7-6 村を後にする
村の門で待っていた僕の前で、月牙狼のクーが僕に向かって、伏せた服従のポーズをとる。すると、揃えるように後ろの森狼たちも一斉に身を伏せた。
これは…… まるで僕がクーだけでなく森狼たちの主にでもなったようだ。
「ク、クー。これはいったい…… どうしたの?」
「クゥ!」
慌てる僕に対して、クーは自慢げな様子だ。
そのクーのすぐ後ろにいる森狼に目をやる。そいつは何故か傷だらけだ。近くで見ると殆どが噛み傷だった。
その森狼は伏せた服従のポーズを取ったまま、じっと上目遣いでこちらを見ている。
「これ、クーがやったの?」
「クゥ」
クーの返事はちょっと申し訳なさそうにも聞こえた。
周りの狼たちの雰囲気からして、こいつが森狼のリーダーだろう。そしてどうやら、クーはこいつをやり込めて、群れごと従えて帰ってきたらしい。
バッグから薬を出し、リーダーの手当てをしてやる。その間、リーダーも周りの狼たちは大人しく、そして村の人たちは唖然としながら、僕がしていることをただ黙って見ていた。
* * *
一晩お世話になった村を離れ、街道をまた北に向かって歩く。
「あれ? そういえば、ミオちゃんから貰った鈴はどうしたの?」
「クゥ?」
あの鈴の不思議な音色が、そういえば今朝から聞こえない。
クーの首元には確かに鈴が付いている。でもよく見ると、形が歪んでしまっている。どこかにぶつけてしまったんだろうか。
でもクーは気にしていないみたいだ。音がしなくてもこの鈴を気に入っているんだろう。
「まあ、クーが良いならこのままでいいかな」
その時、クーがやたらと落ち着きなくそわそわとし始めた。
「クゥ~~」
道の先の方に向かって、何やら乞うように甘えた声をあげる。
「クー、どうしたの?」
クーがやたらと気にしている、道の先の大きな茂みに目を向ける。
ガサリと音がして、そこから何か――いや、良く見知った銀髪の男性が出てきた。
「セリオンさん!」
「クゥ!」
僕とクーを迎えに来てくれたのだろう。嬉しくて駆け寄ろうとする僕をクーが追い越していって先に飛びついた。
「クー、偉かったな」
そう言ってセリオンさんはクーの頭を撫でた。
……あれ?
「えっと、クーと何かあったんですか?」
どうにも腑に落ちないセリオンさんの言葉に、疑問を投げる。
「ああ、昨晩森で会ったんだ。何度か呼んでいたんだが、なかなか返事が来なかったので心配していた」
呼んだ、って……?
そういえば、昨晩何かの獣の鳴き声がして、やたらとクーが気にしていたっけ。
「もしかして、あの遠吠え、セリオンさんだったんですか?」
セリオンさんは白狐の姿になることが出来る。その姿で僕らを探していたんだろう。
「す、すみません。お世話になっていた村が狼を恐れていて…… だから、クーには吠えるなって言ってたんです」
慌てて弁解する。
「なるほど。それで森狼を抑えようとしたのか」
「クゥ!」
森狼って、今朝クーが連れてきた群れのことだろう。セリオンさんも知っていると言うことは……
「ああ、あの森狼を制圧したのって、セリオンさんだったんですね! なるほど、それなら――」
「いや、クーが一匹でやった。私は見ていただけだ」
「……へー?」
あれを? クーが一匹で?
クーの方を見ると、まるでえっへんとでも言うように誇った顔をしている。
ううう、いつの間にクーもそんなに強くなったのか…… 一応主人であるはずの、僕の方が弱いだなんて。ちょっと……いや、かなり情けない。
「クーが強くなったのは偉いと思うけど…… ちょっと凹むなあ……」
* * *
今度は大白狐の姿になったセリオンさんの背に掴まって北を目指す。
隣で併走するクーはやけに嬉しそうだ。
「そういえば、ヴィーさんは先に城に帰ったんでしょうか?」
セリオンさんに尋ねると、軽く振り向いて狐の目でちらりと僕を見た。
「そのことだが。ラウルくん、君は怒ってもいい」
「はい?」
「君がこうしてクーと二人で旅をする羽目になったのは、ヴィジェスの所為だ。あいつは寝坊したんだそうだ」
「へっ? 寝坊、ですか??」
いやいや、待ち合わせの時間は昼過ぎだ。朝じゃない。
朝に王都の門で別れたヴィーさんが、どんな理由があって寝坊をするんだろう?
「だから、怒っていいと言ったんだ。君たちと別れた後、ヴィジェスは懇意にしていた女性を訪ねたらしい。そこで昼間っから飲み潰れて、気付いたら夕方近かったそうだ」
あーー…… それは、ヴィーさんらしいと言えば、ヴィーさんらしいのかもしれない。
「君たちを後から追ったが見つけられなかったそうだ。暗くなると鳥の姿では夜目も効かなくなる。私なら匂いでたどれるからと、とりあえず一人で城に帰還した。だが事情があって城を出るのが遅くなった」
ヴィーさんとはぐれた日の夕方には、僕らはあの洞にいた。鳥の姿で上空から探しても見つけるのは難しいだろう。
「事情って、何が問題でもあったんですか?」
背の上から尋ねると、もう一度セリオンさんは僕の方をちらりと見た。そして今度は真っすぐに進む先を見ながら言った。
「もうすぐ、アリアが目覚める」
* * *
これは、とある村の話だ。
隣町に向かう家族連れが、その途中にある森の近くで狼たちに出会った。
その狼たちは何故かその家族を襲う様子もなく、むしろ大人しく様子を窺っている。どうやら、家族の娘が手に持った鈴の音を聞いている様子だった。
その狼は決してその家族に手を出すことはせず、むしろ隣町に着くまでの旅路を守りながら付き添った。
そして娘が礼にと渡した肉を咥えて、狼たちは森へ帰っていった。
それ以降、その村の者が村の外に出る時には、娘が持っていたのと同じ鈴を持つようになった。
その鈴を持っている限り、狼たちは村人を襲うことはせず、他の魔獣や盗賊たちから村人を守った。礼に肉を与えるのも村人たちの習わしとなった。
また村の狩人もその鈴を携え、狼たちと協力して狩りをするようになった。獲物は狼たちと平等に分け合った。
そのうちに、森に暮らしていたはずの狼たちはいつしか村人たちと暮らすようになり、その村は『狼と暮らす村』と呼ばれるようになる。
その村が狼使いの起源となるのは、もう少し先の話――
お読みくださりありがとうございます♪
短めですが、この章はこれにて終いとなります。
活動報告にも書きましたが、この作品の更新について、
色々と考えた結果、この先は基本的に週2更新とさせていただきますーm(_ _)m
今後は水曜日&土曜日の週2回更新になります。
無理なく楽しく執筆していきますので、どうぞご理解のほどよろしくお願いいたしますーm(_ _)m
次回更新は8月23日(水)昼前です。
どうぞよろしくお願いいたします~m(_ _)m




