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第56話 帰還の道

夕暮れの空が、南方遺跡を柔らかな光で包み込む。

二つの太陽が地平線に近づき、一つは金色に、もう一つは青みがかった銀色に輝いている。

長い闘いを終えた三人は、バルドールへの帰路についていた。


「一日の内に戻れるかしら」


リーシャが空を見上げる。

日が落ちれば、森の道は危険になる。

この世界の夜は、特に歪みの影響が強まる時間帯だった。


「山道を越えるなら、夜明けまで待ったほうがいいかもしれない」


アイリスが提案する。


「近くに守護者たちの拠点があるはず」


実際、ラオは彼らに休息の場所を提供すると申し出ていた。

遺跡の端にある石造りの建物は、守護者たちの宿舎として長年使われてきたという。

孝太は疲労感と共に、達成感も感じていた。

核の安定化は成功したものの、カイトの最後の警告が気になる。

残りの核の問題。そして、古代からの敵の存在。


「少し休憩しましょう」


孝太が提案する。


「この地図も確認しておきたいですし」


道端の岩に腰を下ろし、守護者たちから受け取った地図を広げる。

羊皮紙には、七つの核の位置が示されていた。


「南の"記憶"、北の"創造"、西の"成長"」


アイリスが指で位置を追っていく。


「そして東の"変化"、中央の"均衡"、北西の"衰退"、南東の"再生"」

「面白いな」


孝太が気付いたように言う。


「これって、システム開発のライフサイクルに似ている」

「ライフサイクル?」


リーシャが不思議そうに尋ねる。


「ええ、東京で働いていた時の経験なんだけど」


孝太は懐かしそうに説明を始める。


「ソフトウェア開発では、システムにも寿命があると考えるんだ。計画、開発、成長、成熟、そして衰退と再生。このサイクルがずっと繰り返される」

「この世界も、同じような原理で動いているのかしら」


アイリスが興味深そうに地図を見つめる。


「かもしれない。でも、今は"歪み"によって、そのバランスが崩れている」


孝太は地図上の印を指差す。


「これまでに反応があったのは、南、北、西の三カ所。あと四つの核が残っている」

「次はどこへ行くべきかしら」


リーシャが問いかける。

孝太はしばらく考え込んだ後、地図の中心を指差した。


「中央の"均衡"の核。ここが鍵になるんじゃないかな」


アイリスが頷く。


「理にかなってるわ。バランスを取り戻すなら、均衡から始めるべきね」


地図によれば、"均衡"の核はバルドールの中心部、冒険者ギルド《銀狼の爪》の地下深くに位置しているという。


「私たちが毎日通っていた場所の下に?」


リーシャが驚いた様子で言う。


「かつての都市の中心地は、現代の都市の中心地になることが多いわ」


アイリスが説明する。


「文明が変わっても、"力"の集まる場所は変わらないものなの」


そう言えば、東京も古くからの要所の上に発展してきた都市だ。

孝太は、自分の世界と、この異世界の類似点をまた一つ見つけた気がした。

彼らが話している間にも、日は徐々に落ちていく。

森は次第に暗さを増し、不思議な光を放つ植物が目を覚まし始めていた。


「今夜は守護者たちの拠点で休みましょう」


アイリスの提案に、三人は頷いた。

宿舎は質素ながらも清潔で、古代の技術の痕跡が随所に見られる建物だった。

石の壁には、プログラムのような文様が刻まれ、微かに青い光を放っている。


「ここで一休みして、明日バルドールに向かいましょう」


孝太が言う。


「ギルドマスターにも報告しなきゃ」


アイリスはラオから預かった古い書物を広げていた。


「ねぇ、これ見て」


それは"均衡"の核についての記録だった。

古代の文字で記されているが、アイリスには読めるようだ。


「均衡の核は、"全ての核を繋ぐもの"だって」


彼女が読み上げる。


「七つの核の中で、唯一中心にあり、他のすべてと繋がりを持つ」

「システムで言えば、メインサーバーみたいなものかな」


孝太が考え込む。


「他の全てのサブシステムを統括する中枢」

「でも、そんな重要な場所が、なぜギルドの下に?」


リーシャが疑問を投げかける。

アイリスが書物を更に読み進める。


「核を守るために、その上に重要な建物を建てるのは、古代からの慣わしだったみたい。人々の往来が多い場所の方が、逆に目立たなくなるの」


確かに、セキュリティの観点からも理にかなっている。

東京のデータセンターも、一見普通のオフィスビルの中に隠されていることが多かった。


「明日、バルドールに戻ったら、調査を始めましょう」


孝太が提案する。


「ただし、慎重に。"彼ら"も動き始めているかもしれないから」


カイトの警告が、再び三人の脳裏をよぎる。

古代から続く「完全なる支配」を目指す勢力。

彼らは、今もどこかで次の一手を考えているのかもしれない。


「休みましょう」


リーシャが疲れた表情で言う。


「明日は長い道のりになるわ」


三人は静かに休息を取ることにした。

窓の外では、二つの月が夜空に浮かび始めていた。

金色と青白色の月。それぞれが、異なる影を地上に落としている。


この世界の不思議さと、これから彼らが直面する課題。

すべてが交錯する中で、新たな朝を迎える準備をしていた。


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