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招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~  作者: 都鳥
第五章

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5-9 獣の正体

 目の前にいる黒魔犬(ブラックドッグ)だけでなく、倒れていたはずの2頭も崩れて黒い(もや)になり、僕の前にいる1頭に混ざり合っていく。

 その靄が再び形ある獣の姿をとる。3頭の黒魔犬(ブラックドッグ)だった獣は、3つの犬の頭を持つ1頭の魔獣に姿を変えていた。


「あれは……ケルベロス!?」

 魔物図鑑で見たことがある。でもおいそれと出会うことのない、珍しくてとても危険な魔獣だと書いてあったはずだ。そのケルベロスが、こんな町中にいるなんて。


「いいや、違う。ラウル、よく見るんだ」

 ジャウマさんの言葉で、もう一度魔獣を凝視する。

 先ほどの黒魔犬(ブラックドッグ)の姿より、二回りも大きな体躯(たいく)。3つの首を持つその体は、尾の先から3つの鼻の先まで真っ黒い毛で覆われている。そして異様なほどに、爛爛(らんらん)と赤く輝く目……


 あの目を、僕は知っている。あれは……

「黒い……魔獣……?」


「ハハッ。こんな所に居やがったとはなあ!」

 ヴィーさんが強い口調で言い放った。

「そうだ。そして普通の人間が、『黒い魔獣』を制御できるはずがない。何か仕掛けがあるはずだ」

 その声で例の貴族の男の方を見上げると、魔導具らしきものを手にしている。ジャウマさんが言ったのはあれのことだろう。きっとあれで魔獣を操っている。


「ありゃあ、ダメだな」

 僕と同じように、貴族を見上げていたヴィーさんが、つまらなそうに言い捨てた。何が、ダメなんだろう……?


「ラウル、油断するな。あれはもうもたない。来るぞ」

 ジャウマさんの言葉に続くように、何かが弾ける大きな音がした。


「うわあああ!!! ま、魔導具がっ!! これが無くては、アイツが!!」

 貴族の男の、慌てふためく声がした。あれはあの魔導具が壊れた音のようだ。


 グアアアア!!!!


 ケルベロスのような『黒い魔獣』の咆哮(ほうこう)で、闘技場がビリビリと震えた。その体がさらに大きく膨れ上がる。さっきの3倍ほどもあるだろうか。

「ヒィイイイッ!!」

 その姿に驚いたのか、今度はあの男の悲鳴が聞こえてきた。


 『黒い魔獣』はその巨体で大きく飛び上がり、3つの(あぎと)で僕らに襲い掛かってきた。

 僕は咄嗟(とっさ)に結界を張り、僕の一歩前に出たジャウマさんが魔獣の顎を大盾で防いだ。


 組み合った一人と1頭は一度離れ、今度はジャウマさんが魔獣に向けて大剣を振り上げる。


「お、おい、お前たち! そ、その魔獣を倒す許可をやろう!」

 また上から声が降ってきた。

「ああ!?」

 男の偉そうな物言いに、ヴィーさんが悪人の様な荒げた声を上げる。

「別に俺らはこいつが町中(まちなか)に逃げ出しても全然構わないけどな! ジャウ、もうほっぽって帰ろうぜ」


「ええっ!?」

 いや、この『黒い魔獣』が町中(まちなか)に逃げ出したら、一体どんな恐ろしいことになるのか、わからないはずはないだろう。

 きっとヴィーさんのハッタリだろう。で、でも……


「ま、待て待て、わかった! た、頼むからそいつを倒してくれ! もし逃げだして騒ぎになったら、私が困るんだ!」

 その言葉に、チッとヴィーさんが面白くなさそうに舌打ちをする。

「なら、あの二人を解放してもらおう。こいつを倒すには、あいつらの力がいる」

「わ、わかった! 少し待て!」


 二人の邪魔にならぬよう、後ろにそろそろと後退しながら貴族の男の様子を見る。

 貴族は屈強な戦士二人の後ろで守られながらも、ジャウマさんの戦いに注視している。

 この場から逃げ出さない度胸はあるんだなと感心したところで、どうやら腰を抜かしているらしい

ことに気が付いた。動けなくなっているだけのようだ。


 視線を戻し、魔獣とジャウマさんの戦いをしばし眺める。決して負けてはいない。でも勝とうとする様子もない。

 というか、多分手加減をしている。たまにヴィーさんが助けの攻撃をしているが、あれは攻撃というよりも、魔獣の気を散らす程度にしかなっていない。

 あの二人が解放される前に、倒してしまわないようにしているのだろう。


 と――

 穏やかではない、何かの気を感じた。そっと結界を解いてみる。

 結界越しにもうっすらと感じていたが、解くとこの気配がはっきりとわかる。ゆらゆらと強い魔力がこの建物を取り囲んでいた。


「あー、こりゃあ、お嬢が怒っているなぁ」

 ヴィーさんが言う。お嬢って? アリアちゃんが怒ってるって??


「連れてきました!」

 貴族の手下の声がして、ヴィーさんがそちらを振り返りもせずに、声をあげた。

「お前たちを迎えにきたんだが、まずはこいつを倒さなきゃいけない。セリオン、頼む!」


 それに対する返事は、言葉ではなく行動だった。

 僕らの後ろ上方から、無数の氷の刃が飛んでくる。それらは3つ頭の『黒い魔獣』に突き刺さり、動きを止めた。


 間髪入れずに、ヴィーさんがクロスボウの矢を次々と撃ち込んでいく。魔獣が大きく(ひる)んだところへ、ジャウマさんが大きく踏み込み、大剣を振り下した。


「クゥ!!」

 不意にクゥが鳴いた。まるで僕に向かって何かを促すように。

「クゥ、どうした――」

 僕の横を、誰かが静かに通り抜けていった。


 慌てて顔をあげると、それはアリアちゃんだった。

「アリアちゃん、前に出たらダメだ!」

 そうだ、アリアちゃんは僕が守らないと!

 彼女の手を取って引き戻そうとして、気が付いた。何かが、おかしい。


 アリアちゃんは、魔獣に向かってただ歩いているだけだ。それなのに『黒い魔獣』から漏れ出している黒い靄が、アリアちゃんの全身にゆらゆらと(まと)わりついている。


 彼女に向かって伸ばした手を、それ以上差し出すことも、引っ込めることもできずに、アリアちゃんが『黒い魔獣』に歩み寄る姿を、僕はただ見送った。

お読みくださりありがとうございます~~(*´▽`)


こちらの第五章は、12話構成になりそうです。

おおよそ書けてはいるので、まとめ頑張ります!!


画力も欲しい今日この頃……


次回更新は6月17日(土)昼前予定です。

どうぞよろしくお願いいたします!!

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