリス様の部屋は最上階です」


彼らが階段を上っていくと、各階には異なる実験室や図書室があり、中には若い研究者たちの姿も見えた。

全員が孝太たちに驚いた表情を向けたが、マリアが手で合図すると、彼らは黙って作業に戻った。


最上階に到着すると、マリアは大きな七色の扉の前で立ち止まった。

「少々お待ちください」


彼女は扉をノックし、中に入った。

数分後、彼女が戻ってきた。


「どうぞ、お入りください」

彼女が扉を開く。

「アイリス様がお待ちです」


孝太は緊張しながら部屋に入った。

ゼタも静かに彼の後に続いた。


広い円形の部屋は、穏やかな七色の光に照らされていた。

壁に沿って本棚や実験装置が並び、中央には六つの台座があり、それぞれに異なる色の核が置かれている。

そして、窓際に一人の女性が立っていた。


彼女はゆっくりと振り返った。

青白い髪、透き通るような肌、そして優しい紫色の瞳…


「アイリス!」

孝太が思わず叫んだ。


アイリスの表情に少しの驚きと、大きな喜びが広がった。

「孝太…本当に…あなたなの?」


「ああ、僕だよ」

孝太が彼女に近づく。


「信じられない…」

アイリスの目に涙が光る。

「長い間、あなたを探し続けたわ…」


二人は互いを見つめ、そして強く抱き合った。

長い時を経ての再会に、言葉は必要なかった。


「孝太…」

アイリスが少し離れて彼の顔を見る。

「どうやってここに?」


「長い話なんだ」

孝太が微笑む。

「君が無事でよかった」


彼はゼタを紹介した。

「こちらはマスター・ゼタ。未来の"守り人"で、僕がここに来るのを助けてくれた」


「お会いできて光栄です」

アイリスがゼタに一礼する。

「"調和"の守護者として、あなたの努力に感謝します」


「こちらこそ」

ゼタも敬意を込めて頭を下げる。

「"大収斂"後の混乱期に、核の力を守り続けたことに敬意を表します」


「さあ、座ってください」

アイリスが彼らをテーブルに案内する。

「お互いの情報を交換しましょう」


マリアが静かに紅茶を運んできた後、三人は話し始めた。


孝太は、時間旅行の途中で仲間たちとはぐれたこと、新暦2571年に到着したこと、そしてゼタの助けを借りてこの時代に来たことを説明した。


アイリスは静かに聞き、時折頷いていた。

「私も同じような経験をしたわ」

彼女が説明を始める。

「時間のトンネルの中で皆とはぐれた後、突然この時代に投げ出されたの。それが約23年前」


「23年も…」

孝太が驚く。


「ええ」

アイリスが静かに頷く。

「最初は混乱したけど、この時代には核の管理者が必要だと気づいたの。"大収斂"の後、核の力は弱まり、世界は混乱していた」


彼女は窓の外を指さした。

「カラスの谷は小さな町だけど、ここから"調和"の力を徐々に広げていったわ。六つの核を見つけ、安定化させた」


「残りの一つは?」

ゼタが尋ねる。


「"記憶"の核だけが見つかっていない」

アイリスの表情が曇る。

「それがなければ、完全な"調和"は戻らない」


「それで、他の仲間たちは?」

孝太が切実に尋ねる。

「リーシャ、コウ、フィン…彼らの情報は?」


アイリスの表情が明るくなった。

「リーシャとコウのことは知っているわ。二人ともこの時代に来たの」


「本当に!?」

孝太が飛び上がりそうになる。

「彼らはどこに?」


「リーシャは西の王国にいるわ」

アイリスが説明する。

「"青剣の将軍"として知られている。王国の守護者よ」


「将軍に…」

孝太が驚きの表情を見せる。


「彼女の剣の腕前を考えれば、納得できるわね」

アイリスが微笑む。

「私たちは時々連絡を取り合っているの」


「コウは?」

孝太がさらに尋ねる。アイリスの表情がわずかに複雑になった。


「コウは…北西の国境地帯にいるわ」

彼女が慎重に言葉を選ぶ。

