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招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~  作者: 都鳥
第七章

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7-5 月夜と狼

 客間だという、2階の奥にある部屋を使わせてもらえることになった。しかもクーも部屋に上げていいという。


「クーは外でも大丈夫ですが……」

「万が一だが、もしも森狼(フォレストウルフ)や魔獣が現れたら、この家は村の端にあるから真っ先に標的になる。クーは大人しいから、外に居て魔獣に襲われたら敵わないだろう」

 マルコさんがそう言ってくれた。


 でも本当は、クーは犬ではなくて月牙狼(ルナファング)という魔獣だ。まだ若い個体だとはいえ、相手が低ランクの魔獣くらいなら、やられっぱなしになることはないと思うけれど……

 でもまあ、せっかくそう言ってくれるのだから、お言葉に甘えさせてもらうことにした。


「ただ、クーが吠えないようにしてくれると助かる。と言っても難しいかもしれないが。この町の近くの森に最近森狼(フォレストウルフ)の群れが棲みついたんだ。そいつの鳴き声と勘違いされると面倒だからな」

 面倒どころか、村の人たちに余計な不安を与えてしまうだろう。さっき来た青年も、やたらとクーに(おび)えていた。

 それにこの家の人たちにも迷惑をかけてしまう。


「クーは利口なので、言い聞かせれば大丈夫です」

「クゥ!」

 僕の隣で、クーはぶんぶんと尾を振って応える。その様子がなんだかおかしくて、マルコさんと僕は吹き出してしまった。



 旅の荷物を片づけて、ベッドの準備をする。

 ふと見ると、いつの間にかクーは窓際に座り込んでいた。多分、今晩の月を見上げている。


 クーと一緒に旅をするようになって、月牙狼(ルナファング)は他の魔獣に比べるとかなり知性が高いことを知った。

 最初こそ僕らを敵視しているような様子をみせていたけれど、今は僕らは敵ではないと完全に理解したようだ。

 それだけじゃない。僕らの話も理解しているようにも思える。


 そう言えば、クーの親だった月牙狼(ルナファング)のレイスが完全に消滅するときに、あの狼の声を聞いた気がしていた。

 もしかしたら、あれは気のせいではなかったのかもしれない。なんとなく、そう思った。


 月牙狼(ルナファング)は月夜の晩に特に活発に行動するらしい。

 でも僕らの仲間になってから、クーは一度も無駄に吠えるようなことはしていない。それが月夜の夜であろうとも。


 でも今日のクーは違った。何やら落ち着きがない。

 窓際でそわそわと体を動かしているクーの隣で、同じように窓から月を見上げてみる。


 その時、遠くからかすかに獣の遠吠えらしき声が聞こえた。マルコさんたちが言っていた、森狼(フォレストウルフ)だろうか?

「クゥ~~」

 クーはひと声鳴くと、何か言いたげに僕の顔を見た。


「あの声が気になるのかな。でも吠えたらダメだよ」

 そう言うと、クーはやるせないようにバタバタと足踏みをする。まるで僕に抗議をしているようだ。


「ごめんね。でもこの村の人たちに聞こえたら、不安に思わせちゃうから。でもクーが悪い子じゃないのはわかっているから大丈夫だよ」


「クゥ~~」

 僕の言葉がわかったわけではないとは思う。クーは不満げにそう鳴くと、床にペタンと伏せて僕の顔を見上げた。


「……もしかして、外に出たいのかな?」

「クゥ!」


 僕の言葉に、クーは嬉しそうに尻尾を振った。


 クーは利口だし、無茶をするような子でもない。僕らの言うことも多分わかっている。そのクーが外に出たいというのには、きっと何か理由があるんだろう。


「わかったよ。でも危険なことをしちゃダメだよ。何かあったら、すぐに帰っておいで」

「クゥ!!」


 クーは返事をするようにひと声鳴くと、開いた窓から飛び出した。2階の窓だというのに、ものともせず着地をして、そのまま村の外に向けて駆けていく。夜の闇の中で、首輪に付いている鈴の不思議な音色が、どんどん遠くなり消えていった。


 弱い僕は、一人では何もできない。クーが何の為に外へ出たがったのかもわからない。

 今の僕には、クーを信じて待つことしかできないんだ。


 * * *


 朝の日の光で目が覚めた。ここはベッドじゃない。

 窓辺においてあったソファセットに腰かけたままで、クーの帰りを待っているつもりが、そのまま眠ってしまったらしい。


 そのクーの姿が見えない。あれからまだ帰って来ていないんだ!

 慌てて部屋を飛び出し、足音を抑えながら階段を早足で降りた。


「あら、朝早いのね。どうしたの?」

 もう台所に立っていたエラさんが、僕に気付いて声を掛けてきた。

「あ、おはようございます。ちょっとそのあたりを散歩してきます」

「ああ、そうね。クーちゃんも散歩させてあげないとね」


 エラさんはにっこり笑って僕を送り出してくれる。そのクーがまだ夜に出かけてまだ帰っていないだなんて、言えやしない。苦笑いをしながら、家を出た。


 村の門の方に小走りで向かった。門番の顔に見覚えがある。昨日の青年だ。


「よう!おはよう! 昨日は助かったよ」

「おはようございます。怪我した人はどうなりましたか?」

「ああ、君のポーションのおかげで傷は塞がった。もう大丈夫だろう」

 青年の言葉にほっと胸を撫で下ろした。

 

「クゥ!!」

 その時、遠くからクーの鳴き声が聞こえた。


 門の外側、森の方へ続く道の先に目を向けると、獣の群れがこちらに向けて走ってくる。

 クー…… だけじゃない。20頭近い狼たちだ。


「うわあ! あれは森狼(フォレストウルフ)の群れだ! 村の皆に伝令を! おい! 門を閉めるぞ、早く中へ入れ!」

 門番の青年に腕を(つか)まれ、無理やり門の内側に引きずり込まれそうになる。


「待ってください! あの先頭にいるのは、僕の従魔なんです!」

「何? 追われているのか!?」


 門番と一緒に、改めてあの群れを見る。群れは森狼(フォレストウルフ)の集団で、その先頭にいるのは間違いなくクーだ。でも追われているというよりも、むしろ引き連れているように見える。


「僕、クーを出迎えます」

「待て! 危ないぞ!」

「いえ、多分大丈夫です。そんな感じがするんです」


 伝令が回ったのだろう。いつの間にか、門の周りには村人たちが集まっている。門番の青年と村人たちが見る前で、門の外側に立った。


「クゥ!」

 僕の姿を見つけたクーが、ひときわ大きな声で嬉しそうに鳴く。


 クーが僕の目の前で立ち止まると、付いてきた森狼たちもクーの後方でぴたりと足を止める。狼たちは、揃えたように僕の方を見た。

お読みくださりありがとうございます♪


またブクマや『いいね』、感想もありがとうございます!!


この章は短めにしてありまして、次回で終わる予定です。

更新は8月19日(土)昼前の予定です。

ちなみにその日は、狩猟音楽祭に行ってまいりますーー♪ヽ(´▽`)/


どうぞよろしくお願いいたします~♪

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