第26話 選択の刻
「選択って……どういうことだ?」
アイリスは手を翳すと、空間に二つの光球を作り出した。
「左が"リセット"。世界を完全に初期化し、一から再構築する選択よ。歪みは完全に消えるけど……今の世界は消失する」
もう一つの光球が明滅する。
「右は"修復"。現状を維持したまま、歪みを一つずつ修正していく。でも、それには莫大な時間と労力が必要。しかも、完全な修復は難しいかもしれない」
孝太は二つの光球を見つめた。
リセットか、修復か。
「ゼインは……リセットを選んだんだな」
「ええ。でも、彼には"純粋なコード"がなかった。だから、結晶に排除されてしまった」
突如、空間が揺れ動く。
[WARNING]
[CRITICAL ERROR DETECTED]
[WORLD STABILITY: 47%]
「あと10分よ」
アイリスが告げる。
「その時間で、あなたは選ばなければならない」
孝太は目を閉じ、思い返す。
バルドールの街、ギルドの人々、リーシャとの戦い。
そして、ゼインの最期の言葉。
(この世界には、守るべきものがある)
目を開けると、そこにはアイリスが不安そうな表情で立っていた。
「決めた」
孝太の声が、空間に響く。
「修復を選ぶ」
アイリスの目が見開かれる。
「でも、それは……」
「時間がかかっても構わない。一つ一つ、丁寧に直していく」
孝太は強い意志を込めて続けた。
「この世界に生きる人々の記憶や絆を、俺は消したくない」
空間が再び大きく揺れる。
[WARNING]
[WORLD STABILITY: 35%]
「決断したなら、急いで!」
アイリスが叫ぶ。
孝太は即座にコードの入力を始めた。
execute("repair", "world_structure", "method=preservation")
[実行開始]
[修復プロトコル起動]
[警告:大規模な演算負荷]
「このまま……!」
孝太の体から、青い光が放射される。
それは、まるで世界を包み込むように広がっていく。
[SYSTEM MESSAGE]
[管理者権限を確認]
[修復プロセスを承認]
空間全体が、まばゆい光に包まれた。
「これは……!」
アイリスの声が驚きに震える。
孝太のコードが、世界の歪みに作用を及ぼし始めていた。
それは、決して容易な道のりではない。
しかし——。
(必ず、この世界を……!)
光は更に強さを増していく。
そして、孝太の意識は再び深い闇へと沈んでいった。