「"平和の谷"と呼ばれる村を作り、そこで暮らしているの」


「彼も無事だったんだね」

孝太が安堵の表情を見せる。


「ええ、でも…最初から平和的だったわけではないの」

アイリスが静かに続ける。

「彼がこの時代に来たとき、一時期、"闇の軍団"というグループを率いていたわ」


「えっ?」

孝太が驚く。


「彼は混乱していたの」

アイリスが孝太の肩に手を置いて説明する。

「時間の旅の間に何か影響を受けたのか、最初は"完璧な世界"を創ろうとして、核の力を集めようとしていた。リーシャと私が彼と戦ったわ」


「それで…」

孝太が不安そうに尋ねる。


「5年前、私たちは彼と決着をつけたの」

アイリスの表情が柔らかくなる。

「長い戦いの末、彼は自分の過ちに気づいたわ。今は、かつての"闇の軍団"のメンバーたちと共に、平和な村で暮らしながら、過去の償いをしている」


孝太は複雑な思いに包まれた。

コウは、もう一人の彼自身。過去に彼も道を踏み外し、創造院に加わっていた。しかし、最終的には正しい道を選んだ。


「会いに行きたい」

孝太が決意を込めて言う。


「もちろん」

アイリスが頷く。

「でも、まずは"記憶"の核を見つけなければ。それが今、最も重要なの」


「フィンの情報は?」

孝太がさらに尋ねる。


アイリスは首を振った。

「彼については情報がないわ。おそらく別の時代に…」


孝太は少し落胆したが、すぐに気持ちを切り替えた。

「とにかく、リーシャとコウが見つかっただけでも大きな進展だ。彼らに会いに行こう」


「その前に」

ゼタが話に割り込む。

「"記憶"の核について詳しく知りたい。それが見つからない限り、あなたたちが元の時代に戻るのは難しいでしょう」


アイリスは深く頷いた。

「そうね。実は…手がかりはあるの」


彼女は立ち上がり、書棚から古い巻物を取り出した。

それを広げると、古代文字で何かが書かれていた。


「これは"記憶の神殿"の位置を示す地図」

アイリスが説明する。

「"記憶"の核はそこにあると思われる」


「なぜ今まで取りに行かなかったの?」

孝太が尋ねる。


アイリスの表情が暗くなった。

「"記憶の神殿"は危険な場所。"闇の軍団"の残党が守っているの」


「残党?」

ゼタが眉をひそめる。


「コウが改心した後も、一部の過激派は彼に従わず、独自の道を選んだわ」

アイリスが説明する。

「彼らは核の力を独占しようとしている。特に"記憶"の核は、過去を変える力を持つとされ、彼らはそれを狙っている」


「彼らのリーダーは?」

ゼタが尋ねる。


「自らを"黒衣の王"と名乗る人物」

アイリスが答える。

「その正体はまだ分かっていないけど、強力な力を持っているわ」


孝太は考え込んだ。

「コウの力を借りるべきかな?彼なら"闇の軍団"について詳しいはず」


「その通りよ」

アイリスが頷く。

「そのつもりだったの。リーシャとコウ、そして私たち。かつての仲間が再び集まれば、"記憶"の核を取り戻せるはず」


「よし、まずはリーシャに会いに行こう」

孝太が決意を固める。

「そして、コウにも」


「西の王国は三日の旅だけど、"変化"の核の力を使えば一日で着くわ」

アイリスが提案する。


「その間に、この時代について詳しく教えてほしい」

孝太が言う。


「もちろん」

アイリスが微笑む。


その夜、孝太は塔の一室に案内された。

窓から見える夜空と二つの月は、彼が知るバルドールのものと同じだった。


「時代は違えど、同じ空の下…」

彼は星々を見上げながら呟いた。

「コウ…君も同じ空を見ているのかな」


---


翌朝、孝太はアイリスとゼタと共に早くに起きて旅の準備を整えた。

マリアと他の弟子たちはアイリスの不在中、塔と六つの核を守ることになっていた。


「すべては準備できています」

