表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

作者: みゅー

ブクマ・評価いただけると幸いです。


文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

「君は本当になにをやっているんだ」


 キャロライン・デ・ザマース公爵令嬢は、いつものように宮廷外の渡り廊下の角で王太子殿下の公務が終わるのを待ち伏せし、見事王太子殿下に遭遇すると開口一番そう言われた。


「はい。でもどうしても殿下にお会いしたかったのです。お顔が見れたので、今日はもう帰ります。失礼いたします」


 あまりしつこく付きまとい本気で嫌がられてしまうわけにはいかないので、キャロラインは王太子殿下の顔だけ見ると急いで退散することにしていた。


 キャロラインは、王太子殿下のいく先々に現れては声をかけていた。その度に素っ気ない態度をとられていたが、本人が嫌だとはっきり言ってこないのだから、たぶん嫌われているわけではないはずだと自分に言い聞かせそんなことを続けていた。


 そもそも、幼い頃は王太子殿下とキャロラインはいつも一緒に遊んでいてとても仲が良かった。その頃はなにも考えずに、いつも大好きだと気持ちを伝えていたことを覚えている。


 だが、ある日王宮の執事に呼び止められたキャロラインはこう言われた。


「キャロライン様、貴女は公爵令嬢とはいえ相手は王太子殿下、この国を担うお方でございます。貴女がそのように親しげに付き合える相手では御座いませんよ?」


 そう言われ、キャロラインは自分が礼儀知らずでとても恥ずかしいことをしていたことに気づいた。


 それからは、王太子殿下に会っても馴れ馴れしく話しかけたり、そばによることができなくなった。


 そうしていつのまにか、王太子殿下に近づかずにいつも遠くから見ることがキャロラインの日常となってしまっていた。


 そんなある日、イージョ村で聖女が現れたと王宮に報告が上がった。聖女とは十五歳になると、聖なる刻印という紋様が手の甲に現れる清らかな乙女のことである。


 聖女には『邪気』を祓う力がある。


『邪気』にとりつかれそのままにしていると、動物や人間までもがそのままモンスター化してしまい、人間を襲うようになってしまうのだ。


 先代の聖女が亡くなってから早数年が経ち、年々モンスターが増え、討伐が追い付かなくなるかもしれないという不安の声が上がる中、人々は聖女が現れることを渇望していた。そんな中での今回の聖女出現には、国中が大喜びした。


 その聖女が王宮へ初めて訪れ王太子殿下が聖女に手を伸ばした光景を見た瞬間に、キャロラインは前世のことを全て一気に思い出した。


 (わたくし)は『きらめく光の中で』に転生したのですわ! と心の中で呟く。


 そのゲームの内容は、主人公が聖女となり様々なイベントをクリアすると『邪気』を発生させている発生源を発見し、それを倒し世界を永遠の平和に導くというものだった。


 本来聖女は一生独身を貫かねばならないが、この主人公は『邪気』を根絶したので、好きな人と結ばれるという内容だった。


 そして、キャロラインはそんな聖女を邪魔する悪役令嬢なのだ。


 もしも、聖女が王太子殿下を選んでしまったらどうしよう。


 そう思いながら、とにかく聖女の邪魔だけはしないようにしようと心に誓った。


 そうして、聖女のそばには近寄らず以前のように王太子殿下の行く先々に先回りし、顔だけ見ると満足するという生活を送っていた。


 その日も、陰からこっそり王太子殿下の姿を見つめていた。すると、王太子殿下が突然立ち止まり、ポケットからリングケースを取り出した。その中身には、光り輝く大粒のダイヤのリングが入っていた。


