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第41話 祭りの前に

タケの屋台の手伝いを終え、孝太は宿の部屋で休んでいた。


窓際に腰かけたアイリスは、メイが残した《デコーダー》を静かに見つめている。


「アイリス、珍しいね。物思いに耽るなんて」

「ええ」


アイリスはゆっくりと目を閉じる。


「色々、考えることがあって」


外からは祭りの準備の音が聞こえてくる。

提灯を飾る人々の声、調理の音、子供たちの笑い声。

アイリスは、その一つ一つの音に耳を傾けているようだった。


「聞こえる?」


アイリスが静かに言う。


「市場のタケさんの声、パン屋のマリーさんの笑い声、子供たちの歓声」


孝太も耳を澄ませる。


「ああ。みんな、楽しみにしてたんだね」

「ねぇ」


アイリスが突然、孝太の方を向く。


「私も、祭りに行きたい」

「えっ?」


意外な提案に、孝太は驚く。


「だって」


アイリスが少し照れくさそうに言う。


「私も楽しみたいもの。今まで、こういうお祭りって、遠くで見てただけだから」


その時、廊下から足音が聞こえてきた。


「孝太さん、準備は——」


ドアが開き、浴衣姿のリーシャが現れる。

花柄の浴衣が、普段の凛とした彼女の印象を柔らかく変えていた。


「あら、アイリスも一緒に行くの?」

「行きたいんだけど」


アイリスが少し不安そうに答える。


「もちろんよ!」


リーシャが嬉しそうに言う。


「実は、あなたの分も用意してあったの」


リーシャは手に持っていた包みをアイリスに差し出した。


「ほら、これを着て。私が選んだ浴衣、きっと似合うわ」


包みを解くと、淡い水色の生地に白い桔梗の花が散りばめられた浴衣が現れた。

アイリスの目が輝く。


「本当に、いいの?」

「当たり前でしょ」


リーシャが笑う。


「今夜は、みんなで楽しむ夜なんだから」

「でも、着付けは……」

「私が手伝うわ」


リーシャが得意げに胸を張る。


「着付けなら任せて。母に教わったのよ」

「あ、髪飾りもあるわ」


リーシャがもう一つの包みを取り出す。


「市場で見つけたの。この色、アイリスに合うと思って」


アイリスは大切そうに浴衣と髪飾りを受け取った。

その表情には、純粋な喜びが溢れている。


「着替えるのを手伝うわ」


リーシャがアイリスの手を引く。


「髪も結ってあげましょう。お祭りだもの、少し特別なアレンジにするわ」

「ええ、お願い」


アイリスの声が弾む。

二人が部屋を出て行く後ろ姿を見ながら、孝太は微笑んだ。


彼女たちの楽しそうな話し声が、廊下に響いていく。

窓の外では、祭りの始まりを告げる鐘の音が響き始めていた。


夕暮れの空に、最初の提灯の明かりが灯る。

今夜は特別な夜になりそうだ——孝太はそう確信していた。


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