第13話 エラーデータΩ-001
孝太はウィンドウに表示された**「不正なプログラムの干渉」**という文字を見つめ、背筋が寒くなるのを感じた。
(俺以外に、この世界をプログラム的に操作できる存在がいる……?)
これまでの異常現象やバグスライムも、もしかすると何者かの”意図的な改変”によるものなのかもしれない。
(とりあえず、詳しく調べるしかない)
孝太は《デバッグモード》を開き、エラーデータを解析するコマンドを打ち込んだ。
analyze("error", "Ω-001")
[解析開始]
ウィンドウに、詳細なエラーログが表示される。
[エラー詳細情報]
•発生地点:フォルスト遺跡 地下第2層
•影響範囲:モンスターの異常化、オブジェクトの位置ズレ、空間の不安定化
•原因:不明なスクリプトが実行中
•修正可能性:未確認
(地下第2層……つまり、今よりさらに奥に進めば何かわかるかもしれない)
孝太は意を決して、遺跡の奥へと足を進めることにした。
遺跡の異常空間
フォルスト遺跡の地下へと進む階段は、不気味なほど静かだった。
(普通のダンジョンなら、モンスターがうじゃうじゃいるはずなのに……)
それが異常現象の影響なのか、それとも”何者か”が意図的に排除したのかはわからない。
階段を降りきると、そこには奇妙な光景が広がっていた。
——空間が歪んでいる。
天井や床が揺らめくように波打ち、壁の一部が消えたり現れたりしている。
まるで、ゲームのマップデータがバグで崩壊しているかのようだった。
(やっぱり、ここで何かが起こってる……)
孝太は慎重に歩を進め、《デバッグモード》を起動する。
scan("environment")
[環境スキャン開始]
ウィンドウには、この空間に発生しているエラー情報が次々と表示された。
[エラーリスト]
•エラー#A-017:重複オブジェクトの発生
•エラー#B-032:空間座標の不整合
•エラー#Ω-001:不明なスクリプトの干渉
(……やっぱり、明らかにおかしい)
特に気になるのは、最後の”不明なスクリプト”だった。
孝太は再び解析コマンドを入力する。
trace("error", "Ω-001")
[トレース開始]
ウィンドウに新たな情報が表示された。
[スクリプト発信元]:ダンジョン最深部
(……やっぱり、原因はこの遺跡の奥にある!)
孝太は決意を固め、さらに奥へと進んだ。
《コードマスター》の敵
遺跡の最深部に到達すると、そこには奇妙な装置が鎮座していた。
宙に浮かぶ巨大な魔法陣
中心で脈動する黒い結晶
(あれが、この異常の原因か……?)
孝太が近づこうとしたそのとき——
「やっと来たか」
静かな声が響いた。
孝太が振り向くと、そこにはフードを被った人物が立っていた。
「……誰だ?」
孝太が警戒しながら問うと、男はゆっくりとフードを外す。
銀髪に鋭い赤い瞳——まるで、システムのエラーを見通しているかのような冷たい目。
「俺の名は《ゼイン》」
「お前と同じ”コードマスター”の一人だ」
「な……に?」
孝太は耳を疑った。
(俺と同じ……コードマスター?)
ゼインは薄く笑いながら、黒い結晶に手をかざした。
「お前も気づいているんだろう?」
「この世界は、本来の状態ではない」
「……どういう意味だ?」
ゼインは静かに言った。
「この世界は、“書き換えられた” んだよ」
孝太は息を飲んだ。
「お前の《デバッグモード》が見せるエラーの数々——それは ‘本来のプログラム’ とは異なる何者かの干渉が原因だ」
「そして、その干渉を行っているのは……俺だ」
孝太の手が震える。
「つまり、お前が……この世界をバグらせている張本人なのか?」
ゼインは静かにうなずく。
「だが、それは ‘悪意’ によるものではない」
「俺は、“世界の真実” を知るために、このシステムに干渉しているだけだ」
孝太は、ゼインの言葉に困惑しながらも、冷静に問いかけた。
「……真実?」
ゼインの赤い瞳が鋭く光る。
「この世界は ‘誰かによって作られたもの’ だ」
「そして、俺たちコードマスターは、それを ‘修正するための存在’ なのかもしれない」
孝太は衝撃を受けた。
(この世界が……作られたもの?)
ゼインは短剣を抜き、孝太に向けた。
「お前もコードマスターなら、俺の邪魔をする前に考えろ」
「世界のプログラムを書き換え、“本来の形” に戻すべきなのか、それともこのまま受け入れるのか」
「答えを出せ——コードマスター、孝太」
孝太も短剣を構え、息を整える。
(……俺は、何をすべきなんだ?)
彼の《デバッグモード》が、運命の選択を迫られていた——。