第一部 夢の一歩 28話
魔王という言葉に唖然とする猿楽とエンマ。
ダマリは続ける
「この世界は、君たちのいた地球とは違うのは、もうわかってるかな?」
猿楽は答える
「はい…ん?なんで俺たちが地球から来たって分かるの?」
ダマリは質問には答えず話を続ける
「それについても後で、ここは地球ではなく魔球と呼ばれている」
猿楽はエンマに
「そうなの?」
エンマはツッコむ
「おいらが知ってるわけないだろ!」
猿楽は気づいて
「ああ、そっか」
ダマリは微笑みながら続ける
「魔球は一人の支配者、王によって統治されていた。しかし王が突然亡くなり、後継者である王子も姿を消してしまった」
猿楽は真剣に聞いている
「魔球を収めるには絶対的な力が必要だった。先代は滅多に姿を現さず、争いが起きた時だけ突然現れその力で争いを止め、また消えていく。その力に魔球の人々は信頼と恐怖を感じて、種族間の争いも少なく平和に共存していた」
「しかし魔王亡き後、次期魔王に名乗りをあげた各種族のトップ達は力が拮抗していた。そして欲を持ってしまった。魔王を決める争いは長い間続き、いつしか各種族が領地を持つようになり、それぞれが国を納めるようになった」
「各国の王は何度も代替わりをし、争いを続けているのが現在だ」
猿楽が答える
「えーっと、俺にどうしろと?」
ダマリは答える
「各種族が準備を整え、争いが始まろうとしている。それを君の力で止めて欲しい」
猿楽は苦笑いで
「俺には無理です」
ダマリは尋ねる
「君には特別な力があるはずだ」
猿楽は答える
「俺にはそんな力は無いです」
ダマリは諦めず
「君のスキルは?」
猿楽は笑って
「スキル無いんです、ははは」
ダマリは焦って
「え?じゃあ、この魔物達は?君が召喚したとか、操ってるとかではなく?」
猿楽は笑顔で
「ここに来て出来た家族です!」
ダマリは驚く
「そんな、スキルも無くてこんなことが?」
猿楽は続ける
「それに誰が王になってもいいじゃないですか、力のあるものが王になる、それが生き物の世界の共存です。俺はこの生き物の世界の邪魔はしたくない」
ダマリは肩を落とす
「君にはこの魔物達がどう見えているんだ?」
猿楽ははっきりと
「大切な家族です!それに俺が出会ったことのない魔物とも家族になりたい!」
ダマリは答える
「では君は必ずこの争いに関わることになる」
猿楽は理解できず
「そうなの?」
エンマが答える
「まぁ、魔物が争うってことだからな、それ見たらお前止めるだろ?」
猿楽はハッとして
「うん!」
エンマは少し笑いながら
「じゃあ関わっちゃうな」
猿楽は笑って、ダマリに
「俺、やっぱりその争いっていうのには関わっちゃうと思う!でもこの世界を救うとか、魔王とかはよくわかんないからごめんなさい!」
ダマリは答える
「今はそれで良しとしよう、この世界について知りたいことがなんでも答えよう」
猿楽はキッパリと
「大丈夫!今は困ってないから!」
エンマは猿楽に
「おい!なんでも知ってる感じだぞ!聞いといた方が!」
猿楽は嫌そうな顔で
「もう限界、人と関わりたくない」
エンマは頭を抱えて
「あー、わかったよ」
猿楽はダマリに
「じゃあ、水と食料は渡すので、ここで解散ということで」
ダマリは驚いて
「え?急に?ここで!?」
猿楽は答える
「あ、無理ですか?んー、どうしよう…」
ダマリは苦笑いで
「ああ、ここで大丈夫だ」
猿楽は嬉しそうに
「本当ですか!これどうぞ」
水と食料を貰ったダマリは
「あ、ありがとう。また会うと」
ダマリの言葉を最後まで聞かずに猿楽は
「さよならー!」
ダマリから離れると、家族みんな笑い出す。
エンマが猿楽に
「相変わらずだな!」
シャークが大笑いで
「ヒトが苦手ってどういうことだよ!」
猿楽は水を飲みながら
「なんだろう…俺にもよくわかんないんだよね」
フックが猿楽に
「思わぬ弱点です」
モグモグがツッコむ
「猿楽はんは弱点だらけやろ?」
