第21話 北方鉱山へ
バルドールの北門を出て一時間。
孝太とリーシャは山道を黙々と進んでいた。
「あの、リーシャさん」
「なに?」
「Aランクの冒険者が、こんな調査任務を引き受けるなんて珍しいんじゃ……」
リーシャは足を止めず、前を見たまま答えた。
「私にも考えがあってね。この"歪み"の調査は、単なる任務以上の意味がある」
「どういう……」
その時、アイリスの警告が響いた。
「孝太、前方に異常反応!」
二人は立ち止まり、警戒態勢を取る。
目の前の空間が、まるで水面のように揺らめいていた。
「これは……」
リーシャが剣を構える。
孝太は即座にデバッグモードを展開。
execute("analyze", "anomaly_area")
[解析結果]
[空間歪曲:中程度]
[特徴:時間の流れに乱れ]
[警告:接触は危険]
「リーシャさん、この歪みには近づかないで!」
しかし、リーシャの表情が変わった。
「あれを見て」
歪んだ空間の向こう側に、人影が見える。
よく見ると、それは一人の鉱夫だった。
だが——動きが異常に遅い。
「まるでスロー再生みたいね」
リーシャが呟く。
孝太は慎重にコードを入力する。
execute("scan", "target=human")
[スキャン結果]
[対象:生存]
[状態:時間減速領域に捕捉]
[推定:主観時間 1/100]
「この人にとっては、たった1秒が100秒に感じているってことか……!」
アイリスが補足する。
「この状態が長く続けば、精神に重大な影響が出る可能性があるわ」
「助けないと!」
孝太は即座にコードを書き始めた。
execute("normalize", "time_flow", "area=local")
[実行エラー]
[理由:外部干渉を検出]
「なっ……!」
その時、リーシャが剣を構え直した。
「後ろ!」
振り返ると、黒い靄のような存在が二人に迫っていた。
それは人型でありながら、輪郭が定まらない。
「まさか……《エレイザー》!?」
孝太は息を呑む。
しかし、リーシャは冷静に状況を見極めていた。
「違うわ。あれは、《エレイザー》を模倣した何かよ」
黒い存在は、まるでノイズのように揺らめきながら近づいてくる。
「く……」
孝太は再びコードを入力する。
execute("analyze", "unknown_entity")
[解析結果]
[正体:不明]
[構造:プログラム的実体]
[特徴:模倣型自律プログラム]
「やっぱり!」
リーシャの声が響く。
「あれは、誰かが作り出した偽物!」
孝太は歯を食いしばった。
目の前には救出が必要な鉱夫がいる。
そして背後からは、謎の存在が迫ってくる。
「リーシャさん、私が偽物の相手をします。鉱夫の救出を——」
「断るわ」
リーシャはきっぱりと言い切った。
「あなたこそ、鉱夫を助けて。私が、それを守り抜く」
その瞬間、黒い存在が襲いかかってきた。