 ゲーム内で聖女が王太子殿下のルートに進むと、最後に大粒のダイヤモンドを渡され告白される。そこダイヤの指輪はその指輪に違いなかった。


 話はまだ序盤だと言うのにもう準備をしているなんて、王太子殿下はよほど聖女のことが気に入ったのだろう。


 そう思ったキャロラインは、目の前で二人がくっつくのだけは耐えられないと思った。


 幼い頃からずっと好きだった。好かれていないのはわかっていたので、結婚してもらえるとは思っていなかった。ただ、そばで王太子殿下を見つめるだけでも幸せだった。


 だが、そんな些細な幸せがもう終わろうとしている。


 ふらふらした足取りで歩いていると、宮廷のメイドたちがキャロラインの名前を口にしたのに気づいて、思わず身を隠す。


「さっき来てたわよ、キャロライン様。本当に面白くて見ていて飽きないわよね」


「そうよね、思わず笑っちゃう」


 それを聞いてキャロラインはさらにショックを受けた。


 王太子殿下のことばかり見ていたから気づかなかったが、王太子殿下に付きまとうその姿は周囲からすればさぞ滑稽だったろう。


 それにあんなに付きまとわれて、王太子殿下だって嫌じゃないわけがないのだ。


 そう思うと、涙で視界が歪んだ。自分は今までなんて自分勝手だったのだろう。嫌がる相手に付きまとって、自分の幸せしか考えてなかった。


 どうしたら王太子殿下は喜ぶか、キャロラインは溢れる涙を拭いながら考えた。そして結論を出した、どこかなるべく遠くに嫁いで王太子殿下の前から姿を消せばよいのだと。


 キャロラインは屋敷に戻ると、すぐに父親に縁談の話がないか尋ねる。


「キャロライン、なにを言っている。お前は殿下が好きなのではなかったのか?」


 父親は明らかに狼狽しながらそう答えた。キャロラインは、戸惑いながら言った。


「お父様ったらなにを仰ってますの? それとこれとは話が別ですわ。それに、(わたくし)がどこか遠くに嫁いだ方が、殿下も安心なさいますわ」


 自分で言っていて、その事実がつらかった。だが、事実は事実として受け入れなければならない。被害者は王太子殿下の方で、自分は嫌がらせをしたいわば加害者なのだ。


「そうは言っても、そんなにすぐに縁談の話があるわけがあるまい」


「わかりましたわ。では、縁談が入るようにこれからお茶会やお食事会には積極的に参加いたしますわ」


 キャロラインは今まで結婚するのはまだ早いと思い、王太子殿下のいない舞踏会やお茶会などにあまり参加してこなかった。それでも父親がそんなにうるさく言ってきたことはなかったので、これ幸いと全て避けて通ってきた。


 しかし、これからはそれらに積極的に参加しなければならないだろう。


 そうして、今まで質素で目立たないようにしていたが、流行を取り入れたドレスを着るようになり、美しく可愛らしく振る舞うようマナーを完璧にした。


 それに当然、王太子殿下と聖女には一切関わらないようにした。


 時にはお茶会や、舞踏会で参加しないはずの王太子殿下が現れるようなことがあったが、その時は相手に気づかれないようにその場から去ることにした。


 そうして、社交界には顔を出すようになったものの、なかなか縁談は入ってこなかった。


 そんなある日、数日前のお茶会で少し話した辺境伯から、デートのお誘いの手紙がきた。


 この辺境伯はとても紳士で、悪い噂ひとつなく相手には申し分なかった。なんにせよ、城下から離れた場所で暮らしている辺境伯は、キャロラインが王太子殿下を追い回していたことを知らないのだろう。


