第8話 謎の視線
孝太は《デバッグモード》の画面を閉じ、ひとまず落ち着こうと深呼吸した。
(……この能力、下手に使うとヤバいことになりそうだ)
ガルフの筋力を +1 しただけで彼の驚きようだった。もしもっと大きな変更を加えたら、どうなるのか……。
「孝太さん?」
ラナの声で我に返る。
「登録は完了しましたので、これで正式に冒険者になりました! こちらがあなたの《冒険者証》になります」
孝太は小さな金属製のプレートを受け取った。
「初心者の方には、最初に簡単な依頼を受けていただくことをおすすめしていますが……」
ラナがそう説明を始めた矢先——
「おい、そこの新入り」
低く、重たい声が孝太の背後から響いた。
振り向くと、そこには漆黒のローブをまとった男が立っていた。
鋭い目つきに、銀の装飾が施された杖を持っている。
「お前……何者だ?」
ギルド内が一瞬静まり返る。
「この街で『コードマスター』なんて職業を持つ者は聞いたことがない」
男はじっと孝太を見つめている。その目はまるで、孝太の存在を”分析”しているかのようだった。
ガルフが前に出る。
「おい、レクス。新入りを脅すな」
「脅しているつもりはない。ただ、興味があるだけだ」
ラナが小さな声で説明する。
「彼は《レクス=アルヴェイン》さん。Sランク冒険者で、このギルドでもトップクラスの魔術師です……」
(Sランク冒険者!?)
いきなりすごい人物に目をつけられてしまったらしい。
「お前……“力”を持っているな」
レクスが一歩、孝太に近づいた。
「素人が持つような力じゃない……。お前、どこでそれを手に入れた?」
孝太は息を呑んだ。
(まさか、《デバッグモード》のことがバレている……?)
レクスの視線は鋭い。しかし、彼はまだ孝太の能力を完全には把握していないようだ。
(適当に誤魔化すか、それとも正直に話すべきか……)
孝太が答えを迷っていると——
「まあいい、今は何も言わなくていい。ただし——」
レクスが口元に不敵な笑みを浮かべる。
「俺と模擬戦をしろ。お前の”力”を、実際に見せてもらう」
「……え?」
ギルド内がさらにざわめいた。
「いきなり模擬戦かよ……」
「レクスが相手じゃ、新入りが一撃で沈むんじゃないか?」
レクスは孝太をじっと見据えたまま続ける。
「もしお前が俺に一撃でも入れられたら、その職業……“本物”と認めてやる」
(模擬戦……か)
孝太はギルド内の視線を感じながら、ゆっくりと拳を握りしめた。
(……よし、やってやるか)
《コードマスター》の力がどこまで通用するのか。
孝太の異世界での最初の試練が、幕を開ける——。