第33話 風変わりな商人
「ちょっと待って! そのデバッグツール、売ってくれない?」
東の森へ向かう途中、突如として現れた少女の声に、孝太たちは足を止めた。
振り返ると、そこには派手な原色のローブを着た少女が立っていた。乱雑な青紫色の髪、首から下げた無数の歯車のアクセサリー、そして背中には大きな商人用のリュックを背負っている。
「私、メイ! 《カオスマーケット》って知ってる?」
リーシャが目を細める。
「噂の闇市ね。違法な魔法アイテムを取り引きする場所」
「もう! 誤解しないでよ。私たちは"特殊な"アイテムを扱ってるだけ」
メイは不満そうに頬を膨らませる。
「それで、何の用だ?」
孝太が警戒しながら尋ねる。
「だから! そのデバッグツール!」
メイが孝太の《デバッグモード》を指差す。
「あれって"現界物"でしょ? この世界のものじゃない特別なアイテム!」
孝太は息を呑んだ。
(この少女、俺の力の本質を見抜いている……?)
アイリスがそっと伝えてきた。
「孝太、彼女には独特なコードの痕跡があるわ。注意して」
「ふふーん♪」
メイが得意げに胸を張る。
「私ね、"コードの香り"が分かるの。あなたのそれは、とーっても珍しい香りがする!」
「コードの……香り?」
リーシャが困惑した表情を見せる。
メイは商人用リュックから何かを取り出した。
それは、半透明の結晶に似た装置。
「これと交換してくれない? これも"現界物"なのよ」
execute("analyze", "unknown_item")
[解析結果]
[対象:異界クリスタル]
[用途:未知]
[警告:特殊な演算機能を内包]
「交換は出来ないが……」
孝太が言いかける。
「えーっ! ケチー!」
メイが拗ねたように叫ぶ。
「まあいいや。その代わり情報を教えてあげる」
少女の表情が一転、真剣なものになる。
「東の森で起きてる歪み、ただの異常じゃないわ。"プログラムの分岐点"が作られようとしてる」
「分岐点?」
「この世界の"もう一つの可能性"を引き出す装置よ。それを作ってるのは——」
突如、遠くで爆発音が響く。
森の方角から、青い光が天を切り裂いた。
「あ、始まっちゃった」
メイが肩をすくめる。
「私は用事済みだから、これで!」
「待て!」
しかし、メイの姿は歯車のような光の渦に包まれ、跡形もなく消え去った。
「気になる人物ね」
リーシャが呟く。
孝太は森の方を見つめる。
「行きましょう。でも……警戒は怠らないように」
この出会いが、どんな意味を持つのか。
それを考える暇もなく、孝太たちは森へと足を進めた。
人知れず、メイが残していった結晶が微かに輝いている。