 キャロラインが父親にこの話をすると、父親は焦った様子になったが最終的には、母親に諭され許可してくれた。母親は微笑むとキャロラインに言った。


「自分の幸せを考えて、本当にこの人ならと思えるのならお母様は反対しませんわ」


 それを聞いて父親は頷いた。


「それは、もちろんそうだ。お前は自分の幸せを考えるべきだ」


 キャロラインは両親の優しさに感謝したが、自分のことばかり考えて、人に迷惑をかけるのは違うと思いますわ。と、心の中で呟いた。


 そうして、辺境伯が執務でこちらにいる間何度かデートをするようになった。


 辺境伯は穏やかな人物で、情熱的ではないが年上で優しくキャロラインを見守ってくれているような気がした。


「キャロライン、私は来月には自分の領地へ戻らねばならない。その前に話しておきたいことがある」


 庭園を散歩しているときに、辺境伯は突然改まってそう言った。キャロラインは、これはプロポーズされるかもしれないと思った。


「はい、なんでしょう?」


 すると、辺境伯はしばらく沈黙し、少し躊躇ったあとやっと口を開いた。


「君は以前、王太子殿下が好きだったのだろう? ところが聖女が現れたので諦めた。違うか?」


 予想もしていない話に、キャロラインは戸惑いながら頷く。


「責めるつもりはない。そんな噂が立てば、縁談の話もなかなかこないだろう? だが、私は別に君に好きな男がいて、君が私を愛さなくてもかまわないと思っている」


「どういうことですの?」


 すると、辺境伯は悲しげに微笑んだ。


「私には愛する女性がいてね、だがその女性とは一緒にはなれない。だから、私を愛していない君との結婚は私にとって好都合なのだ。私も君を愛することはない。だから、私と結婚した後は私の領地で妻の役割だけしてくれれば、あとは好きなことをしてかまわない。だから私と結婚してくれないか」


 キャロラインは、絶対に自分のことを愛さないと言っている男性からのプロポーズに、ショックを受けた。


「嫌なら断ってくれてかまわないが、君にも悪い話ではないと思う。よく考えて返事をして欲しい」


 そう言って屋敷まで送り届けてくれた。





 辺境伯がキャロラインを騙すのではなく、正直に事実を言ってくれたことはありがたかった。


 考えてみれば、そこまで悪い条件ではないかもしれない。


 キャロラインはそう考え直す。なぜならお金にも困らず、自由にできて、城下からも離れられるからだ。


 こうして、辺境伯との結婚を心に決めた。


 数日後、父親にその話をすると父親は顔面蒼白になった。


「お父様、娘が遠くに嫁ぐからと言って、そんなに落ち込まないでください。少しは祝ってくださいませ」


「いや、結婚はもう少し待てないのか? 王太子殿下は今、大変なときなのだ。それにもしかすると、お前になにか話があるかもしれないぞ?」


「いいえ、殿下の仰りたいことはだいたいわかっておりますから、大丈夫ですわ」


 なにか話があるとすれば『もうつきまとうのは止めろ』と、言われるだけだ。


 それにきっと王太子殿下は今頃、聖女と『邪気』の原因を倒すことに集中して大忙しのはずだ。それならば、王太子殿下がそれらを倒し終わり戻ってきたとき、キャロラインもいなくなっていれば気分もよいだろう。


