表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/107

第105話 最後の選択

眩い光が収まり、四人は硬い石の床の上に横たわっていた。

目を開けると、そこは「記憶の神殿」の内部だった。バルドールの、彼らが時間旅行を始めた場所に戻ってきたのだ。


「成功したのか…」

孝太が頭を抱えながら体を起こす。


「みんな無事?」

アイリスが周囲を見回す。


「どうにか…」

リーシャが唸りながら立ち上がる。


「場所は合っているが…」

コウが神殿内を観察する。

「時間はどうだろう?」


神殿内は彼らが出発した時と同じように見えたが、微妙な違いがあった。

壁に刻まれた模様が少し変わっており、床の七色の紋様もより鮮明になっていた。


「何かが変わっている」

アイリスが感じ取る。

「核の力が…より安定しているわ」


「おそらく私たちの行動の結果だろう」

コウが理解を示す。

「過去のエリオットの選択が、現在に影響を与えたのだ」


彼らが状況を確認していると、神殿の扉が開き、二人の人影が入ってきた。


「本当に戻ってきたのね!」

オルガ婆さんの声が響く。


「みんな!」

その隣にいたのは、フィンだった。


「フィン!」

四人が驚きの声を上げる。


少年は嬉しそうに駆け寄り、孝太に飛びついた。

「戻ってきた!みんな無事で!」


「フィン、君も…!」

孝太が安堵の表情で彼を抱きしめる。

「どうして?君は時間の流れではぐれたはずだが」


「僕も別の時代に行ったんだ」

フィンが興奮した様子で説明を始める。

「未来だったよ!すごい技術があって、空飛ぶ乗り物とか、話せる機械とか!」


「未来?」

リーシャが驚く。


「ええ、彼は一週間前に戻ってきました」

オルガ婆さんが説明する。

「何かを追いかけられて逃げてきたようでしたよ」


「追いかけられた?」

コウが警戒する。


「"黒い影"に」

フィンが少し怯えた表情になる。

「それが僕を捕まえようとしたんだ。でも、"希望の橋"というのが現れて、そこを通って戻ってこれたんだ」


「"希望の橋"…」

アイリスが考え込む。

「時間の裂け目のことかもしれない」


「時間旅行の記録」

オルガ婆さんが古い本を取り出す。

「フィンが戻ってきた時、我々は君たちも間もなく戻ると考えていた。そして、神殿のエネルギーが急増した今日、ここで待っていたのです」


「どのくらい経ったんですか?私たちがいない間に」

孝太が尋ねる。


「出発してからちょうど一ヶ月です」

オルガ婆さんが答える。


「一ヶ月…」

リーシャが驚く。

「古代アルカディアでは一週間ほどしか過ごしていないのに」


「時間の流れは不思議なものです」

オルガ婆さんが微笑む。

「さあ、ギルドに戻りましょう。ギルドマスターが待っていますよ」


彼らは神殿を出て、バルドールの街へと向かった。

街の景色は基本的に同じだったが、ところどころに微妙な変化があった。

建物のデザインがより洗練され、七色の装飾が増えていた。

人々の服装も少し変わっており、古代アルカディアの影響を思わせるデザインが見られた。


「街が…変わっている」

コウが周囲を見回す。


「でも、根本的には同じバルドールよ」

アイリスが言う。

「歴史の大きな流れは変わっていないみたい」


冒険者ギルドに到着すると、ギルドマスターが彼らを出迎えた。

「よく戻ってきた」

彼が温かく迎える。

「成功したようだな」


「はい」

孝太が頷く。

「過去を見て、多くのことを学びました」


「そして、少し変えたのではないか?」

ギルドマスターが鋭い洞察を示す。


「微調整程度に」

コウが控えめに言う。


「興味深い」

ギルドマスターが微笑む。

「私たちの歴史の記録も、少し変わったのだ」


彼は古い書物を開き、ページをめくる。

「"大災厄の日、二人の天才が最後の選択を下した"と書かれている」

彼が朗読する。

「"一人は自己犠牲により街を救い、もう一人は調和の力を後世に伝えた"」


「エリオットとマイラ…」

アイリスが静かに言う。


「そして、こうも記されている」

ギルドマスターが続ける。

「"時を超えた旅人たちの導きにより、完璧への執着が調和への理解へと変わった"」


「私たちのことが歴史に?」

リーシャが驚く。


