第11話 ギルドマスターとの対面
孝太は、ラナに案内されながらギルドの上階へと向かった。
「ギルドマスターって、どんな人なんだ?」
孝太が尋ねると、ラナは少し考えてから答えた。
「とても冷静で、頭の切れる方です。でも、強さも折り紙付きで、昔は伝説の冒険者と呼ばれていたとか……」
(伝説の冒険者か……俺の《デバッグモード》を見抜かれたら、さすがにヤバいかも)
そんな不安を抱えながら、孝太はラナの後を追ってギルドマスターの執務室の前に立った。
「どうぞ、お入りください」
ラナが扉を開けると、豪華な装飾が施された部屋の奥に、一人の男が座っていた。
銀髪に鋭い青い瞳を持ち、黒と金を基調としたローブを羽織っている。
「待っていたよ、新人の冒険者くん」
孝太は一瞬、圧倒された。ギルドマスターはただ座っているだけなのに、その存在感が凄まじい。
「君の名前は……孝太だったね?」
「は、はい」
孝太が返事をすると、ギルドマスターは微かに笑みを浮かべた。
「先ほど、レクスから報告を受けたよ。君は模擬戦で彼に一撃を入れたそうだね?」
孝太はドキリとした。
(……まさか、ここで問い詰められるのか?)
ギルドマスターは少し身を乗り出し、興味深げに孝太を見つめる。
「正直に話してほしい。君、“何か特別な力” を持っているね?」
孝太は息を呑んだ。
(どうする? ここで下手に嘘をついても、バレるかもしれない……)
だが、下手に《デバッグモード》のことを話せば、この世界の秩序を乱す存在として危険視される可能性もある。
(とりあえず、誤魔化せる範囲で話すしかないか)
孝太は少し間を置いてから、慎重に言葉を選んだ。
「……僕の職業は《コードマスター》というものです。この職業のスキルで、戦闘中に ‘地面を氷に変える’ ことができました」
ギルドマスターはじっと孝太を見つめたままだったが、やがて静かにうなずいた。
「ふむ……確かに、通常のスキルとは異なる能力のようだな」
彼はしばらく考え込んだあと、さらに言葉を続けた。
「君の能力がどういうものか、正確にはわからない。ただし、“この世界にとって重要なもの” であることは間違いない」
「え……?」
孝太は驚いた。
「どういう意味ですか?」
ギルドマスターは深く息をつき、少し表情を引き締めた。
「君がこの世界に現れる少し前から、この大陸の各地で ‘異常現象’ が発生している」
「異常現象?」
ギルドマスターは静かにうなずいた。
「例えば、突如として ‘本来存在しないはずの魔物’ が現れたり、ダンジョンの構造が書き換わったりする。まるで ‘世界の設定’ が改変されているかのように、ね」
孝太は息を飲んだ。
(……まさか、これって……)
「君の能力がその異変と関係があるのか、それとも ‘鍵を握る存在’ なのか……今のところは判断できない」
ギルドマスターの視線が、一層鋭くなる。
「だが、君が普通の冒険者ではないことは確かだ」
孝太は、ギルドマスターの言葉の重みを感じていた。
(……もしかして、俺の《デバッグモード》の力と関係してるのか? いや、それとも……)
ギルドマスターは静かに立ち上がり、孝太に向き直った。
「孝太、君に ‘依頼’ がある」
「依頼……?」
「近くのダンジョンで、最近 ‘異常な現象’ が発生している。通常の冒険者では対応が難しくなっている状況だ」
ギルドマスターは孝太の目をじっと見つめながら、続ける。
「君の ‘能力’ を使い、その異常を調査してほしい」
孝太は一瞬、迷った。
だが——
(……ここで逃げるわけにはいかないか)
孝太は決意を固め、ギルドマスターを真っ直ぐに見据えた。
「わかりました。その依頼、引き受けます」
——こうして、孝太は《コードマスター》としての本格的な冒険へと踏み出すことになった。