 すると父親が今度は不機嫌な顔になると、突然怒鳴った。


「私はお前の結婚に反対だ。あの男はやめなさい。結婚はさせない!」


「お父様?」


 そう言うと、キャロラインは抵抗する間もなく自分の部屋に閉じ込められてしまった。


 どうしてそこまで父親が反対するのかさっぱり理由はわからなかったが、とにかくこれからどうするか考える。


 近いうちに辺境伯は自分の領地へ帰ってしまうので、それまでには会いに行かねばならないが、このままならそれも許されないだろう。


 ふと外を見ると、この部屋は木を伝えば外に出られそうだった。外に出て、辺境伯のところへ行ってしまえば父親も認めざるを得ないだろう。


 辺境伯のところへ行って、そこで辺境伯が反対されてまで結婚はできない、とキャロラインを突っぱねればそれまでだが、それにかけようと思った。


 それにしても父親があんなに反対するとは思わず驚いた。今まで、社交界に顔を出さなくとも文句を言わなかったのは、娘を結婚させたくなかったからなのだろう。


 そんなことを考えていると母親がやってきて、ドア越しに話しかけてきた。


「出してあげられなくてごめんなさいね、キャロライン。それと、お父様のことを許してあげてね。いつか、貴女にもお父様の気持ちを理解できる日がきっとくるはずよ」


 そう言ったが、許しを得ずに結婚しようとしている自分の方が親不孝で、申し訳なく思った。


 夜が明けきる前に、窓を開け下に誰もいないことを確認すると、キャロラインは部屋を抜け出した。


 ここから辺境伯の滞在している屋敷までは少し距離があり、キャロラインは走った。走っているので汗をかいたが、外の空気がひんやりしていてとても気持ちが良かった。


 涙が溢れたが、自業自得なのだから泣いてはいけないと、自分をいましめながらひたすら走った。気がつけば、日が昇り始めキャロラインの顔を照らしていた。


 振り向いて、王宮の方向を見る。


「殿下、さよなら。今まで、本当にごめんなさい。少しでも一緒にいられた時間を、一生宝物にして生きて行きます!」


 そう言って振り返ると、誰かにぶつかった。ぶつかった鼻の頭を押さえ、一歩下がりながらその人物を見上げると、そこに無表情の王太子殿下が立っていた。


 キャロラインは驚きながらも、すぐに頭を下げる。


「殿下がいらっしゃるとは知らずに大変失礼いたしました。申し訳ございません!!」


 もしかすると自分は、気づかないうちに王太子殿下のいる場所に来てしまったのではないかと思った。それによって、またしつこくつきまとっていると誤解されたかもしれず、慌てて弁明する。


「あの、これは違うのです。つきまとっているわけではありません。王太子殿下にとって(わたくし)が見るのも嫌な存在なのは承知しております。ですから、今日は王太子殿下のあとを追いかけたわけではなく、その逆で王太子殿下のいないところへ行こうとしていたのでございます!」


 そう言って少し頭を上げて、王太子殿下の顔を見ると、王太子殿下は怒りをこらえているような顔をしている。まだ誤解が解けていないのだと思い、更に弁明を重ねた。


「それに(わたくし)他の方との結婚も決まりまして、なのでこれでもう二度と、殿下の前に現れないとお約束いたします。本当に、申し訳あり……」


「だまれ」


「はい?」


「これ以上私を怒らせたくなくば、今すぐにだまれ」


 王太子殿下は低い声でゆっくりとそう言った。キャロラインはぞっとした。あの温和な王太子殿下をここまで怒らせたのは、自分がずっと嫌がらせを続けたからに違いなかった。


 もしかしたら、ゲームの内容通り処刑か追放かもしれない。


 キャロラインは覚悟した。目をギュッと閉じ、沙汰をまっていると、突然王太子殿下に担がれ馬に乗せられた。そして、王太子殿下も素早く馬に股がると、どこかへ向かって馬を走らせ始めた。


 連れてこられたのは王宮だった。王太子殿下はキャロラインを馬からおろし担ぐと、そのまま中へ向かい部屋へ入った。そして、キャロラインを柔らかなソファの上におろす。


 キャロラインはここで裁かれると覚悟したが、王太子殿下はそんなキャロラインに微笑みかけた。


「手荒な真似をしたことは謝る。だが、こうでもしないと、いつも君は私の話も聞かずに逃げてしまうからな」


「逃げてなどおりません。その逆でつきまとっておりました。不快な思いをさせて……」


 すると王太子殿下は、キャロラインが話そうとするのを制して言った。


「まず、そこから話をしよう。いつ誰が私につきまとって、不快な思いをさせたと? 君は私のそばをチョロチョロしていたが、執拗につきまとうことはしていない。いや、たまに隠れてチラチラとこちらを見ていたが、全く隠れられていないのに、それがばれていないと思っているのが逆に可愛らしく思ったぐらいだ」