「名前は記されていないが、おそらくそうだろう」

ギルドマスターが頷く。


「それでは創造院は?」

孝太が心配そうに尋ねる。


「依然として存在している」

ギルドマスターの表情が厳しくなる。

「しかし、その本質に変化があるようだ」


彼は彼らをギルドの奥、作戦室へと案内した。

そこには大きな地図が広げられ、創造院の拠点が示されていた。


「彼らの活動パターンが変わった」

ギルドマスターが説明する。

「より…複雑になっているのだ」


「複雑?」

コウが尋ねる。


「創造院の内部に分派が生まれたようだ」

ギルドマスターが地図の異なる印を指さす。

「一つは従来通りの"完璧"を求める過激派。もう一つは"制御された調和"とでも呼ぶべき穏健派だ」


「エリオットの最後の選択が、創造院の思想にも影響を与えたのか」

孝太が理解を示す。


「しかし、これでより状況が複雑になった」

オルガ婆さんが言う。

「単純な敵対関係ではなくなった」


「どういうことでしょう?」

リーシャが尋ねる。


「過激派は依然として危険だが、穏健派は対話の可能性がある」

ギルドマスターが説明する。

「しかし、どちらを信じるべきか、どちらと同盟を結ぶべきか…それが新たな問題となった」


「最後の選択…」

アイリスがつぶやく。

「私たちはまた岐路に立っているのね」


ギルドマスターは重々しく頷いた。

「そして、それだけではない」

彼は窓の外を指さす。


全員が窓に近づき、外を見る。

空には、かすかに七色に輝く「希望の橋」と呼ばれた光の帯が見えた。


「"大収斂"の余波だ」

ギルドマスターが説明する。

「次元の壁が薄くなり、異なる世界への通路が開きつつある」


「東京への…?」

孝太が息を呑む。


「可能性はある」

オルガ婆さんが言う。

「しかし、その通路はまだ不安定だ。核の力を適切に使わなければ、異なる場所や時間に飛ばされるリスクもある」


「それに」

ギルドマスターが厳しい表情で付け加える。

「創造院も、この通路に気づいている。彼らは既に利用を試みている」


「何のために?」

コウが警戒する。


「東京…あなたの故郷の世界に干渉するためだ」

ギルドマスターが孝太に向かって言う。

「彼らは"大収斂"を両方の世界で同時に起こそうとしているようだ」


「それは許せない」

孝太の表情が引き締まる。


「今夜、詳細な計画を立てよう」

ギルドマスターが提案する。

「まずは休息を取るといい。長い旅だったのだから」


彼らはそれぞれの部屋に案内された。

孝太は窓辺に立ち、「希望の橋」を見つめていた。

あの光の向こうには東京があり、そして家族や友人たちがいる。

しかし、創造院も同じ橋を狙っている。


ノックの音がして、アイリスが入ってきた。

「考え事?」

彼女が隣に立つ。


「ああ」

孝太が窓の外を見つめたまま言う。

「私たちの行動が、本当に正しかったのか考えていた」


「後悔しているの?」

アイリスが静かに尋ねる。


「いや、そうではない」

孝太が首を振る。

「ただ、予期せぬ結果に戸惑っている。創造院が分裂するとは…」


「でも、それは良い兆候かもしれないわ」

アイリスが希望を込めて言う。

「"完璧"だけを追い求める一枚岩の敵より、内部に"調和"の芽が生まれた方が、対話の可能性がある」


「確かにそうだけど…」

孝太が深く息を吐く。

「これからの選択がより難しくなった」


「それが"調和"というものよ」

アイリスが微笑む。

「単純ではなく、複雑。一方的ではなく、双方向」


彼らの会話は、別のノックによって中断された。

今度はコウが入ってきた。


「すまない、邪魔をするつもりはなかった」

彼が謝る。


「いいんだ、入って」

孝太が招き入れる。


コウも窓際に立ち、三人で夜空を見つめる。

「"希望の橋"…」

彼がつぶやく。

「東京への道」


「僕たちはどうするべきだろう?」

孝太が二人に問いかける。

「この橋を使って東京に戻るべきか、それともここに残ってバルドールを守るべきか」


「難しい選択ね」

アイリスが静かに言う。


「私は…」

コウが言いかけて止まる。

「いや、これは孝太自身が決めるべきことだ」


「でも、君はどう思う?」

孝太が彼に尋ねる。


コウはしばらく考え、そして静かに言った。

