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第100話 二人の天才

「結びの鏡」は宮殿の最も奥まった部屋にあった。

丸い広間の中央に設置された巨大な水晶の鏡は、七色に淡く輝いている。

部屋全体が青と白の大理石で装飾され、天井には星座が描かれていた。


「これが"結びの鏡"です」

ダリウスが孝太を鏡の前に導く。

「古代の技術と"調和"の力が融合した遺物だ」


「どうやって使うのですか?」

孝太が鏡の表面を見つめる。


「君の思いを鏡に向けるのだ」

ダリウスが説明する。

「繋がりのある者たちを思い浮かべながら」


孝太は鏡の前に立ち、目を閉じた。

アイリス、リーシャ、コウ、そしてフィンの姿を心に思い浮かべる。

彼らとの冒険、共に過ごした時間、そして絆。


「"調和"の力よ、離れた者たちを結びつけよ」

ダリウスが古い言葉で詠唱を始める。


鏡が強く輝き始め、その表面に霧のような模様が現れた。

やがて霧の中から映像が浮かび上がる。


最初に見えたのは、古びた塔の上にいるリーシャの姿だった。

彼女は青い鎧を身にまとい、何かを警戒するように遠くを見つめている。


「リーシャ!」

孝太が思わず声を上げる。


「彼女は北の辺境、"青の塔"にいるようだ」

ダリウスが映像を見て言う。

「そこは我々の最前線。黒鉄帝国との国境地帯だ」


次に映し出されたのは、緑豊かな森の中にいるアイリスだった。

彼女は大きな木の根元に座り、何かを瞑想しているようだ。


「アイリスは"翠の森"にいる」

ダリウスが言う。

「東の聖地だ。そこには古代からの魔力が満ちている」


コウの姿も現れた。彼は山の中腹にある小さな集落にいた。

彼は村人らしき人々と話をしている。


「彼は西の"静かなる谷"だ」

ダリウスが説明する。

「戦乱から逃れた人々が集まる隠れ里」


「そしてフィンは?」

孝太が尋ねる。


鏡の表面がさらに霧がかり、やがて小さな姿が浮かび上がった。

フィンは宮殿のような場所にいた。彼の周りには何人かの子供たちがいる。


「これは…」

ダリウスの表情が変わる。

「"黒鉄宮"…黒鉄帝国の中心部だ」


「フィンが敵の中心にいる!?」

孝太が驚きの声を上げる。


「どうやら彼は"黒鉄の学舎"にいるようだ」

ダリウスが映像をじっと見る。

「帝国が特別な才能を持つ子供たちを集める施設だ」


「彼は危険な状況にいるのか?」

孝太が心配そうに尋ねる。


「即座の危険はなさそうだ」

ダリウスが答える。

「しかし、帝国の思想に染まる恐れはある」


鏡の光が弱まり、映像が消えていく。


「彼らは皆、離れた場所にいる」

孝太が嘆息する。

「どうやって全員と合流すればいい?」


「一度に全員とは難しいだろう」

ダリウスが現実的に言う。

「まずは最も近い者から。アイリスなら"翠の森"へは一日の道のりだ」


「そうですね」

孝太が頷く。

「アイリスと合流して、それから他の皆を探したい」


「賢明な判断だ」

ダリウスが同意する。

「しかし、その前に見てほしいものがある」


彼は孝太を別の部屋へと導いた。

そこには大きな金属の箱が置かれていた。

黒い金属で作られたその箱には、複雑な模様が刻まれている。


「これが"黒鉄の箱"だ」

ダリウスが言う。

「帝国が求めるもの」


「これが…"調和"を破壊する装置?」

孝太が箱を観察する。


「正確には、"大収斂"を引き起こす触媒だ」

ダリウスが説明する。

「核の力と共鳴し、その力を歪める」


「創造院の武器だ…」

孝太がつぶやく。


「この箱の起源についても知っておくべきだろう」

ダリウスが古い本を取り出す。

「この箱は"二人の天才"が作ったものだ」


「二人の天才?」

孝太が興味を示す。


「古代アルカディアの時代、核の研究で頂点に立った二人の科学者がいた」

ダリウスが本を開く。

「エリオット・シンとメイラ・ハーモニア」


「ハーモニア…あなたの先祖?」

孝太が驚く。


「そうだ」

ダリウスが頷く。

「私の家系は代々、"調和"の守護者として生きてきた」


「それで、その二人は何をしたのですか?」

孝太が尋ねる。


「彼らは核の力を完全に理解しようとした」