 キャロラインは一瞬で顔が赤くなった。


「で、ですが殿下はいつも素っ気なくてらしたので……」


「素っ気ない? 素っ気ないもなにも君は私が話しかけてもすぐに退散してしまい、私と話をしてくれなかったではないか」


「確かに、そうかもしれませんが……。それは、あの、殿下のお邪魔にならないようにと」


 すると、王太子殿下はため息をついて、ソファに座っているキャロラインの真横に手をつき、顔を近づけた。


「いつだ?」


「はい?」


「いつ私が君を邪魔者扱いした? そうされたことがあったか?」


 もう少しで、唇が触れてしまうのではないかというぐらいに、顔を近づけられキャロラインは緊張で目がチカチカした。


「あの、ありません」


「ん? 聞こえない、もう一度」


「言われたことはありません」


 すると、王太子殿下は満足そうに微笑みキャロラインの横についていた手をどかすと、腕を組んで見下ろした。


「で、そもそも君はどうして私のそばをチョロチョロしていた?」


 なんだかわからないが、王太子殿下はとにかく怒っている。盛大にふられるのがわかっていながら、告白しなければならないことほどつらいことはない。そう思い、恐る恐る訊いてみる。


「あの、それは言わないとダメでしょうか?」


「迷惑をかけたと思っていたのなら、言うべきだろうな」


 そう言われてしまえば言うしかなかった。


「その、(わたくし)が王太子殿下をその、好きだったからです」


「好きだった? 過去形か?」


「あっ、あの、好きだからです。まだ好きです……」


 王太子殿下は満足そうに頷いた。


「なのに、他の者と結婚して私の前から姿を消すと? 私が好きなのに?」


「それは、その、結婚を申し込んできた辺境伯は(わたくし)を愛さないそうです。(わたくし)も殿下以外を愛することはこの先、一生ありませんから……」


 そこまで言うと、涙が溢れた。こんな令嬢を見て王太子殿下はどんな気持ちになるのだろうか。もう今すぐにでも消えてしまいたかった。


 すると、突然王太子殿下はキャロラインの腕を引き寄せ、その胸の中に抱くと言った。


「ではなぜ私を捨てて、そんな男のところへ嫁ぐのだ? なぜ真っ直ぐに私の胸に飛び込んでこない? なぜ私の前から消えようとする? 君が私の前から消えてしまえば、私がどれだけ君を愛しているか伝えられないまま、私は君を諦めなければならないところだったではないか!」


 そう言うと、キャロラインをさらに強く抱き締めた。


 あの王太子殿下が自分を愛しているというのだ。キャロラインは思いもしなかった王太子殿下の告白に、強く胸うたれた。今まで王太子殿下は、自分のことを静かに見守ってきてくれていたのだ。


 キャロラインの視界が歪み、気付けはその瞳から大粒の涙がこぼれた。


 だが、自分がとった行動によって王太子殿下を苦しめていたことに気づき、それを申し訳なく思った。


「ごめんなさい……」


 キャロラインも王太子殿下を強く抱き締め返した。しばらくそうしたのち、体を少し離すと王太子殿下はキャロラインの前に跪く。そしてポケットから、リングケースを取り出すと開けてこちらへ向けた。


「殿下、これは? 聖女様に差し上げる指輪ですわよね?」


 王太子殿下はゆっくり首を振ると微笑む。


「これは君のために私が作らせたものだ」


「ですが、(わたくし)は殿下に相応しくありませんわ」


「まだ君はそんなことを言うのか? 私は昔から君しか考えられない。幼い頃はよくふたりで遊び、君は好意を隠さずに私に接してくれたものだった。だが、いつからか私を避ける様になってしまったね、どうしてだ?」


 キャロラインは言うのを躊躇ったが、正直に話した。


「昔、王太子殿下と遊んでいた頃ですわ。王宮の執事に『貴女がそのように親しげに付き合える相手では御座いません』と言われましたの。(わたくし)端ないことをしていたのだと、恥ずかしくなってしまって」


 すると、王太子殿下はキャロラインの手を取った。


「そうか。当時の執事は、娘が侯爵家に嫁ぎ私たちと同じ年齢の孫娘がいた。おそらくその執事は、自分の孫娘を私と婚約させようと画策して、君を遠ざけたのかもしれないな。いずれにせよ君にはつらい思いをさせてしまったね、すまなかった」