ドッと笑いが起きる。
猿楽も笑いながら
「ひどいよー!もう、あの人のせいで暗くなってきちゃったし」
シルフも共感して
「今日中に帰れると思ったんですが、明日にしましょう」
星助が答える
「この辺は強い魔力も感じないから大丈夫だよ」
Jr.が星助に
「父ちゃんがいるからあんまりよって来ないんだよ」
猿楽がみんなに
「ここで休んで明日、みんなで帰ろう!」
エンマがいつの間にかコック棒を被っていて
「よーし!じゃあ飯だな!」
シャークがエンマに
「なんだその格好?」
フックも
「いつの間に?」
シルフもエンマに
「気合い入ってますね、エンマ」
エンマが答える
「人数も増えたし、明日家に帰るなら、惜しみなく食材使えるからな!」
猿楽が嬉しそうに
「シェフ!指示を!」
エンマがその気になって
「よし!まずは水を汲んでこい!」
猿楽は返事をして近くの川へ、星助、Jr.もついて行く。
シャークがフックに
「俺達はテントやるか」
フックは答える
「ええ」
困ってるシルフの父にシルフが
「父さんは休んでてください、まだ傷も癒えてないですから」
シルフの父が答える
「ありがとう。いい仲間達だな」
シルフは笑って
「はい、いい家族です!」
シルフの父は少し俯き
「家族か…。シルフ、後で話したいことがあるんだ」
シルフは疑問の表情で
「はい、食事の後にでも」
シルフの父は答える
「ああ、すまない」
シルフは父の様子を伺いつつも、エンマの手伝いに行く
「私も手伝ってきます」
一方エンマはモグモグに穴を掘ってもらっていた。
モグモグはエンマに
「こんな感じでどうや?」
エンマは答える
「よし!次は石を集めてくれ!」
モグモグは腕を回しながら
「よっしゃ!働くでぇ!」
そこにシルフが来る
「エンマ、私も何か手伝います」
エンマはシルフに
「大丈夫だ、父親とゆっくり話してこいよ。俺たちの前では話しづらいこともあるだろ?」
シルフは強く否定できず
「確かに、そうですが、食事の後でも」
エンマは答える
「こういうのは後回しにしない方がいい、うるさい猿楽も今はいないしな」
そう言って笑うエンマにシルフは申し訳なさそうにしつつも一緒に笑って
「そうですね、ありがとうございます」
エンマは送り出すように
「おう!行ってこい!」
シルフは父親の元に向かう。
モグモグが石を持ってくる
「エンマはん、これでどうや?」
エンマは石を見て
「いいぞ!もう少し持ってきてくれ」
シルフは父親に
「すみません、父さんと話してこいって、追い返されちゃいました」
シルフの父親は微笑んで
「いい家族だな…」
シルフは頷き
「うん、向こうに静かなところがあったから、そこでどうかな?」
シルフの父親は立ち上がり
「ああ、もちろんだ」
二人は森の中に入っていく。
その頃、猿楽たちは水を運んでいた
「これだけあれば足りるかな?」
楽しそうに話すJr.
「足りると思う!前はこれ一つで足りてたのに、増えたなぁ」
猿楽は汗をかきながらも楽しそうに話す。
その時星助が
「あれ?シルフ?」
星助の視線の先を見ると、シルフと父親が歩いていた
「兄ちゃんと父ちゃんだ!」
呼ぼうとしたJr.の口を塞ぐ猿楽
「二人で話したいことがあるんじゃないかな?」
Jr.はあんまり理解できず
「どういうこと?」
猿楽はJr.が運んでいた水を持ち
「Jr.も行ってこいってことだ。これは俺たちが運んどくから」
星助も頷き
「あとは任せて!行っておいでよ!」
Jr.は嬉しそうに
「うん!わかった!ありがとう」
Jr.はシルフの方に走っていく。
星助が猿楽に
「猿楽なら大声でシルフに声をかけるかと思った」
猿楽はシルフ達の方を気にしながら
「俺だって大人な時があるんだよ〜」
星助と猿楽は楽しそうに笑いながら、テントの方に戻る。
シルフと父親は少しひらけた所に着いて、そこにある大きな木の下に座り込む
「シルフに大事な話があるんだ」