ダリウスが説明を続ける。

「そして、最終的に二つの道に分かれた」


彼は本のページをめくり、二人の肖像画を見せた。

一人は鋭い目をした男性、もう一人は優しい表情の女性だった。


「エリオットは"完璧"を追求した」

ダリウスが男性の肖像を指さす。

「彼は核の力で世界を再構築できると考えた」


「そして、メイラは?」

孝太が女性の肖像を見る。


「彼女は"調和"を重んじた」

ダリウスが答える。

「不完全さの中のバランスこそが、世界の真の姿だと」


「ルザンの思想と同じだ」

孝太が理解を示す。

「エリオットの考えが創造院に繋がったのですね」


「その通り」

ダリウスが頷く。

「彼らの対立は、やがて"大災厄"の遠因となる」


「この"黒鉄の箱"は?」

孝太が再び箱を見る。


「エリオットの作品だ」

ダリウスが答える。

「彼はメイラとの決別後、この箱を作った。そして彼の弟子たちが、今の黒鉄帝国を築いた」


「もし帝国がこの箱を手に入れたら…」

孝太が懸念を示す。


「核の力を歪め、"大収斂"を起こそうとするだろう」

ダリウスの表情が暗くなる。

「それは第二の"大災厄"を意味する」


「だから守らなければならない」

孝太が決意を固める。


「しかし、それだけでは不十分だ」

ダリウスが言う。

「箱を守るだけでなく、"調和"の思想も守らねばならない」


彼は小さな青い結晶を取り出した。

「これは"青の調和石"」

ダリウスが説明する。

「メイラの遺産だ。"調和"の力を宿している」


孝太は結晶を手に取る。

中から七色の光が優しく輝いている。


「この石を"翠の森"に持っていってほしい」

ダリウスが言う。

「そこにいるアイリスに渡すのだ。彼女なら、その力を目覚めさせられるだろう」


「分かりました」

孝太が結晶を大切そうにポケットに入れる。


「そして、私はこの箱を安全な場所に移す」

ダリウスが言う。

「帝国が探し当てる前に」


突然、遠くで爆発音が響いた。

宮殿全体が揺れる。


「攻撃が激しくなってきた」

ダリウスが窓の外を見る。

「時間がない。今すぐ出発しなければ」


彼は別の扉を開き、秘密の通路を示した。

「この通路を通れば、都市の東門に出る。そこから"翠の森"へ向かうのだ」


「あなたは?」

孝太が心配そうに尋ねる。


「私は箱を守る」

ダリウスの目に決意の色が浮かぶ。

「これは私の使命だ」


「でも…」

孝太が躊躇う。


「心配するな」

ダリウスが微笑む。

「ハーモニア家は簡単には滅びない。預言にある通り、未来にゼタが存在するのだからな」


孝太は深く頭を下げた。

「お会いできて光栄でした、ダリウス・ハーモニア」


「再会を願おう、"時の旅人"よ」

ダリウスが孝太の肩に手を置く。

「"調和"の道を進め」


---


孝太は秘密の通路をたどり、都市の東門にたどり着いた。

門はすでに開かれており、多くの市民が避難していた。

遠くでは戦闘の音が響き、空には黒い煙が立ち上っている。


「"翠の森"はどちらですか?」

孝太が門番に尋ねる。


「東に進み、"青の川"を渡れば見えてくる」

門番が答える。

「だが、危険だぞ。森の周辺にも敵の偵察隊がいるかもしれん」


「分かっています。ありがとう」

孝太が礼を言い、東へと走り出した。


荒野を走りながら、孝太はこの世界の状況を整理していた。

「これは"大災厄"の始まり。創造院の思想を持つ黒鉄帝国と、"調和"を守るアズール王国の戦い」


彼は空を見上げた。

太陽はすでに傾き始め、あと数時間で日が暮れる。

「森に着く前に暗くなる。急がなければ」


彼は「青の川」に到着した。

青い水が滔々と流れ、幅は約30メートルほどある。

橋は破壊された形跡があり、対岸へ渡る方法がない。


「困ったな…」

孝太が川岸を探索する。

「上流か下流に渡し場があるかもしれないが、時間がかかる」


彼はデバッグモードを起動してみた。

青い光のインターフェースが現れる。


```

Environment_Analysis(

target: "River_Crossing",

options: "Identify_Possibilities",

priority: "Safety_And_Speed"

);