 そう言うと、隣に腰掛け優しくキャロラインの頬をなでた。


「君が離れて行ってしまっていることはわかっていたが、聖女と『邪気』の根源と戦わねばならず、君と話すことをしなかった私も悪いのだ。許して欲しい」


「いいえ、(わたくし)が一人空回りしていたせいで、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


 王太子殿下はもう一度、ダイヤのリングをキャロラインの目の前に差し出す。


「誤解が解けたところで、キャロライン。私と結婚してくれるか?」


「はい」


 キャロラインは頬を染めながらそれを受けとる。


 するともう一度王太子殿下は強くキャロラインを抱き締めて言った。


「戦いからもどって、君が勘違いして辺境伯へ嫁ごうとしていると報告を受けたときは、血の気の引く思いがしたよ。慌てて君の屋敷へ向かったのだが、部屋に君が居ないと騒ぎになっていた。辺境伯の屋敷へ向かったが、そこにも君の姿はなかった。探しながらもどっているところで君をやっと見つけることができたのだ。見つけることができて、本当によかった」


 そしてリングケースから指輪を取り出すと、それをキャロラインの指にそっとはめる。


「愛している。君に永遠を誓う」


(わたくし)も貴方を愛しています」


 そう言うと、王太子殿下はキャロラインにそっと口づけた。


「やっとこうして隣に座ってくれたね。私はこうして君と一緒に過ごして、たくさん話がしたい。これから、今まで共に過ごせなかった時間を取り戻そう」


 そう言うと今度は深く口づけた。




 後日、キャロラインは両親に怒られた。特に父親は、王太子殿下に言われキャロラインと王太子殿下との婚約話を進めている最中に、キャロラインが暴走したので肝を冷やしたらしい。


「お父様、話してくださればよかったですのに」


 キャロラインがそう言うと、父親はギョッとした顔をして答える。


「殿下に口止めされているものを、私が話したとなれば首が飛びかねん。お前が辺境伯と結婚するなどと世迷い言を申したときは、肌が粟立ったほどだ」


「申し訳ありませんでした」


「まぁ、とにかくお前が幸せなのが一番だと言ったことに変わりはない」


 そう言って微笑んだ。


 婚約話がこなかったのも当然で、社交界では王太子殿下とキャロラインが恋人同士と、公然の秘密となっていたからだった。『知らぬは本人ばかりなり』だったのだ。


 辺境伯は、その辺の事情を全く知らなかったようで、噂を少し聞きかじり勘違いしたままキャロラインに声をかけたようだ。

 後日丁重に、お詫びとお断りの手紙を書くと、向こうからも謝罪の手紙が届いた。


 聖女にも会う機会があり言葉を交わした。


 彼女は世界が平和にもどった今、聖女など辞めてさっさと自分の村に戻って、実家の家業である大工を継ぎたいと話していた。

 男勝りで気っ風がよい彼女は、思っていた聖女とは全くことなる女性だった。

 まだしばらくは村へ帰らないとのことだったので、結婚式には出て欲しいと話すと喜んでくれた。




 そんなこんなで、キャロラインと王太子殿下の婚約が問題なく取り交わされると、婚約発表をすることになった。


 王太子殿下のエスコートで会場入りするとき、王太子殿下は嬉しそうに言った。


「やっとこうして、ふたり並んで歩ける。美しくも、可愛らしい婚約者を(おおやけ)で自慢できるのは、私としてもとても嬉ばしいことだ。そう言えば社交界では、君はとても恥ずかしがり屋と言うことになっているよ。キャロライン、そんな君を愛している」


(わたくし)も殿下をとても愛しております」


「この先もずっとこうして共に歩んでくれるね?」


 そう言って王太子殿下は手を指し出した。キャロラインはその手を取り頷くと、ふたり揃って会場に入っていった。


 こうしてキャロラインの物語は幸せのうちに幕を閉じた。

誤字脱字、本当に報告ありがとうございます。


嬉しいなぁ。


昔書いた作品に改稿に改稿を重ね、とりあえずまとめました。


読んでいただけて幸いです。



※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級など詳細な点について、実在の歴史と異なることがあります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