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招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~  作者: 都鳥
第三章

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3-9 黒い魔力

 先日訪れた時と違って、食堂は表の店舗だけでなく奥の部屋も真っ暗になっている。裏手に回り込んだセリオンさんは、構わず裏口の扉を叩いた。


 少し待つと、あの時のようにそっと扉が開いて、わずかな隙間からおじさんがこちらを(のぞ)き見た。

「こんばんは。少し確認したいことがあるので、失礼いたします」

 セリオンさんはそう言うと、その扉の隙間に手をかけて強引に開いた。


「えっ!?」

 驚いている僕とおじさんを放って、セリオンさんは勝手に家の中に入って行く。それを見て、おじさんは慌ててセリオンさんの後を追った。


「な、何をするんだ!」

 おじさんはセリオンさんの腕を(つか)んで引き止める。セリオンさんは振り返っておじさんの顔をじっと見た。

「息子さんはどちらですか?」

 その問いに、一瞬おじさんは止まって、それから目を()らせた。


「む、息子は……ここには居ない…… 冒険者になって町を出ていって……」

「帰ってきているのでしょう?」

「な…… なんでそれを!」


「先日お伺いした時に、息子さんとすれ違いました」

 ボアの肉を持ってきた、あの時のことだ。

「でも、あの息子さんはもう、生きてはいない」


 ――その言葉に息を呑んだ。

「あの息子さんは、とっくに亡くなっています。あれは魂だけの怪物、レイスです。貴方は……それを知っていたんですよね」


「父さん――」

 声がした方を見ると、あの時の青年が立っていた。


 * * *


「いつからか、自分の中に他の者とは違う『黒い魔力』があることに気付いていました。なんとなくですが、これが他の人に知られてはいけないような、そんな風にも感じていました。でも幸いにもそれだけで、この『黒い魔力』が何か悪さをする訳ではなく、日々平穏に暮らせていました。生まれた子供にも、私ほどではありませんが、この『黒い魔力』がありました。だから私は、息子が冒険者になることに……この町を出ていくことに反対したんです」


 この町で大人しくすごしているうちなら大丈夫だろう。でもこの町でないどこか他の町に、この『黒い魔力』のことを知っている者がいたら…… このことがバレてしまったら……

 そんなおじさんの心配を余所(よそ)に、息子さんは冒険者になって、町を出て行ってしまった。そして――


「私は毎日、息子が帰ってくることをずっと願っていました。そしてある晩、ようやく息子は帰ってきました……」


「でも、その息子さんはレイスだったんですね」

「はい……」

 そう言って、おじさんは()えるように顔を(ゆが)ませ、項垂(うなだ)れた。


「私にはすぐに、その息子が死人であることがわかりました。でも息子は死人であるにも関わらず、まるで生きている人間のようでした。せいぜい顔色が悪いように見えるくらいで…… 息子の帰宅を妻はとても喜んだ。だから私は、妻に真実を伝えることができなかったんです」


 そうして夫婦は、毎晩レイスとなった息子をこっそりと迎え入れていた。でもおそらくおばさんも、何かがおかしいと思って黙っていたのだろう。だから息子さんの帰宅をずっと隠していたのだろう。


「でも満月の晩に、町に月牙狼(ルナファング)が現れたんです。あの月牙狼はレイスとなった息子を追ってきたんじゃないかと、そう思いました。だから旅の冒険者が忘れていった魔獣除けの結界を部屋に張って、3人で隠れていたんです。でも――」

 おじさんが息子さんの方を見ると、彼も黙って(うなず)いた。



 あの月牙狼(ルナファング)の時と同じように、アリアちゃんがおじさんと息子さんに手をかざして『黒い魔力』を吸い取った。

 おばさんもレイスとなった息子さん自身も、彼がすでに死んでいることをわかっていたのだそうだ。だから3人とも、黒い魔力を抜き取ることを反対もせずに受け入れた。


 でも息子さんを見送る時、3人ともずっとずっと泣いていた。


 * * *


 公園に戻ると、ジャウマさんとヴィーさんが周囲の片付けを済ませて待っていた。

「終わったか」

「ああ」

 それだけ、言葉を交わす。


「うん?」

 ヴィーさんが変な顔をして、離れた茂みの方に視線を向けた。つられてそちらの方を見ると、確かに何かがいる気配がする。

 と、ガサリと音を立てて、何かがそこから飛び出して来た。


 茂みから現れたのは狼の子供のようだった。こちらを(にら)みつけながら牙を()きだし、グルグルと(うな)り声を上げている。


「わんちゃん?」

「……さっきの月牙狼(ルナファング)の子供……なのかな?」

 その仔狼は幼いというほどではないが、でもまだ年若い。小さく見えるのはひどく()せている所為(せい)もあるのかもしれない。


 ぼくの言葉に、セリオンさんはふぅとため息を()いた。

「きっと、私たちを親の(かたき)だと思っているのでしょう。月牙狼(ルナファング)は他の狼種に比べると成長が遅く、その分親は長く子供を手元で育てます。その所為か親子の絆がとても強いのです……」


「そっか……」

 アリアちゃんにもわかったようだ。彼女は寂しそうに言うと、とことこと仔狼に向けて歩み寄った。でもその3歩前で立ち止まる。

「ごめんなさい」

 まだ唸りながら牙を剥く狼にそう言って頭を下げた。


 そのままでじっと動かないアリアちゃんに、仔狼の唸り声はだんだんと小さくなっていく。(くすぶ)っていた焚火(たきび)の火がだんだんと消えていくように、静かにその声が止むと、仔狼は振り返って走り去っていった。


 でも彼女はまだ頭を下げたままで、上げようとしない。

「アリアちゃん……?」

 アリアちゃんの肩にそっと手を当てると、(うつむ)いたままの彼女から、(あふ)れた雫がポタポタと地面に落ちて染みた。

お読みくださりありがとうございます(*´▽`)


また、ブクマや評価などもありがとうございます!


一応事件は解決したようです…… が……


次回でこの章は終わりとなります。

更新は4月26日(水)昼前予定です。


どうぞよろしくお願いいたしますーm(_ _)m

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