マリアが三人分の旅支度を整えながら言う。

「食料、水、そして緊急用の"調和の結晶"も」


「ありがとう、マリア」

アイリスが弟子に感謝する。

「私たちがいない間、塔を頼むわね」


「はい、アイリス様」

マリアが敬意を込めて頭を下げる。


三人は塔を出て、西へと向かった。

カラスの谷を抜け、森の中の小さな空き地で、アイリスは七色の光の円を描き始めた。


「"変化"の核の力で空間を曲げる」

彼女が説明する。

「一瞬で西の王国の近くまで行けるわ」


「この時代でもその力が使えるなんて驚きだ」

孝太が感心する。


「"調和"の力は弱まったけど、完全には消えていないの」

アイリスが微笑む。

「特に六つの核を集めた今は、かなりの力が戻ってきているわ」


光の円が完成すると、アイリスは詠唱を始めた。

「時と空間の流れよ、我らを西の地へと導け」


光が強まり、三人の周りで空間が歪み始めた。

一瞬の眩しさの後、彼らの周囲の景色が変わった。


彼らは広大な草原の中に立っていた。

遠くには壮大な城壁に囲まれた都市が見える。

青い旗が城壁の上になびいており、兵士たちが警備していた。


「西の王国、アズーリア」

アイリスが言う。

「リーシャはあの城にいるわ」


三人は都市に向かって歩き始めた。

道中、アイリスはこの時代についてさらに詳しく説明した。


「"大収斂"の後、古代文明の多くは失われた」

彼女が語る。

「新たな国々が生まれ、新たな争いも始まった。特に核の力を求める争いは激しいわ」


「六つの核をすでに集めたというのに、まだ争いが?」

孝太が驚く。


「集めたといっても、完全に使いこなせているわけではないの」

アイリスが答える。

「私は"調和"の管理者として核を保護し、研究している。しかし、その力を完全に解放することはまだできない」


「"記憶"の核がないからですね」

ゼタが理解を示す。


「そう。それに、"闇の軍団"の残党の脅威が常にあるわ」

アイリスの表情が曇る。

「彼らは十年前から活動を始め、コウが去った後も、勢力を維持している。特に北の荒野に強い拠点を持っているわ」


「コウの"平和の谷"は危険な場所にあるんじゃ…」

孝太が心配する。


「彼は自分の責任として、かつての部下たちを見守り、導くことを選んだの」

アイリスが静かに説明する。

「彼の村は、かつての"闇の軍団"のメンバーたちに新しい道を示すための場所でもあるわ」


彼らが城壁に近づくと、衛兵たちが警戒して槍を構えた。

「止まれ!誰だ?」


「私はカラスの谷の守護者アイリス」

アイリスが堂々と名乗る。

「青剣の将軍リーシャ殿に謁見を求める」


衛兵たちは彼女の名を聞いて、すぐに態度を変えた。

「アイリス様!申し訳ありません」

衛兵長が頭を下げる。

「すぐに将軍にお知らせします」


彼らは城内に案内され、豪華な応接室で待つことになった。

しばらくすると、重厚な扉が開き、一人の凛々しい女性が入ってきた。


漆黒の長髪、鋭い眼差し、そして青い鎧を身につけたその姿は、間違いなくリーシャだった。

しかし、孝太が知るリーシャより少し年上に見え、その目には多くの経験を経た深みがあった。


「アイリス!」

リーシャが満面の笑みを浮かべる。

「こんなに早く来るとは思わなかったわ」


彼女の視線が孝太に移り、一瞬で凍りついた。

「孝太…?」


「やあ、リーシャ」

孝太が微笑む。


「本当に…あなた?」

リーシャの目に涙が光る。

「夢じゃないのね?」


「本物だよ」

孝太が彼女に近づく。

「君に会えて本当に嬉しい」


リーシャは感情を抑えきれず、孝太に駆け寄り、強く抱きしめた。

「バカ…何年経ったと思ってるの…」


「ごめん」

孝太も彼女を抱きしめ返す。

「遅くなってしまって」


感動の再会の後、四人はリーシャの私室に移動し、状況を説明し合った。

