第一部 夢の一歩 27話
暗い城の中、レッドカーペットの先には空の玉座がある…
ホコリまみれの城の中、蜘蛛の巣が張り、コウモリやネズミが多くいる…
城の外の森には魔物が目を光らせている。
一匹の素早い魔物が森の中を駆け抜けていく。
一匹、また一匹と魔物が増えていき、岩がたくさんある、ひらけた場所にたどり着く。
そこに岩でできた玉座の様なものがある、そこに座る一匹の魔物。
ライオンの様なたてがみに鋭い牙、赤と青のオッドアイを輝かせ、咆哮をあげる。
空気が震え、集まった魔物がスタートの合図を待つように、咆哮の主を固唾を飲んで見守る。
「いよいよだ」
その一言に答えるように魔物達は雄叫びを上げ、拳を突き上げる。
突き上げた拳のさらに上、雲を越えた空の上に、鳥の様な魔物が集まっている。
集まった魔物の間をすり抜け、翼を大きく広げる影が雲に映る。
その数は増えていき、一際大きな影が魔物の影を包み込む。
太陽よりも熱く、燃える様な鱗を持つその魔物は竜だ。
「格の違いを知れ」
翼を羽ばたかせると雲が一気に消し飛んでいく。
すると目の前に広がるのは一面の海。
深く深く太陽の光も届かない、海の底。
海底に沈んだ船の周りに魚の魔物が集まっている。
魚人の魔物も多く集まっていて、その中心には綺麗な人魚の姿が。
「私の美しさを世界へ」
この世界とは別の世界、我々のよく知る世界にて、屋上に立つ一人の青年。
「世界が俺を知る」
青年は両手を広げて、落ちていく。
王国ではベシャリが魔法石を使って勇者を召喚しようとしている。
王も心配そうに見つめている。
王は息を大きく吐く。
「はぁ」
ベシャリは不敵な笑みを浮かべ。
「これでこの世界は」
目の前が光に包まれる。
どこかの地下。
長靴を履いたネコの様な姿の魔物、その横にはヴァンピ。
個性的な魔物が何体か集まっている。
「我の物にゃ!」
ヴァンピがコウモリに変わり飛び立っていく。
一匹のコウモリについていくと、そこには猿楽達がいる。
もうすぐ家に着く手前で最後の休憩をとっている猿楽達。
シルフの父親が目を覚ましている
「この度はご迷惑をおかけしました、なんとお礼を言ったらいいか…」
猿楽は笑顔で答える
「全然大丈夫だよ!それよりも奥さんを助けられなくてごめん!」
シルフが答える
「私たちが生きてここにいる事、それだけで母は喜んでいるはずです」
Jr.が猿楽に
「そうだよ!僕と父さんが生きてるのは猿楽のおかげ!ありがとう!」
嬉しそうな猿楽にエンマが
「おいら達みんなの力な!」
猿楽は頷きながら
「うん!わかってる。ここにいる誰か一人でも欠けてたら今こうして家に帰ることなんて出来なかった」
シルフの父親はシルフに
「良い出会いをしたな」
シルフは答える
「はい!父さん!」
Jr.は笑いながら
「猿楽達に出会って兄ちゃん変わったんだよ!」
シルフは恥ずかしそうに
「少しだけだ、少しだけ」
エンマが入ってくる
「おいら達から見てもだいぶ変わったぜ?」
シルフは驚いた顔で
「そんなにですか!?」
猿楽は笑顔で
「俺はそんなに変わってないと思うなぁ?最初から頼りになるし、優しいし!」
エンマが笑いながら
「猿楽に言われてもなぁシルフ!感覚がズレてるから!」
シルフは困った顔をしている。
猿楽はシルフに
「否定してくれよ!シルフー!」
笑いに包まれる一同。
場面は変わり王宮にて、ベシャリと王の前には一人の青年の姿が
「ここは?」
青年の言葉にいち早く反応するベシャリ
「成功だ!!少年!名は?」
青年は何かを考えながら、辺りを見回す
「驚くのも無理もない、落ち着くのを待とう、ベシャリ」
王は青年の様子を見てベシャリに話す
「なるほど…」
青年の口角が少し上がり、話し出す
「これが異世界転生か」
ベシャリは驚き
「わかるのか?」
青年は自信を持った表情で
「わかるさ、俺は転生したくて飛んだんだから」
「ステータスは見れるのか?魔法は?スキルは?この世界のシステムを教えてくれ!俺は勇者ってことでいいんだろ?任せろ、この世界は俺が救ってやる!」
王はベシャリに
「こんなに理解が早いものなのか?」
