第40話 祭りの朝
朝、アイリスはゆっくりしたいと言ったので、孝太とリーシャで出かけることにした。
「おーい! リーシャちゃん!」
朝の市場で、威勢のいい声が響く。
振り向くと、大きな荷車を引く屈強な男性が手を振っていた。
「タケさん!」
リーシャが駆け寄る。
「まぁ待ち! あんた、昨日帰ってきたんやろ? せやのに、もう買い出しかい」
独特な抑揚が、市場の雰囲気とよく合っている。
「タケさんこそ、随分早いですね」
「当たり前やろ! 今日は収穫祭やで! うちの屋台が出えへんかったら、お祭りが寂しなるわ!」
タケは孝太に気付くと、にやりと笑う。
「ほう? これは気になる殿方やなぁ。リーシャちゃんの彼氏はんか?」
「違います!」
リーシャが慌てて否定する。
「同僚です。コードマスターの孝太さん」
「おお! 噂の!」
タケが孝太の手を力強く握る。
「うちの屋台に来いや。特別サービスしたる!」
「タケさんの屋台って?」
孝太が尋ねる。
「天下一品の『タケちゃん焼き』や!」
タケが胸を張る。
「普通の屋台とはわけが違うで。この街に来て十年、秘伝のレシピを作り上げたんや」
「タケさんの焼き物は絶品なんです」
リーシャが説明する。
「私も任務の合間によく寄るんですよ」
「そうそう! このリーシャちゃんがな、初めて来た時なんか、ガキんちの頃で……」
「あ、その話はやめてください!」
リーシャが慌てて制止する。
「なんでや? かわいい思い出やん。剣術の稽古の帰りに、よう小腹が空いたって来てな。このぐらいの」
タケが腰の辺りで手を横に出す。
「タケさん!」
孝太は思わず笑みがこぼれる。
普段の凛とした彼女からは想像できない、少女時代の姿が浮かんでくる。
「よっしゃ、決めた!」
タケが大きな声で宣言する。
「今日は二人とも、うちの新作の試食係や。祭りの前に味見してもらわな」
「でも、準備が……」
「ええから、ええから!」
タケは二人の背中を押す。
「祭りの準備は、みんなで手伝い合うもんや。そうやろ?」
人々の笑顔、活気ある声、温かな空気。
この世界には、守るべき日常がある。
それを、孝太は改めて実感していた。




