第38話 光と影の狭間で
《デコーダー》から放たれた虹色の光が、黒い靄と激しく衝突する。
メイの体が宙に浮き、結晶の力が彼女を包み込んでいく。
「孝太、今よ!」
アイリスの声に、孝太は即座に反応する。
execute("sync", "decoder_beam", "force=maximum")
[同期開始]
[出力調整:最大]
[警告:制御限界超過]
孝太の放つ青い光が、メイの虹色の光と混ざり合う。
二つの光が螺旋を描きながら、黒い靄に突き刺さっていった。
「うおおおっ!」
靄の中の人影が苦しげな叫びを上げる。
「お兄ちゃん、安心して」
メイの声が静かに響く。
「あなたの想いは、ちゃんと受け取ったから」
黒い靄が揺らめき、その形が崩れ始める。
しかし——予想外の事態が起きた。
靄の中から、無数のコードの断片が溢れ出す。
それは、まるで意思を持つかのように、メイに向かって伸びていく。
「させるか!」
リーシャが、コードの流れを阻むように立ちはだかる。
「孝太、メイを!」
孝太は必死でコードを書き換える。
execute("protect", "target=Mei", "priority=max")
[防御展開]
[対象:保護]
[状態:危険]
だが、コードの一部が防御を突き破り、メイの体に触れる。
「きゃっ!」
その瞬間、メイの体が半透明になり始めた。
「これは……!」
アイリスが叫ぶ。
「孝太! メイの存在値が低下してる! このままじゃ消えちゃう!」
「させない……!」
孝太は渾身の力でコードを紡ぎ出す。
execute("stabilize", "existence_value", "target=all")
しかし、メイは静かに首を振った。
「いいの、孝太くん。これも、取引の代償だから」
彼女の姿が、更に薄くなっていく。
しかし、その表情は穏やかだった。
「ねぇ、最後に教えてあげる。"世界の真実"——それは」
メイの声が途切れる。
そして、彼女の体が光の粒子となって、空へと溶けていった。
「メイ……!」
その時、黒い靄が完全に消失する。
兄の存在も、データの光となって消え去った。
静寂が訪れる。
残されたのは、二つの《デコーダー》と、微かに残る光の粒子。
「取引の代償……か」
リーシャが静かに呟く。
孝太は空を見上げた。
光の粒子が、夜空の星のように輝いている。
そして、メイが最後に言おうとした言葉の真意を、これから探していかなければならない。
それは、世界の真実へと続く、新たな手がかりだった。




