第53話 記憶との対話
『継承者たちよ』
古代の技術者たちの声が、空間に響く。
それは、まるでデジタル音声のようにクリアで、時折ノイズが混じるような不思議な響きだった。
「私たちに、話しかけているの?」
アイリスが共鳴石を握りしめる。
『その通りだ』
渦の中から、一人の人物が歩み出てくる。
青紫色の長い髪、白衣のような装い——メイの兄に似た姿をしていた。
「あなたは……」
孝太が一歩前に出る。
『私は、"記憶の核"の管理者だった者。名をカイト』
彼は半透明の姿で、静かに微笑んだ。
『君たちは、よくここまで辿り着いた』
孝太はデバッグモードで、カイトの存在を解析する。
execute("analyze", "entity=Kyte")
[解析結果]
[本質:記憶データの集合体]
[状態:安定/制御可能]
[特徴:高度な自我を保持]
[警告:現実との干渉に注意]
「どうして、私たちの言葉が分かるの?」
リーシャが尋ねる。
『私たちは、世界のプログラムに直接アクセスできる。言語の壁など、ただのパラメータの違いに過ぎない』
カイトが説明する。
その言葉に、孝太は東京でのプログラミング経験を思い出していた。
確かに、どんなプログラミング言語も、結局は同じ原理に基づいている。
PHPでもJavaでも、やっていることは同じだ。
「世界の歪みについて、教えてください」
孝太が本題に入る。
「なぜ、核が暴走を始めたのか」
カイトの表情が曇る。
『それは、私たちの失敗から始まった。3000年前、私たちは世界の完全な制御を試みた』
古代文明の最後の日の映像が、空間に浮かび上がる。
研究所で必死に作業する技術者たち。
世界を安定化させようと、七つの核を設置していく様子。
『しかし、私たちは過ちを犯した』
カイトの声が悲しみを帯びる。
『世界は、完全な制御を拒絶したのだ』
『世界を制御するということは、可能性を制限すること』
カイトが空を見上げる。
二つの太陽の光が、彼の半透明の体を通り抜けていく。
『私たちは、バグを無くそうとした。歪みを修正しようとした』
彼は自嘲するように笑う。
『だが、それは世界から"成長の可能性"を奪うことでもあった』
孝太には、その言葉の意味がよく分かった。
完璧なプログラムを目指すあまり、柔軟性を失ってしまうこと。
東京での開発現場でも、よくある問題だった。
「そうか」
孝太が気付いたように呟く。
「過剰な最適化は、時として有害になる」
カイトが満足げに頷く。
『その通りだ。君は理解している。現代のプログラマーとして』
アイリスが共鳴石を掲げる。
「でも、今の状況は違う。核が暴走を始めたのは、別の理由があるはず」
『鋭い指摘だ』
カイトの表情が真剣になる。
『実は、誰かが意図的に核に干渉している。古代のプログラムを利用して』
その時、孝太のデバッグモードに警告が表示された。
execute("detect", "unauthorized_access")
[警告]
[不正アクセスを検出]
[場所:核心部]
[特徴:古代のプロトコルを使用]
[状態:進行中]
「これは!」
孝太が画面を凝視する。
「まるで、システムへのハッキングみたいだ」
リーシャが剣を構える。
「ゼインの仕業?」
『いいや』
カイトが首を振る。
『もっと古い存在。私たちの時代からずっと、世界の完全な支配を目論んでいる者だ』
空間に、新たな映像が浮かび上がる。
古代文明の最後の日。
核の設置に反対し、独自の制御システムを主張する研究者たちの姿。
『彼らは、制御ではなく支配を求めた』
カイトの声が重い。
『そして今、彼らの意志を継ぐ者が動き始めている』
孝太は、電車で拾った謎のプログラムを思い出していた。
あの紙に書かれていたコードも、古代の技術に基づいていた。
まさか——。
その時、遺跡全体を揺るがす振動が走った。
黒い渦が、さらに激しさを増している。
「もう時間がない」
アイリスが叫ぶ。
「核の暴走を止めなければ!」
カイトが三人を見つめる。
『君たちには、私たちにはなかったものがある』
『それは——"バグと共存する勇気"だ』




