第19話 新たな異変
「これが、報告された異常のリストです」
ギルドマスターが差し出した羊皮紙には、整然とした文字で複数の事象が記されていた。
「まず北方の鉱山区画で、採掘道具が突如として消失。次に、西部農園では作物が一瞬で成長し、すぐに朽ちてしまう現象が。そして東の森では——」
「時間の流れが歪んでいる、と」
孝太は羊皮紙に目を通しながら呟いた。
execute("analyze", "anomaly_location")
[解析結果]
[複数の空間歪曲を検出]
[原因:世界再構築時のデータ整合性エラー]
アイリスの声が響く。
「孝太、これは予想以上に深刻よ。再構築の影響で、世界の法則そのものが不安定になっている」
ギルドマスターは重々しく頷いた。
「我々には詳しい原因はわからん。だが、お前なら——」
「調査してほしい、というわけですね」
孝太は立ち上がり、窓の外を見た。遠くには北方の山々が見える。
(まずはあの鉱山からか……)
「引き受けましょう」
ギルドマスターの表情が僅かに緩んだ。
「感謝する。ただし、今回は単独行動は避けてほしい」
「え?」
「既に適任の冒険者を手配してある。彼女は——」
その時、執務室の扉が開いた。
「お待たせしました」
颯爽と現れたのは、一人の女性冒険者。
銀色の装飾が施された軽装鎧に身を包み、背中には細身の剣を背負っている。
漆黒の長髪が風に揺れ、鋭い眼差しが孝太を捉えた。
「私がサポートを務めます。名前はリーシャ。Aランク冒険者です」
孝太は思わず息を呑んだ。
Aランクと言えば、レクスに次ぐ実力者。
リーシャは孝太を上から下まで観察すると、小さく溜め息をついた。
「正直、あまり気は進みませんでした。でも、ギルドマスターから話は聞いています」
彼女は一歩前に出る。
「"コードマスター"であるあなたの力が、今の異変を解決できる唯一の手段だと」
その瞬間、孝太のデバッグモードが反応した。
[警告:近接エリアに異常を検出]
[発生地点:ギルド建物内]
「っ!」
突如、執務室の空気が歪んだ。
書類が宙に浮かび、机が振動を始める。
「これは!」
リーシャが即座に剣を抜く。
孝太は急いでコードを入力した。
execute("analyze", "current_location", "emergency")
[解析完了]
[原因:空間構造の崩壊]
[推定:10秒以内に局所崩壊の可能性]
「みんな、伏せて!」
孝太の叫びと同時に、執務室の空間が歪みきった。
そして——
光が爆ぜた。