ベシャリは答える
「いえ、そんなはずは…」
青年は王とベシャリを急かす
「さあ、早く案内してくれ、あとこの世界の服も頼みたい!食事と金銭も必要だな、後は…」
ベシャリは王に
「必ずコントロールします」
王は心配そうにしている、ベシャリは青年に
「こちらです!勇者様!」
青年は意気揚々とベシャリについて行く
「始まったな、俺の物語」
王はぼそっと
「コントロールなんてできるのか…」
猿楽達は楽しそうに歩いている
「ここら辺で星助に会ったんだ!」
エンマは思い出して
「まさか大蛇と戦うとは思わなかったな」
シルフが不思議な顔で
「そういえばあの大蛇は一体どうなったんですかね?」
猿楽が答える
「確かに!でもあの時は一生懸命だったからあんまり覚えてないや」
シルフの父親が
「大蛇ですか?この辺りで大蛇と聞くとフェイタルサーペントじゃないですか?」
エンマは答える
「どうだろ?おいら達にはわかんないや」
シルフも首を振り
「私もその魔物を見たことがないので、なんとも言えないです」
シルフの父親は続ける
「もしフェイタルサーペントならすごいですよ!私達も夫婦二人がかりでやっとの魔物です」
猿楽は驚いて
「そうなの!?俺たち死んでてもおかしくなかったんじゃない?」
エンマは身震いして
「大蛇の時に限らず、おいら達はいつ死んでもおかしくなかった」
シルフがエンマに続いて
「でもこうして全てがうまくいってるのはマスターのおかげです」
猿楽は驚いて
「俺のおかげ!?違う違う!」
シルフの父親が猿楽に
「あなたからは不思議な力を感じます」
猿楽が否定するよりも早く、口を開いた者がいる
「言葉がわかるのか?」
声の主へ一斉に視線がいく、驚く様子もなく話を続ける
「君にはそんな力があるのか」
エンマが答える
「お!起きたのか!」
助けたヒトは困ったように
「すまん、私には何を言ってるかわからないんだ」
エンマは猿楽に
「おいら達の言葉がわからないみたいだ、こっちの言語があるのか?」
猿楽は答える
「どうだろう?僕の言葉はわかりますか?」
ヒトは嬉しそうに
「やはり君の言葉はわかる。君を探していたんだ」
猿楽は疑問の表情で
「俺を探してた?なんで?」
そこにフックが割って入ってくる
「ちょっといいですか?我々には何がなんだかさっぱりなんですが」
猿楽はみんなを見て
「あ、ごめん!」
シャークが笑いながら
「シャシャシャ!!これはおもしれぇ!ついて来てよかったぜ!」
シルフがまとめようと
「えっとマスターは会話ができて、エンマもできてるんですか?」
エンマが答える
「いや、おいらはこのヒトが言ってることはわかるけど、おいらが言ってることはわかんないみたい」
モグモグが大爆笑で
「あかん!なんか笑けてきた!この状況めちゃくちゃやな!」
ヒトが話し始める
「彼らは怒ってるのか?」
Jr.が猿楽に
「ねぇ、なんて言ってるの?」
猿楽は答える
「みんなが怒ってるって勘違いしてるみたい」
フックが状況を整理する
「会話ができるのが、猿楽だけ。エンマは彼の言葉はわかるが彼には言葉が伝わらない。他のみんなは全く会話できない」
星助が答える
「そういう事だね」
ヒトが話す
「怒ってはいないのかな?」
猿楽がヒトに
「ちょっと待ってください、先にみんなで話を」
猿楽の周りにみんなが集まる
「状況はわかった。猿楽、代表して話してこい」
エンマに言われた猿楽は少し嫌そうに
「そうするしかないよね、わかった!」
猿楽がエンマに押し出され前に出てくる
「えっと、みんなを代表して俺が話を聞きます」
ヒトは嬉しそうに答える
「やっと話せるな、私の名前はダマリ。君をここに呼んだ者だ」
猿楽は驚く
「えーーー!!」
「俺をここに呼んだヒト!?」
ダマリは続ける
「正確には少し違うのだが、君にはこの世界を救って欲しい」
猿楽はポカンとして
「俺がこの世界を救う?」
エンマが猿楽に
「猿楽が世界を救うなんて、無理無理!」
ダマリは真面目な顔で続ける
「急に言われても困ってしまうかもしれんが、話を聞いてくれ。まずは魔王について」
猿楽とエンマは口を揃えて
「魔王?」