「私は残るつもりだ。この世界には、まだ私の務めがある」


「コウ…」

孝太が驚く。


「創造院との戦いは終わっていない」

コウが続ける。

「そして、私は一度、彼らの思想に取り込まれた者として、その危険性を誰よりも理解している」


「私も残るわ」

アイリスが決意を込めて言う。

「核の管理者として、この世界を守る責任がある」


孝太は二人の決意を感じながら、自分自身の心の内を探った。

東京への思い。家族や友人たちへの思い。

そして、バルドールでの冒険と絆。


「明日、創造院の分派について詳しく調べよう」

孝太が提案する。

「そして、最善の道を見つけよう」


三人はそれぞれの思いを胸に、休息を取ることにした。


---


翌朝、彼らはギルドの作戦室に集まった。

ギルドマスター、オルガ婆さん、そしてリーシャとフィンも加わり、創造院の新たな動きについて情報を共有した。


「穏健派のリーダーは、ルークだ」

ギルドマスターが地図を指さす。


「ルーク?」

リーシャが驚きの声を上げる。

「冒険者ギルドのあのルーク?」


「そうだ」

ギルドマスターが頷く。

「彼は元々創造院の一員だったが、過激派の行動に疑問を持ち、穏健派を率いるようになった」


「彼は接触を求めている」

オルガ婆さんが付け加える。

「対話の場を設けたいと」


「それは罠かもしれない」

コウが警戒する。


「可能性はある」

ギルドマスターが認める。

「しかし、真剣な申し出かもしれない」


「過激派はどうなんですか?」

フィンが尋ねる。


「彼らのリーダーは、ゼインという男だ」

ギルドマスターが説明する。

「彼は"完璧なる世界の創造者"を自称している」


「新しい名前だな」

孝太がつぶやく。


「しかし、彼の背後には別の存在がいるという噂もある」

オルガ婆さんが不安そうに言う。

「"黒い影"と呼ばれる存在…」


「"黒い影"?」

フィンが震える。

「僕を追いかけてきたのと同じかも」


「《エレイザー》の影響かもしれない」

アイリスが心配そうに言う。

「時間と次元の裂け目から漏れ出しているのかも」


「さらに問題なのは、これだ」

ギルドマスターが別の地図を広げる。

「"希望の橋"が現れている場所がある。ここ、東の森の奥地だ」


地図には、東の森の奥深くに印がつけられていた。


「そこで、次元の壁が最も薄くなっている」

ギルドマスターが説明する。

「創造院の両派が、この場所に関心を持っている」


「私たちはどうするべきでしょうか?」

リーシャが尋ねる。


「まず、ルークとの対話を試みるべきだ」

孝太が決断する。

「彼の本当の意図を確かめる」


「賛成だ」

コウが頷く。


「そして、"希望の橋"の場所も調査する必要がある」

アイリスが言う。

「それが安定しているのか、危険なのか」


「二手に分かれましょう」

リーシャが提案する。

「私とコウがルークとの接触を担当します。孝太とアイリスは"希望の橋"を調査してください」


「僕も行く!」

フィンが手を挙げる。

「"希望の橋"のことなら、僕が一番よく知ってるよ」


ギルドマスターは彼らの計画を審議し、最終的に承認した。

「危険な任務だ。十分に注意してくれ」


それぞれの準備が整い、二つのグループに分かれて出発することになった。

出発前、孝太とコウは短い会話を交わした。


「気をつけてくれ」

孝太が言う。


「君こそ」

コウが微笑む。

「"希望の橋"が見つかったら…帰るつもりか?」


孝太は空を見上げた。

「まだ決めていない。まずは橋を守り、創造院から両方の世界を守ることが先決だ」


「理解した」

コウが頷く。

「また合流しよう」


リーシャはアイリスとも短い会話を交わした後、コウと共に西へと向かった。

ルークとの接触地点は、バルドールから一日の距離にある中立地帯だった。


一方、孝太、アイリス、フィンの三人は東の森へと向かった。

"希望の橋"の調査、そして、もしかしたら東京への道を探すために。


彼らの前には、再び重要な選択が待ち受けていた。

過去での経験を活かし、未来のために最善の決断を下さなければならない。

そして、その決断が二つの世界の運命を左右することになるのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