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【おまけ閑話1】星の舞う空へ願いをかける(七夕閑話)

「うわあ!」

 町の光景を見たアリアちゃんが、嬉しそうな声をあげる。その声と一緒に、彼女の金の髪と黒い兎の耳も嬉しそうに揺れた。


 今日はお祭りなのだそうだ。町のあちこちに笹の枝が飾られており、その笹の枝に色紙で作った色とりどりの飾りが付けられている。

 笹飾りたちはまるで一番高い場所を競い合うように、各家の二階の窓や、集会所の櫓の上など、空に近い場所にたくさん据えられている。

「こいつはなかなかな光景だな」

 ヴィーさんが言うように、青い空に揺れる無数の笹飾りが揺れる光景はなかなかに壮観で、とても綺麗だ。

 その言葉を聞いて、アリアちゃんはヴィーさんに可愛い笑顔を向けた。


 アリアちゃんの3人のパパは、それぞれアリアちゃんへの接し方が違う。

 この一行のリーダーでもあるジャウマさんは3人のうち一番体が大きく逞しい。旅の途中で疲れたアリアちゃんを抱きあげたり、街中で肩車をしてあげたりするのは、ジャウマさんの役目だ。


 祭りの話を聞いて皆をこの村へと誘ったのは、セリオンさん。クールで口数は少なめだが頭が良く知識も多い。規則や礼儀にも厳しく、アリアちゃんには勉強やしつけを教えていることが多い。


 ヴィジェスさんは、そのセリオンさんに良く叱られている。ヴィーさんのラフさはセリオンさんにはいい加減な態度に見えるらしい。実際にはやっぱりいい加減だと思うこともあるけど。

 そのラフな性格もあってか、アリアちゃんの遊び相手になることも多い。


 まだ幼いアリアちゃんの手を握っているのは、今日もヴィーさんだ。でもアリアちゃんの反対の手が僕の手と繋がれているのはなんでだろう?


「よっしゃ、見てまわるか!」

「うん! ラウルおにーちゃんもいっしょにいこー!」

 そう言ってアリアちゃんは僕ににっこりと微笑む。

「あ、ああ。うん」

 戸惑いながらも返事をすると、アリアちゃんは嬉しそうに僕の手をぐいと引っ張った。



 お祭りらしく、町には屋台もたくさん出ている。美味しそうな匂いをたてている串焼き肉や、焼いた肉を挟んだパンを売っている屋台。こちらでは、食べやすいようにカットした果物や、色とりどりのキャンディーを売っている屋台もある。

 アリアちゃんとヴィーさんと僕の3人であちこちの屋台を覗き、匂いや見た目に惹かれながら食べ歩きみたいなことをして、さらに歩いていくと町の広場らしき所に出た。


 その広場をぐるりと囲むように、少し大きな笹が飾られている。その笹の枝には今まで見ていた飾りと別に、言葉を書いた短冊が吊るされていた。

 その言葉を読むと、どうやら願い事のようだ。

 強くなりたい、かっこよくなりたい、可愛くなりたいというような微笑ましい願いから、家族の病気が治るようにとの切実な願いも。さらに、金持ちになりたいなど、なかなかに図々しいような願いも書かれている。