```


青い光が川の流れを分析し、安全に渡れる場所を探し出した。

約200メートル下流に、水深が浅く流れの緩やかな場所があることが分かる。


「よし、そこを渡ろう」

孝太が下流へと向かう。


見つけた場所で川を渡り、対岸に着いたとき、日はかなり傾いていた。

東の地平線上に、巨大な森が見えてきた。

「翠の森"だ!」


孝太は森に向かって走り始めた。

しかし、森の手前で足を止めた。

数人の兵士が森の入口を警戒していたのだ。


黒い鎧に身を包んだ彼らは、明らかに黒鉄帝国の兵士だった。

「偵察隊か…」


孝太は隠れながら状況を観察した。

偵察隊は5人ほどで、森の入口を見張っている。

「正面突破は難しい。別の入口を探すべきか」


彼は森の縁に沿って北に移動し、警戒の目を避けながら進んだ。

約1キロほど移動したところで、監視の届かない場所を見つけた。


「ここから入ろう」

孝太が森の中へと入っていく。


森の中は驚くほど明るかった。

木々が七色に淡く光り、道なき道を照らしていた。

「この光…"調和"の力だ」


彼は森の奥へと進み、アイリスを探し始めた。

「アイリスがどこにいるのか…」


突然、木々の間から美しい歌声が聞こえてきた。

孝太はその声に導かれるように進んだ。


森の中心部に広がる小さな湖。

その湖畔の大きな木の下に、アイリスの姿があった。

彼女は目を閉じ、静かに歌を歌っていた。


七色の光が彼女の周りを包み、湖の水面にも反射して幻想的な光景を作り出している。


「アイリス!」

孝太が声をかける。


アイリスが目を開け、驚いた表情を見せた。

「孝太…?本当に…あなた?」


「ああ、僕だよ」

孝太が彼女に近づく。


アイリスは立ち上がり、孝太に駆け寄った。

「信じられない…どうやってここに?」


「時間の流れの中ではぐれてしまったんだ」

孝太が説明する。

「僕はセレスティアに着いた。そこでダリウス・ハーモニアと会った」


「ダリウス…"青の守り人"」

アイリスが驚く。

「彼は伝説の人物よ」


「彼の助けで君を見つけたんだ」

孝太が続ける。

「リーシャとコウ、そしてフィンの居場所も分かった」


「フィンも無事なの?」

アイリスの目に安堵の色が浮かぶ。


「ああ」

孝太が頷く。

「ただ、彼は黒鉄帝国の中心にいるようだ」


「あの子が…」

アイリスの表情が曇る。


「彼を救い出さなければならない」

孝太が言う。

「それから、この時代から脱出する方法を見つけないと」


「私もそれを考えていたわ」

アイリスが湖を見つめる。

「この森に来てから、核の力を強く感じるの。何かヒントがあるはず」


「それで、ダリウスから預かったものがある」

孝太がポケットから青い結晶を取り出す。

「"青の調和石"だ」


アイリスは結晶を見て、目を見開いた。

「これは…メイラ・ハーモニアの遺産!」


「知っているの?」

孝太が驚く。


「ええ、この森で瞑想していた時、彼女の記憶の断片を見たの」

アイリスが説明する。

「彼女は"調和"の守護者だった。エリオット・シンと対立した人物よ」


「ダリウスも同じことを言っていた」

孝太が頷く。

「この結晶を君に渡すよう言われたよ」


アイリスが結晶を手に取ると、七色の光が強まった。

「この力…」


彼女の体が七色に輝き始め、結晶と共鳴しているようだった。

「私には分かるわ。この結晶には"次元の扉"を開く力がある」


「次元の扉?」

孝太が驚く。

「それは私たちが元の時代に戻れるということ?」


「可能性はあるわ」

アイリスが頷く。

「でも、力を解放するには、七つの場所で"調和の儀式"を行う必要がある」


「七つの場所?」

