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招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~  作者: 都鳥
第三章

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3-8 月牙狼(ルナファング)

 ジャウマさんの振り下ろした大剣が土埃(つちぼこり)を巻き上げ、ヴィーさんの放った矢が公園の木々に突き刺さる。そしてセリオンさんの放った魔法は公園のベンチを白く凍らせた。


 おかしい…… 3人の攻撃が全く月牙狼(ルナファング)に届いていない。

 当たったように見えているのに、それらは狼の体をすり抜ける。まるであの狼が霧か煙かでできているかのように。


 今度はその月牙狼(ルナファング)がジャウマさんに向かっていった。ジャウマさんはそれを防ごうと大盾を構える。

 ――が、その狼は大盾をすり抜けて、盾を持つジャウマさんの腕に噛み付いた。


「ぐっ!!!」

 その腕に牙が食い込み、ジャウマさんの顔が(ゆが)んだ。が、すぐに足を踏みしめて、狼を振り払う。月牙狼(ルナファング)は器用に空中で体勢を整え、何事もなかったかのように着地した。


 ジャウマさんが噛み付かれた腕を軽く(さす)る。一瞬傷が付いたように見えいた腕からは血の跡が消えていた。

「なるほど」

「確かに、あれは俺ら向けの敵、だな」

 ヴィーさんが、ふっと鼻で笑う。

「そうだな。こいつは普通の冒険者では狩ることができない」

 セリオンさんは振り上げていた(ロッド)を少し下に向けた。


 3人が口にした言葉に、彼らの顔を見回した。

「それはどういうことですか?」


「あれはもう死んでいる」

「え……? じゃあ、あれはレイス……?」


 死んだ者の魂が何かの力によって、魂だけで彷徨(さまよ)い他者を襲う怪物と成り果てたものだ。でも、人間や獣人のレイスならわかるけど、魔獣のレイスなんて聞いたことがない。それに……


「まあ、似たような物だろう。すでに死んでいるが魂だけで動いている。いくら倒そうと思っても、魂しかないのだから攻撃のしようがない」

「でも…… あれはまるで、本物の……生きている狼のようです」

 そうだ。実体を持たないレイスならば、あんな風に噛み付いてきたりはできない。


「どういう経緯かわからんが、神魔族の力を取り込んだのだろう。まあ、あれは残り(かす)みたいなもんだが。その魔力と月の魔力でああして実体化しているだけだ」


 ……聞きなれない言葉を聞いた。

「しんまぞく?」


「しんまぞくは、私たちのじゃまをしているのーー」

 アリアちゃんが僕の腕にしがみつきながら、何でもないような風に言う。

「ええ!? じゃあ、あの『黒い魔獣』も?」

「ううん、あれはちがうのーー」

 アリアちゃんが可愛く首を横に振った。


 そうなのか…… じゃあ、あれとは別に敵がいるってことなんだろうか。

「じゃあ、あの月牙狼(ルナファング)のレイスは、その僕らの邪魔をしている敵が作り上げたとか?」

「それもちがうーー。でもあれは、ないているよ」


 え……? ないている??


『私にはまだ――』

 一瞬、何かの声が聞こえた気がした。



「まあ、普通の冒険者ならあいつは倒せねえな。でも俺らは違う」

 そう言ったヴィーさんの(まと)う気配が、いつもとは違っていることに気がついた。人の姿をしているのに、気配だけは獣の姿になったときの、それの様だ。

 ヴィーさんだけじゃない。ジャウマさんも、セリオンさんも。3人共、さっきまではいつも通りだったのに……


 ヴィーさんが手にしたクロスボウを月牙狼(ルナファング)に向けた。ボウから放たれた矢が狼に突き刺さる。


 ギャン!!

 月牙狼(ルナファング)がはじめて悲鳴をあげた。


「やっぱりこの攻撃なら効くみたいだな。ジャウ!!」

 一瞬(ひる)んだ月牙狼(ルナファング)は、体勢を立て直してこちらに飛び掛かってくる。

 ヴィーさんに名前を呼ばれたジャウマさんは皆の前に飛び出すと、それを受け止め、狼の頭を(つか)んで抱え込んだ。

 狼はジャウマさんを払おうと頭を振るが、少し揺れるだけで全く効いている様子はない。


 さっきまでとは全然違う。何をしたのかわからないけれど、今は月牙狼(ルナファング)への攻撃が普通に通じている

「獣の力を乗せているからな」

 何も言っていないのに、僕の疑問がわかったかのように、セリオンさんが言った。


 セリオンさんが(ロッド)を振り上げると、ジャウマさんと狼の周りに氷柱がいくつも現れた。さらに氷柱の冷気で、あたりは霧につつまれ白くぼやけた。


「アリア、俺が押さえているうちに、頼む」

「はーい」

 え? なんで、ここでアリアちゃんが……?

 ジャウマさんに呼ばれて、アリアちゃんがとことこと狼に歩み寄る。白い霧の中、アリアちゃんが月牙狼(ルナファング)に手をかざした。


 狼はあの時の大蛇のように端から崩れるように黒い(もや)にかわっていく。その靄はするするとアリアちゃんの手に吸い込まれていく。


 その様子を一緒にみていたセリオンさんが、僕の隣でポツリと悲しそうに零した。

「きっとこいつは……神魔族の力に狂わされていただけなのだろう」


 ……僕の耳にはセリオンさんの言葉だけでなく、何かの声が聞こえている。

『良い……私は人の町を襲った…… 何かに狂わされていたとしても、襲った事実にはかわらない』


「え……?」

 今の声は、どこから……?

「ラウルくん、どうかしたのか?」

「いえ…… あの狼の声が、聞こえているような気がして……」


『ただ、私にも(ながら)えたい理由(わけ)があったのだ…… 願わくは、あの子を――』


 カシャーーン!!


 その時、月牙狼(ルナファング)の周囲に立っていた氷柱が次々と弾けるように砕けた。

 砕けた氷の柱の欠片とともに、辺りに漂っていた白い霧が消えると、月牙狼の姿は消え魔結晶だけが残されていた。



「ラウルくん」

 静かにただその光景を見ていた僕の名を、セリオンさんが呼んだ。


「あの食堂店主のご夫婦の所に行く。君もアリアとともに来てほしい」

「ええ? 何でですか?」

「おそらく、この月牙狼(ルナファング)の件にはあのご夫婦も関係している」

お読みくださりありがとうございます。


ブクマなどなどありがとうございます~(*´▽`)

この先も頑張って、書き進めております! が、頑張ってます……!!


月牙狼が倒されて終わり……ではなく、もう少しこの章は続きます。

次回の更新は4月24日(月)昼前予定です。


どうぞよろしくお願いいたします!!

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