第一部 夢の一歩 17話
暑くなってきましたね…こちらも熱い17話です!
草原で向かい合い、ゆっくりと近づき、シルフを抱きしめるシルフの母
「ごめんね、守ってあげられなくて…」
シルフは答える
「母さんが謝る必要はないよ、俺が弱かったから、弟達も守れなくて、謝らなくちゃいけないのは俺の方だ」
母はシルフの顔をしっかり見て
「あなたは一人で全部を抱えすぎ、もっと自由に生きなさい」
シルフは首を横に振り
「家族を守るのが俺の役目だ」
母は少し怒った口調で
「そんな役目を与えた覚えはないわ、家族は守り合うの。そう教えたはずよ?」
シルフは弟達に、崖に落とされる時に同じ事を言われた事を思い出す
「でも弟達はまだ小さくて、戦う事なんて出来ない。だから兄として俺が」
シルフの言葉を遮るように母が
「戦うことが全てじゃないわ、それぞれができる事をするの」
シルフはそれでも
「俺のために弟達が犠牲になる必要はないじゃないか!」
母は答える
「あの子たちは犠牲になったわけじゃないわ、犠牲になろうとしてるあなたを守ったの」
シルフは理解できず
「母さんの言ってることがわかりません」
シルフの母は優しく
「あなたは優しすぎるの、あの子達は家族全員が生きる事を諦めなかった」
シルフはなにも言わず聞いている
「あなたが諦めずに立ち向かったのはわかってるわ、でもね、あなたはあなたの命を諦めようとしてた、あの子達はそれがわかってたのよ」
シルフは反論する
「じゃあ、あの時俺はどうしたら良かったんだ!」
母は答える
「力を合わせるの。それぞれができる事をして、みんなで生きる方法を考えるの。あの子達の前に立って行き先を示してあげるの、それがお兄ちゃんのする事よ」
シルフは落ち込んだ表情で
「お…俺は…」
母は続ける
「今は出来てるじゃない。あの人、とても良い人ね」
シルフは顔を上げて答える
「マスター。猿楽の事ですか?」
母は嬉しそうに
「猿楽って言うのね、うちの子と出会ってくれて、一緒にいてくれて。本当に感謝してるわ、直接伝えられないのが申し訳ないけど、彼といるあなたを見て安心したわ」
シルフは真っ直ぐ母を見つめ
「マスターは不思議な人です。正直人間は嫌いです。でもマスターとは一緒にいたい、守りたいんです!」
母はシルフの言葉に続いて
「でもいつの間にかあなたも守られてるんでしょ?」
シルフはハッとする
「はい、そうなんです」
母は少し笑いながら
「それが守り合うってことよ、彼は強くないかもしれないけど、できる事を全力でやってるわ」
シルフは猿楽を思い、少し笑って
「はい、マスターはいつも全力です」
母はシルフをもう一度抱きしめて
「力を貸してあげなさい。あなたが生きていてくれて、本当に良かったわ…最後に迷惑をかけちゃってごめんね…強く、優しく、自由に生きるのよ」
母の姿が、薄くなっていく…
シルフは次第に感触の無くなっていく母を感じて
「母さん!」
母は優しい表情で
「名前。貰ったんでしょ?聞かせて?」
シルフは涙を浮かべながら
「シルフです」
母は笑顔で
「シルフ。良い名前ね、そろそろお別れみたい…」
シルフは涙が止まらない
「母さん…」
母は泣いているシルフに
「シルフ、最後に母さんから力をあげるわ、お父さんをお願い…」
眩い光に包まれ、シルフが目を開けると、倒れた母がいる。
シルフは呟くように
「母さん、ありがとう」
シルフは凛々しい表情で暴れる父の方を見る
バリケードを破壊し、シャークの分身も潰し、吠えるヴォルフガング
「グオオオオオオオオ!!!!」
猿楽がシルフに駆け寄り
「シルフ!凄いよ!!」
Jr.も駆け寄ってきて、倒れている母を見る
「お母さん…」
シルフはJr.に
「母さんは幸せそうだった、だから安心してJr.」
Jr.は倒れている母に
「よかった、お母さん、守ってくれてありがとう」
シルフはJr.に
「母さんに父さんを頼まれました。力を貸してください」
Jr.は答える
「もちろんだよ!」
猿楽はシルフに
「俺も協力するぞ!」
猿楽に抱っこされている星助も
「ボクも!!」
シルフは少し嬉しそうに
「守り合うのが家族。みんなで力を合わせましょう」
Jr.はシルフに
「あ!それいつもお母さんとお父さんが言ってるやつ!」
シルフはJr.に
「やっと、ちゃんと理解できました」
Jr.はシルフに
「遅いよ、お兄ちゃん」
シルフはJr.の頭を撫でながら
「ごめん」
そこにエンマとシャークとフックがヴォルフガングから逃げてくる
エンマは叫ぶ
「やばいぞ!猿楽!」
猿楽は笑顔で、吠えながら向かってくるヴォルフガングと逃げてきた三人の間に立ち、大声で
