第12話 異常ダンジョンの調査
翌日、孝太はギルドから正式な依頼書を受け取り、指定されたダンジョンへ向かう準備を整えていた。
「本当に一人で行くの?」
ラナが心配そうに尋ねた。
「ギルドマスターは君の能力を評価してるけど、ダンジョンは危険だよ?」
「うん、わかってる。でも……俺の力がどこまで通用するのか、自分で試したいんだ」
孝太は《デバッグモード》のウィンドウを開きながら、自分のステータスを再確認した。
【孝太】
•【レベル】5(模擬戦後に経験値を獲得し、上昇)
•【職業】コードマスター
•【スキル】
•《プログラム言語の加護》Lv.2
•《デバッグモード》Lv.1
•【魔力】20(前回より上昇)
「……スキルレベルが少し上がってるな」
レクスとの戦いで成長したのかもしれない。
孝太は腰に支給された短剣を差し、ギルドの門を出た。
目的地は『フォルスト遺跡』——かつて栄えた王国の地下神殿が、現在ではモンスターの巣窟になっている場所だった。
フォルスト遺跡
ダンジョンの入り口に到着すると、ひんやりとした空気が流れてきた。
「ここか……」
孝太は慎重に遺跡の中へ足を踏み入れる。
石造りの通路は薄暗く、ところどころに崩れた壁や古びた彫刻が見える。
(異常現象が起きてるって言ってたけど、何が変なんだ?)
慎重に奥へ進むと、視界の隅に”奇妙なもの” が映った。
「……ん?」
壁に埋め込まれているはずの石柱が、“空中に浮いていた” のだ。
(バグ……か?)
孝太は《デバッグモード》を起動し、調査ウィンドウを開いた。
[オブジェクト情報]
•【対象】浮遊する石柱
•【状態】エラー(位置データ不整合)
•【修正可能】はい
(これは……やっぱり “バグ” なのか?)
孝太は試しに、コードを入力してみた。
fix("object", "floating_stone")
[修正完了]
すると、ふわふわと浮いていた石柱が本来の位置に戻った。
(やっぱり《デバッグモード》で “修正” できる……)
孝太が考え込んでいると、背後から物音がした。
「……ッ!」
すぐに振り向くと、そこには……
“通常よりも巨大なスライム” がうねうねと揺れながら迫ってきていた。
「なんだよ、こいつ……!」
異常個体との戦闘
[モンスター情報]
•【名称】バグスライム
•【状態】エラー(サイズ異常、耐久値異常)
•【通常個体よりも3倍の強さ】
「バグったモンスターまでいるのかよ……!」
孝太は短剣を構えたが、スライムの巨大な触手が勢いよく振り下ろされる。
「くそっ……!」
孝太はギリギリで避けるが、反撃の隙がない。
(まともに戦ったらヤバい……なら、デバッグで対処する!)
孝太は素早くコードを入力した。
nerf("enemy", "hp", 0.5)
[エラー] 高位モンスターへのステータス変更は無効です。
「ダメか……!」
バグ個体だからか、通常のデバッグ操作が通用しないようだった。
(なら、動きを止めるしかない!)
freeze("enemy", 5)
[成功]
すると、バグスライムの動きがピタリと止まった。
「今だ!」
孝太はすかさず短剣を振り下ろし、スライムの核を貫いた。
ズブッ!!
スライムは震え、やがてドロドロと溶けて消滅する。
「……倒せた……!」
息を整える孝太だったが、その時——
[システムメッセージ]
《デバッグモード》が新たなエラーデータを検知しました
「新たなエラー……?」
孝太がウィンドウを確認すると、そこには驚くべき情報が表示されていた。
[エラーコード:Ω-001]
《不正なプログラムの干渉を検知》
(……不正なプログラム? まさか、俺以外に “この世界を操作できる存在” が……?)
孝太は、異世界の “異常” が、単なる自然現象ではないことを確信した。
(もしかすると……この世界には、“俺と同じ能力を持つ誰か” がいるのかもしれない)
彼の《コードマスター》としての旅は、思った以上に深い謎へと足を踏み入れようとしていた——。