 ヴィーさんがそんな願いを読んで茶化すのを聞きながら、アリアちゃんとそれらを眺めていると、広場にいた若い女性が僕らに声を掛けてきた。


「旅の方ですか? よろしければ貴方がたも願いを書いて飾りませんか?」

「おお、いいな! なあ、アリア。お前も書いてみるか?」

 ヴィーさんの言葉に、アリアちゃんは嬉しそうに両手を挙げて跳ねながら、うんと答えた。



 女性から渡された短冊とペンは二人分。願いを書くのは子供だけだそうで、これはアリアちゃんと僕の分らしい。……僕は16歳だから、本当は子供じゃないんだけどな。

「ラウルおにいちゃん、一緒に書こうー!」

 そう言って嬉しそうに僕を見上げるアリアちゃんの顔を見たら、断るなんてできない。一緒に書き物台に向かった。


 どんな願いを書こうかと、うんうんと頭を捻っている僕らの後ろで、ヴィーさんがさっきの女性をナンパしている。

「なあ、こいつはどんな祭りなんだ?」

 あ、いや。これはナンパじゃないな。普通に祭りのことを聞いているだけだ。

 子供連れなので、女性も安心しているのだろう。ちょっと目つきが怖いヴィーさんを警戒する様子もなく、にこやかに答えてくれた。


 昔々、神様がまだ人間たちと共存していた時代の話だそうだ。

 この地方を護る神には、美しい姫が居た。その姫神を、ある牛飼いの男が見初めたのだそうだ。そしてその姫神も誠実で心優しいその若者に心惹かれていた。

 しかし相手はただの人間の男だ。可愛い娘をくれてやるわけにはいかない。神様はその男に無理難題を出した。

『お前が自分の力で、この空を星で飾ることができたのなら、娘と一緒になることを許してやろう』

 空の星など、人間の手に届くわけもなければ、集めることもできやしない。男は牛を追いながら、どうしようかと思案にくれていた。

 すると、追っていた牛たちが男が追うのに逆らい、ずんずんと山の方に向かっていく。慌てて牛を追いかけた男は、山の麓である物を見つけた。


「それがこの『星笹』なんですよ」

 そう言って、女性は飾ってある笹飾りの葉を手元に寄せてみせた。

 言われて見れば、不思議な葉の付き方をしている笹だった。それぞれの枝の先の方にだけ、5枚の葉が綺麗な放射状を描くようについていて、『星笹』の名のとおり、その葉が確かに星の形に見える。


「牛たちに教えられたその『星笹』を、男は村に持ち帰って、こんな風に空に届くように飾ったんだそうです。それを見た村人たちも、いつも自分たちを助けてくれている牛飼いを手伝おうと『星笹』を集め掲げた。たくさんの『星笹』が飾られた村は、こんな光景だったのかもしれませんね」

 女性は僕らの視線を誘うように、広場に掲げられた笹飾りたちを見上げた。ああ、そうだよな。話を聞いてから、この『星笹』の舞う空を見あげると、その若者と村人たちの手によって作られた、優しい星の海のようにも思えてくる。


「牛飼いと村人たちの行動に心打たれた神様は二人の仲を認め、、姫神様はその男と結ばれることができたそうです。そしてその牛飼も、神の仲間入りをして天に昇ったと言われています」


 それから、その年も彼らの恋路が続くようにと、この祭りが行われるようになったのだと。そして、男が姫神をと神に願ったように、皆もこうして神への願いを書いて一緒に捧げるのだそうだ。


「祭りが終わったら、この『星笹』を二人の恩人である牛たちに与えるんですよ。この『星笹』は牛たちの好む味で、しかも栄養満点。これからの暑い夏の時期を乗り切る為の栄養補給にピッタリなんです」

 なるほど、この笹たちも無駄にならず、ちゃんと最後まで役立てられるらしい。


 女性の話を聞いていて、短冊に願い事を書く手が止まってしまっていた。気付くと、隣のアリアちゃんも、興味深い表情で女性の話に聞き入っている。「……やっぱり、好きな人とは一緒にいたいよねぇ」

 そんな事を言いながら、うんうんと頷いている。

 好きな人って…… アリアちゃんは、見た感じまだ5歳くらいなのに。好きな人の話をするには、まだ早くないか?

 僕が見ている前で、アリアちゃんは何かを決心したような表情になると、願い事を書き始める。


『みんなとずっといっしょにいられますように』

 短冊には可愛い字でそう書かれていた。


「みんなのこと、だいすきだよぉ」

 アリアちゃんが僕らに短冊を見せながらにっこりと笑う。

「おおお、アリア! 俺もアリアのことが大好きだからなー!」

 ヴィーさんが嬉しそうに表情を崩しながら、アリアちゃんを抱き上げた。


 そうだよな。好きってそういうことだよな。笑い合う二人を見ながら、微笑ましい気持ちになった。


「ラウルおにいちゃんは、お願いきめた?」

 アリアちゃんの言葉を聞いて、うんと頷いてみせる。

 僕もアリアちゃんやみんなと一緒に居られるように。僕もアリアちゃんの願う『みんな』の一人になれるように。

『もっと強くなれますように』

 弱い僕はこのままじゃだめだ。皆と一緒に居られる為にもっと強くならないと。これは願いというよりも、僕の決意だ。


「僕も頑張るね」

 そう言うと、アリアちゃんは嬉しそうに笑いながら頷いた。 

 お久しぶりでございますm(_ _)m


 SNSにて主催している七夕タグイベントに合わせて、久しぶりに彼らの話を書いてみました。

 彼らが一緒に旅に出るようになって、まだいくつ目かの村か、そのくらいの時系列の話になります。

 まだクーもいない頃ですね。


 アリアはずっとずっと、みんなと一緒にいたかったんですよね。

 家族のいないアリアにとっては、彼らが本当に大切な家族でもあったんです。

 作者の自分は物語の流れも知っていますので、ちょっと切なくなっちゃいます。


 彼らの物語をまだ読まれていない方は、よろしければ読んでみてください♪

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