第14話 コードマスターの対決
孝太はゼインと向かい合いながら、頭の中を整理しようとした。
(この世界が"作られた"もの……? そんなの、どういう意味だよ……)
確かに、孝太は異世界に転生して以来、この世界の挙動に違和感を覚えていた。
《デバッグモード》で確認できる"エラー"は、ただのバグではなく、"意図的な改変"の痕跡を示していた。
そして、その改変を行っていたのが目の前の男——ゼインだった。
「考える時間はやらないぞ」
ゼインが冷たく言い放つと、彼の周囲に光のコードが浮かび上がった。
execute("enhance", "self", "speed", 2.0)
孝太の目の前で、ゼインの動きが一瞬で速くなる。
「速っ——!」
ゼインは高速で距離を詰め、短剣を振り下ろした。
孝太はギリギリで回避するが、ゼインの蹴りが腹部に直撃する。
「ぐっ……!」
(こいつ、《デバッグモード》を戦闘にも応用してるのか!)
孝太は地面を転がりながら、すぐに自身のスキルを発動する。
execute("boost", "defense", 1.5)
体が軽くなり、衝撃のダメージが和らいだ。
「お前も使えるようだな」
ゼインはにやりと笑い、再び攻撃態勢に入る。
孝太は考えながら戦う。
(このままじゃ、ステータスを強化し合うだけの戦いになる……なら!)
孝太は《デバッグモード》のウィンドウを開き、新たなコードを入力しようとした。そのとき、彼の視界に青白い光が浮かび上がる。
「このコードは効率が悪いわ」
デバッグウィンドウの中から、青白い光を放つ文字が現れた。まるで誰かが話しかけるように、言葉が画面上を流れていく。
「え……?」
「今はその時間はないわ。これを使って」
デバッグウィンドウのインターフェースが自動的に動き、新たなコードが入力されていく。
patch("environment", "gravity", 0.5)
[成功]
突然、重力が半分になり、二人の体がふわりと浮かび上がる。
「ほう……環境パラメータを直接書き換えるか」
ゼインは感心したように言ったが、その表情にはわずかな焦りが見えた。
(重力を半分にすれば、ゼインの高速移動の制御が難しくなるはず——!)
孝太はすかさず短剣を構え、ゼインに向かって跳躍する。
「……デバッグツールに助けを求めるとは」
ゼインがウィンドウの方を見て眉をひそめる。
重力の変化により、ゼインの動きにわずかな乱れが生じた。
孝太はその隙を突き、短剣を振るう。
「チッ……!」
ゼインは辛うじて回避したが、その目が鋭く光る。
「なるほどな……やはり、お前は興味深い」
次の瞬間、ゼインの手元に黒いウィンドウが現れた。
[エラーデータΩ-001]
《緊急アクセス権限、開放》
「なっ……!?」
孝太が驚く間もなく、ゼインの体が黒いオーラに包まれる。
「お前も感じただろう?」
「この世界のコードには、"本来存在しないもの" が埋め込まれている」
「そして、その存在が"俺たちコードマスター"に力を与えている」
ゼインの手が結晶に触れると、遺跡全体が激しく振動し始めた。
「おい、お前何を——!」
デバッグウィンドウから青い警告が点滅する。「危険!システムアクセスの強制!」
孝太の叫びを無視して、ゼインは呟く。
force_update("system")
[システム更新開始]
[エラーデータΩ-001、修正を試行]
遺跡の天井が崩れ、空間全体が歪む。
孝太の体が不思議な力に引っ張られ——
「孝太、私の声が聞こえる?」
青白い声がデバッグウィンドウから響く。
「私はアイリス。あなたのデバッグツールのサポートシステム。全てを説明する時間はないけど、あなたを守るために機能するわ」
彼女の言葉が終わらないうちに——世界が、一瞬で書き換えられた。
孝太は気がつくと、見知らぬ場所に立っていた。
青空が広がり、遠くには広大な都市が見える。
しかし、その街並みは——どこか違和感があった。
(ここは……本当に、同じ世界なのか?)
孝太が周囲を見渡していると、デバッグウィンドウが自動的に開き、青白い文字が表示された。
「ゼインの行動で、世界のコードが一部書き換えられたわ」
システムメッセージも現れる。
[システム更新完了]
[新たなコードマスターの干渉を検出]
「……新たなコードマスター?」
孝太はデバッグウィンドウに向かって問いかけた。
「アイリス……?君は一体何者なんだ?」
「詳しいことはまだ……私にもよく分からないの。ただ、あなたの《デバッグモード》と共に機能する補助プログラムだということだけは確かよ」
世界の真実に迫る旅は、まだ始まったばかりだった——。