孝太が尋ねる。


「七つの核に対応する七つの聖地よ」

アイリスが説明する。

「この"翠の森"はその一つ。"変化"の聖地」


「他の聖地は?」

孝太が尋ねる。


「"青の塔"は"均衡"の聖地。リーシャがいる場所よ」

アイリスが言う。

「"静かなる谷"は"記憶"の聖地。コウがいる場所」


「まるで導かれたかのようだ…」

孝太が感嘆する。


「そうね。時間の流れが私たちを必要な場所に送り込んだのかもしれない」

アイリスが微笑む。


「そして、フィンは?」

孝太が心配そうに尋ねる。


アイリスの表情が真剣になる。

「"黒鉄宮"は"創造"の聖地。皮肉なことに、帝国はその上に建っているの」


「彼を救出しなければ」

孝太が決意を固める。


「でも、その前に…」

アイリスが声をひそめる。

「森の入口に敵がいるのを感じたわ」


「ああ、黒鉄帝国の偵察隊だ」

孝太が頷く。

「森に入ろうとしている」


「この森は守らなければならない」

アイリスの目に決意の色が浮かぶ。

「ここは"調和"の力の源の一つ。帝国の手に落ちれば、彼らの力が増す」


「どうすればいい?」

孝太が尋ねる。


「まず、"青の調和石"の力を解放する」

アイリスが結晶を掲げる。

「それから、敵を撃退しましょう」


彼女は湖の中央に歩み出た。

水面が彼女の足元で固まり、彼女を支えている。


「"変化"の力よ、目覚めよ」

アイリスが詠唱を始める。


結晶が強く輝き、七色の光が湖全体に広がった。

木々が反応し、より明るく輝き始める。


孝太はデバッグモードを起動し、儀式をサポートした。


```

Enhance_Harmonization(

target: "Blue_Harmony_Stone",

channel: "Nature_Forces",

amplification: "Maximum"

);

```


青い光が七色の光と混じり合い、森全体が揺れ始めた。

大地から新たな木々が生え、森の入口を覆っていく。


「森自体が守りを固めている…」

孝太が驚きの声を上げる。


「"変化"の力の本質よ」

アイリスが説明する。

「自然の摂理に従いながらも、必要に応じて変化する」


儀式が完了すると、アイリスは湖から戻ってきた。

「これで一時的に森は守られる。でも、すぐに次の場所へ向かわなければ」


「リーシャのいる"青の塔"?」

孝太が尋ねる。


「そうね」

アイリスが頷く。

「"均衡"の力を目覚めさせれば、より強力な防御が可能になる」


「それから、コウとフィンを…」

孝太の言葉が途中で途切れた。


遠くから、強烈な爆発音が響いてきた。

空が一瞬、赤く染まる。


「セレスティアだ!」

孝太が声を上げる。


「重大な戦いが始まったのね」

アイリスの表情が暗くなる。

「"大災厄"の本格的な幕開けだわ」


「ダリウスは大丈夫だろうか…」

孝太が心配する。


「彼は強い人よ」

アイリスが孝太を安心させようとする。

「それに、彼の子孫がゼタとして存在する未来があるのだから」


「そうだね」

孝太が少し安堵する。

「では、"青の塔"へ向かおう」


二人は森の力で作られた安全な通路を通り、北へと向かい始めた。

「青の塔」でリーシャと合流し、そこから「静かなる谷」のコウ、そして最終的にはフィンを救出するという長い旅が、今始まろうとしていた。


歴史の分岐点にいる彼らが、この世界にどのような影響を与えるのか。

そして、無事に元の時代に戻れるのか。

全ては彼らの選択と、"調和"の力にかかっていた。

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