リーシャもまた、時間旅行の途中で時の流れに飲み込まれ、この時代に辿り着いたのだった。

彼女はここで18年を過ごし、その剣の腕前から王国の将軍にまで上り詰めていた。


「コウとの戦いは大変だったわね」

リーシャが少し物憂げに言う。

「彼の中に宿った闇と戦うのは、本当に辛かった」


「でも、今は変わったんでしょう?」

孝太が希望を込めて尋ねる。


「ええ」

リーシャが微笑む。

「今の彼は、かつての私たちが知っていたコウに戻ったわ。むしろ、もっと優しく、思慮深くなった」


「会いたい」

孝太が率直に言う。


「もちろん」

リーシャが頷く。

「でも、アイリスが言うように、まずは"記憶"の核を…」


「その情報だけど」

アイリスが話題を戻す。

「"記憶の神殿"は北の荒野にある。"闇の軍団"の残党の拠点の近くよ」


「危険な旅になるわね」

リーシャが地図を見て言う。

「でも、一緒なら大丈夫。コウの協力も得られれば、さらに心強いわ」


「リーシャ…」

孝太が彼女を見る。

「君はここでの責任があるんじゃ…」


「バカね」

リーシャが微笑む。

「私は18年間、元の時代に戻る方法を探してきたのよ。今それが見つかるなら、何を置いても行くわ」


彼女は王に許可を求め、遠征の準備を整えることになった。

「二日後に出発できるわ」

彼女が言う。

「最高の兵士たちを連れていくから」


「感謝します」

アイリスが頭を下げる。

「それから、コウにも連絡を取りましょう」


「彼には私から伝えるわ」

リーシャが言う。

「"平和の谷"に使者を送って、すぐに知らせるようにするわ」


その夜、孝太は城の高台から星空を見上げていた。

「やっと仲間と再会できた…」


背後から足音が聞こえ、振り返るとリーシャがいた。

「眠れないの?」

彼女が隣に立つ。


「うん、色々と考えることがあって」

孝太が答える。


「18年よ」

リーシャが静かに言う。

「私がこの世界で過ごした時間。最初は毎日あなたを探し続けたわ」


「大変だったね…」

孝太が彼女の手を取る。


「でも、諦めなかった」

リーシャが夜空を見上げる。

「いつか皆と再会できると信じていた」


「コウのこと…どう思う?」

孝太が気になっていた質問を投げかける。


リーシャは少し沈黙し、それから優しい表情になった。

「最初は彼を許せなかった。彼が"闇の軍団"を率いて、多くの人々を苦しめたから」


「でも今は?」

孝太が促す。


「今は…彼を尊敬しているわ」

リーシャの声には真実が感じられた。

「過ちを認め、全てをやり直す勇気を持った彼を。それに、彼の村は本当に美しい場所よ。かつての敵同士が助け合って暮らしている」


「そんな場所なんだ…」

孝太は安心したように微笑んだ。


「彼、あなたにそっくりよ」

リーシャが少し茶化すように言う。

「でも、いくつか傷跡があるわ。魂の傷跡ね」


二人は静かに星を見つめ、再会の喜びと、これからの冒険への決意を胸に刻むのだった。


二日後、一行は西の王国を出発した。

リーシャは十人の選りすぐりの騎士を連れ、孝太、アイリス、ゼタと共に北西へと向かった。


「"平和の谷"までは二日の道のりだ」

リーシャが地図を確認しながら言う。

「そこでコウと合流して、それから"記憶の神殿"へ向かう」


彼らは整備された街道を進み、最初の日は順調に旅を続けた。

夜になると野営の準備をし、騎士たちは交代で見張りに立った。


焚き火を囲んで座った孝太たちは、これからの計画を立てていた。


「"記憶の神殿"への接近は慎重に行う必要があるわ」

アイリスが言う。

「"闇の軍団"の残党は、かつてのコウの配下だったとはいえ、今は彼の言うことも聞かないから」


「彼らは何を目指しているの?」

孝太が尋ねる。


「"完璧な世界"の創造」

リーシャが冷たく言う。