「俺たちは家族だ!!!!」
ヴォルフガングは驚き止まる
コウモリが呟く
「向かってくるヴォルフガングを声だけで…」
エンマは猿楽の方を見て
「急になに言ってんだ?」
シャークは猿楽に
「家族だぁ!?」
フックも
「家族になった覚えはありませんが」
猿楽はみんなの方に寄り、引っ張ったりして全員を集める
「守り合うのが家族!力を合わせてシルフの親を助けるぞ!」
シルフは
「はい!マスター!」
Jr.と星助は
「うん!!」
シャークは
「だから!」
フックはシャークに続き
「家族になった覚えは」
そんな二人にエンマが
「お前ら、諦めろ。ああなった猿楽はもう止まらねぇ」
ヴォルフガングは吠える
「グオオオオオオオオ!!!」
猿楽は恐れず
「みんな!行くぞ!」
それぞれが答える
「おう!!!」
ヴォルフガングは跳び、前脚で猿楽達がいる所を目掛けて踏みつける、散らばり避ける猿楽達。
逃げながら猿楽は叫ぶ
「どうしたらいいーーーー??」
シャークはツッコむ
「あんな啖呵切って、なんも作戦ねーのかよ!!」
エンマは笑いながら
「ははは!!あれが猿楽だ」
フックは空を飛びながら
「そんな事だろうと思いましたよ」
シルフは背中にJr.を乗せて
「マスターらしいです」
コウモリがその様子を見ながら
「猿楽。不思議な人ですね。陛下が気に入るのも、うなづけます」
星助がヴォルガングを見て
「みんな!右目に魔石がある!!」
猿楽は
「右目!?どうする?フック!!」
フックは答える
「どうするもなにも、右目を潰すしかありません」
猿楽は反論する
「それじゃだめだ!!」
シルフが猿楽を止めるように
「マスター!!やりましょう!死んでしまうわけじゃありません!」
猿楽はシルフに
「でも!」
シルフは答える
「生きて一緒にいることが大事なんです!このままでは私達も、父も救えません!」
猿楽は答える
「わかった。シルフに任せる!」
シャークは猿楽に
「右目を狙うのはいいが、もうそんなに魔力残ってねぇぞ!」
エンマも疲れた様子で
「休んだとはいえ、おいらも結構キツい」
猿楽に抱っこされていた星助も
「猿楽…ごめん、ボクももう…」
猿楽は星助をヴォルフガングから遠いところに寝かせて
「星助は休んでて、魔石の位置を見つけてくれてありがとう」
そこにシルフもくる
「星助を頼みます、Jr.」
Jr.はシルフの背中から降りて
「わかった!お兄ちゃん!」
シルフは猿楽に
「マスター、私が戦います。母に力を貰いました」
猿楽は答える
「わかった。俺たちはどうしたら良い?」
シルフは
「初めてなので上手くできるかわかりません、援護をお願いできますか?」
猿楽はみんなに指示を出す
「わかった!みんな!!シルフに合わせて!!」
エンマは答える
「合わせるって?」
フックは答える
「即興ですね、わかりました」
シャークも
「即興か、得意分野だな!好きにやれ!シルフ!」
シルフはみんなに
「ありがとうございます!新しい力を試します!」
エンマは
「お前らみんな自由だな!!わかったよ!やってやるよ!自由なのは猿楽で慣れてんだ!!」
猿楽はコウモリの元へ行き
「魔石を壊したのになんで助からなかったんだ?」
コウモリは答える
「おそらく、元々のダメージが大きかったのでしょう。余計なダメージを与えず魔石を壊せれば希望はあると思います。しかしそれでもどうなるか…」
猿楽は笑顔になり
「わかった!ありがとう!」
コウモリは心の中で
「一切の疑いも無く私の言葉を信用している…」
猿楽はみんなに
「余計に攻撃すると、魔石を壊しても助けられない!」
エンマはシルフに
「あんまり試してられないぞ!シルフ!」
シルフは答える
「大丈夫です!必ず使いこなします!」
シャークはテンション高く
「燃える展開じゃねーか!」
フックも
「良い表情ですね、シルフ」
ヴォルフガングは咆哮をあげ、シルフに向かって口から竜巻のような風を飛ばす
「グルァァァアアアア」
シルフは竜巻を前に
「父さんからも力を借りますよ…」
シルフは目を瞑り
「風を纏うイメージ…」
草原にいるシルフの母が語る
「私達シルバーウルフは、風と共に戦うことが出来る。風は自由、シルフ。あなたも自由に、風と共に」
シルフを竜巻が包む
エンマは叫ぶ
「シルフ!!」
猿楽は叫ぶ
「大丈夫!シルフなら!!」
竜巻が弾ける。シルフの毛はふわふわと風を帯びている。
エンマはホッとして
「シルフ!」
シャークは
「なんだありゃ?」
フックは
「風を纏っている?」
コウモリは
「これは…」
シルフの母が語る
「この力の名前は母さんに付けさせて」
シルフは目を開けてスキルを呟く
「風の精」