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招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~  作者: 都鳥
第四章

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4-4 子供たちと遊ぶ

 夫人が扉を閉じる音を聞いて、孤児院を後にした。

 門へ向かう途中でふと上の方から視線を感じ、孤児院の建物を見上げた。階上の開いた窓からこちらの様子を(うかが)っている少年がいる。


「あれ? 君は??」

 昨日、僕にぶつかってきた少年だ。ここの子供だったのか…… 彼は僕に気が付くと、慌てた様子で顔をひっこめた。


「自警団には寄らなくていいとヴィーが言っていたので、見逃してやってくれ」

 セリオンさんが、僕にだけ聞こえるような小さな声で言った。


「あ…… は、はい」

 詳しくはわからない。でも昨日の件については、ヴィーさんが丸く収めたのか、それとも問題ないと判断したのか、そんなところだろうか。


 少し先へ進んだセリオンさんを追って、足を早めた。また上から少年の視線を感じても、そちらに視線を向けることはしなかった。



「自分で持っていけばいいと思うのにな。毎回こうやって、ヴィジェスにこき使われる」

 しばらく歩いたところで、僕が尋ねる前にセリオンさんがボヤくように言った。さっきのお金のことだ。


 つまりヴィーさんは、あの盗みを働いた少年の一件を解決し、さらにこの孤児院の状況を知ったのだろう。その上で自分の代わりに寄付をしてきてほしいと、遠回しにセリオンさんに頼んだわけだ。

 しかもそれは、今回が初めてのことではないらしい。


「まあ、ヴィーが金を持っていっても、その金の出どころが疑われかねないからな」

 ああ確かに、そうかもしれないけれど……

 てか、セリオンさんって、結構きついことを言うんだよな。


「後でヴィーが子供たちの様子を聞いてくるだろうから、それに答えてやってくれ。こういうことは私には向いてないんだ」

 セリオンさんは、僕の方を見ずに言った。



「クゥ!!」

 行く先から、月吠狼(ルナファング)のクーが嬉しそうにこちらに向けて走ってくる。冒険者ギルドの前で、ジャウマさん、ヴィーさん、アリアちゃんが僕らを待っていた。


 どの町でもするように、冒険者ギルドに入ると真っ先に依頼掲示板の前へ行く。

 あれから、幾つかの町で依頼をこなしてきた。でも僕のランクは相変わらずDのままだ。まあ、仕方ないよな。魔獣を倒すことができないんだから。

 冒険者ランクをあげる為には、依頼を受けて実績を積むだけでなく、『ランクに見合う依頼』を受けて成功させなければならない。冒険者ランクをCに上げるには、森狼(フォレストウルフ)クラスの魔獣を倒す必要がある。


 流石に僕一人では無理だ。ヴィーさんたちが手を貸してくれるという話も、結局は断った。

 ランクアップをすれば、ジャウマさんたちが受ける討伐依頼に同行できるようになる。でも僕が戦闘に参加できるわけではないし、今の僕の実力だとむしろ邪魔にしかならないだろう。


 それにランクアップをすると、今度は低ランクの薬草採集の依頼が受けられなくなる。別に依頼以外で薬草採集をするのは構わないし、需要があるなら冒険者ギルドが買い取ってくれる。でも依頼で納品した方が買取価格は高い。


 それならば、すぐにランクアップをしたい理由はない。

 ジャウマさんたちも、この僕の意見を認めてくれた。それに普段はアリアちゃんと危険の少ない場所で薬草採集をしている方がいい。


 いつものように、ジャウマさんたちは上位魔獣の討伐を受ける。僕は無理のない程度の採集依頼を受けて、アリアちゃんとクーと一緒に町を出た。


 * * *


 依頼対象の薬草は、思ったよりも早くに見つけることができた。それ以外にも自分で調合してみたい薬草をいくつか見つけ、マジックバッグに詰め込んで町に戻った。


 アリアちゃんとクーと一緒に、公園脇を歩いている時に、子供たちの(にぎ)やかな声が耳に入った。その様子がとても楽しそうで、なんとなく視線がそちらに誘われる。どうやらでボールを追いかけて遊んでいるらしい。


「あ、さっきのおにいちゃんだー!」

 子供の一人が僕を見つけて元気な声をあげた。言われて気が付いた。そうだ彼らはあの孤児院の子供たちだ。


 知っている人とわかってか、遊んでいた子供たちが僕らの周りに集まってきた。

「ラウルおにいちゃん、この子たちしってるのー?」

 集まった子供たちの勢いに戸惑いながら、アリアちゃんが()いてくる。

 アリアちゃんは『この子たち』と言ったけれど、アリアちゃんの方が年下に見える。それがちょっとおかしくて、笑いながら答えた。

「ああ、今日セリオンさんと行った施設に居た子たちだよ」


 子供たちはあまり人見知りをしないのか、やけに人懐っこいようだ。それとも獣人のアリアちゃんが珍しいのかもしれない。

 しかも、もうクーは幼い子たちにモフられている。


「ねえ、あなたも一緒に遊ぼうー」

 子供たちに誘われて、アリアちゃんはわたわたと戸惑った様子で僕を見上げた。上目遣いの目が、不安そうに垂らしたその眉が、僕にどうしたらいいかを尋ねている。

「えっと、ラウルおにいちゃん……」

 でも兎の耳はぴくぴくと動いている。どうやらアリアちゃんも子供たちと遊びたいようだ。


 アリアちゃんは普段から、ジャウマさんたち大人ばかりに囲まれている。そのせいか、年齢よりも大人ぶって見せてはいるけれど、アリアちゃんだってまだ幼い子供だもんな。

 本当は僕に付き合って薬草採集をするばかりでなく、あの子たちのようにボール遊びもしたいんだろう。


「アリアちゃんも皆と遊びたいんでしょう?」

 そう聞くと、少し驚くように目を開く。

「い、いいの……? でも、薬草さいしゅーのほうこくに行かないと……」


「うん、でもまだ時間は早いから大丈夫だよ。それに今日採ってきた薬草の調合も試してみたかったし。僕はここで調合をしているから、見えるところでなら遊んできても大丈夫だよ」

 そう伝えると、アリアちゃんの顔がパッと明るくなった。


「うん! いってくるね!」

 そう言って、子供たちのもとへ走り出す。その後ろから、クーも嬉しそうに追いかけていった。

お読みくださりありがとうございます。


ちょっとほのぼの回でした(*´▽`)

アリアも、前から子供たちと遊びたかったんですよね。


次回の更新は5月10日(水)昼前予定です。


どうぞよろしくお願いいたします~~♪

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― 新着の感想 ―
[良い点] 孤児院に寄付する適任はセリオンさん(見た目) 行く先々で必要があれば寄付してるんだろうなあ… ヴィジェスさん優し〜!!ジャウマさんも 新たに仲間になったクーは完全に懐いてますね! 良かっ…
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