「彼らは自分たちの考える完璧な秩序を世界に押し付けようとしている」


「創造院と同じだ…」

孝太が呟く。


「コウが改心した後、"闇の軍団"は分裂したの」

アイリスが説明を続ける。

「多くはコウと共に"平和の谷"に移り住んだけど、一部の過激派はそれを裏切りと見なして別れた」


「その指導者が"黒衣の王"?」

ゼタが尋ねる。


「ええ」

アイリスが頷く。

「彼の正体は謎に包まれている。核の力に関する深い知識を持っていて、特に"記憶"の核にこだわっているわ」


翌日、彼らは旅を続け、風景が徐々に変わっていった。

肥沃な農地は少なくなり、岩の多い丘陵地帯へと変わっていく。

そして午後になると、遠くに緑の渓谷が見えてきた。


「あれが"平和の谷"」

リーシャが指さす。


谷は周囲の荒れた地形とは対照的に、豊かな緑に覆われていた。

小さな集落が見え、農地や果樹園、そして中央には大きな建物がある。

谷の入口には、七色の旗がなびいていた。


彼らが谷に近づくと、見張りが彼らに気づいた様子で、すぐに村の方へと走っていった。

谷の入口では、数人の人々が彼らを待っていた。


中心にいたのは、褐色の肌を持つ40代半ばの男性だった。

長い黒髪を後ろで束ね、額には古い傷跡がある。

彼は簡素だが品のある服を着ており、腰には装飾された短剣を下げていた。


彼の顔は孝太とよく似ていたが、目にはより多くの経験と、かつての苦しみの痕跡があった。


「リーシャ、アイリス」

彼が二人に向けて微笑む。

「使者から連絡は受けていた。よく来てくれた」


「コウ!」

孝太が思わず声を上げた。


コウの目が孝太に移り、その表情が凍りついた。

「孝太…」


「久しぶり」

孝太が微笑みながら一歩前に出る。


「本当に…君なのか」

コウの声が震える。


「ああ、そうだよ」

孝太が頷く。


コウは躊躇いがちに近づき、そして突然強く孝太を抱きしめた。

「すまない…本当にすまない…」

彼の声は感情で震えていた。


「何を謝るんだ?」

孝太も彼を抱きしめ返す。


「私は…この世界で…」

コウが言葉に詰まる。


「知っているよ」

孝太が静かに言う。

「でも、それは過去のこと。今の君は正しい道を選んだんだろう?」


コウは孝太から身を離し、目に涙を浮かべながら頷いた。

「ああ…私なりに、償いの道を歩んでいる」


彼は周囲を手で示した。

「これが私の選んだ道だ。かつての敵同士が、共に新しい生活を築く場所」


「素晴らしい場所だ」

孝太が心から言う。


「さあ、皆さん」

コウが一同に向かって言う。

「"平和の谷"へようこそ。どうか中へ」


一行は村へと案内された。

近くで見ると、村はさらに印象的だった。

整然とした家々、豊かな畑、水路、そして子供たちが遊ぶ広場。

人々は様々な出自のようで、中には明らかに戦士だった者の姿も見える。

しかし、全員が平和的に暮らしているようだった。


「ここには約200人が住んでいる」

コウが誇らしげに説明する。

「かつての"闇の軍団"のメンバーとその家族だ。みんな新しい生活を始めた」


彼らは村の中心にある大きな建物に案内された。

それは集会所であり、コウの住居でもあるようだった。


「ここで休んでください」

コウが言う。

「夕食を用意させます」


彼らは快適な部屋に案内され、少し休息を取った後、中央のホールに集められた。

テーブルには豪華な食事が用意され、孝太、アイリス、リーシャ、ゼタ、そしてコウが揃って座った。


食事の間、彼らは情報を交換した。

コウの時間旅行の経験、彼がこの世界に来てからの出来事、そして"闇の軍団"との決別について。


「時間の流れの中で、私は何かに影響を受けたようだ」

コウが静かに説明する。

「この世界に来たとき、頭の中には"完璧な世界を創れ"という声が響いていた」


