第18話 残された謎
朝日が昇り、バルドールの街は活気を取り戻しつつあった。
冒険者ギルド《銀狼の爪》の一室で、孝太は画面に映る無数のコードを見つめていた。デバッグモードには、世界の再構築後に残された断片的なデータが表示されている。
「この部分、気になるな……」
analyze("world_structure", "anomaly")
[解析結果:複数の異常を検出]
[座標:不明]
[タイプ:構造的歪み]
デバッグウィンドウに青白い文字が浮かぶ。
「無理はしないで。あなたも昨日の戦いで消耗しているはず」
「ああ、でも……」
孝太は画面から目を離さない。
「ゼインの言っていた"歪み"が、実在するみたいなんだ」
世界の再構築を試みたゼイン。彼の目的は世界をリセットすることだったが、その根底には確かな危機感があった。この世界に刻まれた"歪み"への警鐘。
「アイリス、これを見てくれ」
孝太が指差した先には、データの集合が浮かんでいた。
view("anomaly_data")
[ERROR: データ破損]
[原因:外部からの干渉]
[推定発生時期:不明]
「この世界には、誰かが意図的に手を加えた痕跡がある。ゼインの言っていたことは、間違いじゃなかった」
アイリスの文字が神妙に表示される。
「でも、だからといって世界をリセットするのは——」
「ああ、極端すぎた」
孝太は立ち上がり、窓の外を見る。
街には人々が行き交い、市場からは威勢のいい声が聞こえてくる。
「この世界には、守るべきものがたくさんある。俺には——いや、"コードマスター"にはそれができるはずだ」
その時、ドアがノックされた。
扉を開けると、そこにはラナが立っていた。
「孝太さん、ギルドマスターがお呼びです」
「ギルドマスター?」
孝太は眉をひそめる。昨日の騒動の後、まだ報告は済ませていなかった。
アイリスの文字が小さく表示される。
「気をつけて。あの再構築の影響で、まだ不安定な箇所があるはず」
孝太は無言で頷き、ラナの後に続いた。階段を上がり、ギルドマスターの執務室へ。
扉を開けると、そこには厳めしい表情のギルドマスターが待っていた。
「よく来てくれた、コードマスター」
机の上には見慣れない地図が広げられている。
そこには、赤い印が複数箇所に付けられていた。
「説明しよう。昨日の"異変"以降、各地で奇妙な現象が報告されている」
ギルドマスターは地図を指差した。
「そして、その全てが"プログラムの歪み"と関係しているらしい」
孝太は息を呑んだ。
世界は維持された——しかし、その代償として新たな問題が生まれていたのだ。