「《エレイザー》の影響かもしれない」

アイリスが推測する。


「おそらくそうだろう」

コウが頷く。

「私は混乱し、怒りに満ちていた。そして、核の力を利用して世界を"完璧"にしようと考えた」


「それで"闇の軍団"を?」

ゼタが尋ねる。


「ああ」

コウが恥ずかしそうに頷く。

「核を集め、"大収斂"を再び起こそうとしていた。しかし…」


彼はリーシャとアイリスを見た。

「彼女たちが私を止めてくれた。特にリーシャの剣が、私の心の闇を切り裂いた」


「激しい戦いだったわ」

リーシャが静かに言う。


「そして、私は過ちに気づいた」

コウが続ける。

「"完璧"を求めることの愚かさを。それから、私は方針を変え、この谷を作った」


「素晴らしい決断だ」

孝太が心からの賞賛を込めて言う。


「でも、全員が私についてきたわけではない」

コウの表情が暗くなる。

「一部の者たちは私を裏切り者と呼び、別れていった。彼らが今の"闇の軍団"の残党だ」


「"黒衣の王"について知っていることは?」

ゼタが尋ねる。


コウは少し考え込み、それから答えた。

「彼の正体は分からない。私が軍団を率いていた頃には現れていなかった。しかし、彼は核の力について深い知識を持っているようだ」


「"記憶の神殿"の場所は?」

アイリスが尋ねる。


「知っている」

コウが頷く。

「ここから北へ一日の旅だ。険しい山々の間にある古代の神殿だ」


「"闇の軍団"は?」

リーシャが尋ねる。


「彼らは神殿の周囲に砦を築いている」

コウが説明する。

「数は多くないが、強力な戦士たちだ。そして、"記憶"の核の力を部分的に利用できるようになっているという噂もある」


「心配だな…」

孝太が眉をひそめる。


「私も共に行こう」

コウが決意を込めて言う。

「私の責任でもある。それに、彼らの多くは私をまだ恐れている。それが利点になるかもしれない」


「ありがとう」

アイリスが感謝する。


「明日、準備を整えて出発しよう」

コウが提案する。

「私の最も信頼できる戦士たちも同行する」


食事の後、孝太はコウと二人で村の外れにある小さな丘に上がった。

そこからは村全体と、遠くに広がる荒野が見渡せた。


「君は本当によくやった」

孝太が村を見渡しながら言う。


「償いには全く足りない」

コウが静かに答える。

「私がこの世界で犯した過ちは…」


「でも、君は変わった」

孝太が彼の肩に手を置く。

「それが最も重要なことだ」


「君が現れるとは思わなかった」

コウが笑みを浮かべる。

「まるで運命のようだ」


「かもしれないね」

孝太も微笑む。

「僕たちはまだ同じ道を歩んでいる。以前とは違う形でも」


二人は星が輝き始めた空を見上げた。

「明日から危険な旅になる」

コウが言う。

「"闇の軍団"は、私が去った後、より過激になった」


「でも、僕たちは一緒だ」

孝太が自信を持って言う。

「かつての仲間が再び集まった。きっと成功するよ」


コウは静かに頷いた。

「"記憶"の核を見つけて、全ての核を揃える。そして…君たちを元の時代に戻す」


「君は?」

孝太が尋ねる。

「一緒に戻らないのか?」


コウは少し考え込み、そして首を振った。

「私の場所はここだ。この村の人々には私が必要だ。それに…」


彼は遠くを見つめた。

「私はこの世界で償いをするべきだと思う。もう一度やり直すチャンスをもらったんだ」


孝太は彼の決意を尊重するように頷いた。

「分かった。でも、君がいつでも戻れる方法は用意するよ」


「ありがとう」

コウが心からの感謝を込めて言った。


村に静かな夜が訪れる中、彼らは明日の旅と、"記憶"の核を巡る最後の戦いの準備を心の中で整えていった。

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